プロローグ~act.Wa~
私は旅をしています。
いつ、何故旅を始めようと思ったのか?そんな理由を忘れてしまうくらいに長い間を私は一人で過ごしてきました。当てもなく、気の向くままあっちに行ったり、そっちへ向かったり。たまに顔見知りになった人からの仕事や村の小さな問題ごとを片付けたりして生活しています。
たまに「一人は寂しくないか?」と聞く人がいますが、私は決まってこう答えます「一人が好きなのです」と。
そう、一人でいいのです。私は長い時を生きる種族です。ですから人間と仲良くなっても、最終的には私はこの世界に置き去りにされてしまいます。
私の仲間はもう、数えるほどしか残っていません。だから、私はずっと一人でいい、一人がいい。
ずっとそう思っていた。これからもそう思っていく。その筈だった。
それなのに、私は、彼を……。
* * * * *
私の名前は、和雨といいます。
途方も無く長い間私は当てもなく旅をしてきました。そして、これからもそうしていきます。
私達に似ている友人は、何年も前に絶滅しました。私と同じ種族の仲間は、絶滅した友人と間違えられて殺されたり、何もしていないのに人間達の恐怖の対象として殺されたりして、私を含めても両手の指くらいの数しか残っていません。
私は、人間ではありません。私は二つの姿があります。人間の姿と、中型犬と同じくらいの大きさの狼。そう、私は人狼なのです。どちらの姿が本当の姿ということはないです。人と同じ姿、ニホンオオカミと似た姿。どちらも本当の私。
人狼である私は、長い年月を同じ姿で生きます。それなので、人間達と長い期間は暮らせません。同じ人狼の仲間と暮らしていればそんな心配はないのですが、私はそうはしませんでした。私は私が産まれた場所の事以外のことにも興味がありました。周りの人達は人間を「恐ろしい生き物」だと言うけれど、私はそんな言葉より本当に人間を見てそれを知りたいと考えました。
そうして私は旅を始めました。恐いことも悲しいことも沢山経験してきました。けれどもそれよりも多くの楽しいこと嬉しいことを人間達と共有しました。人間も私達と同じ。いい人も悪い人もいるということがわかりました。
もっと沢山のことが知りたい。そう思って、私は今も旅を続けています。
今日はどんなことが起こるのでしょうか?