Boy's Side 3 ~吉報を報告しよう~
元々数学は苦手だったけれど、高校数学ともなると最早太刀打ち出来る気がしない。溜め息を栞代わりに挟んで教科書を閉じる。
代わりに携帯の着信履歴を開いて一番上の番号にかける。鳴らない電話はこういう時、便利だ。件数の少ないアドレス帳を嘆くこともせずに済む。もっとも、代わり映えのしない着信履歴もそれはそれで切ないものがあるけれど。
相変わらずの声が電話越しに響いた。
「おう、どうかしたか、和泉?」
「一応、報告しておこうと思って」
別に急ぐ話でもないけれど、エージにすればその吉報は一刻も早く聞きたいだろう。
「八十島さんが入部してくれるって」
「おぉっ!マジか!?すげぇじゃん!」
エージのリアクションに笑みが溢れる。噂の才女の入部にエージが色めき立つのは予想していたけれど、想像以上だ。驚きと喜びに満ちたエージの顔をこの目で見られなかったのは少し残念だけれども、それでも十分満足のいく反応だった。
「そんなつまらない嘘、吐かないよ」
「いや、だって「前向きに検討させてもらうわね」とか言ってたし。あれ、無理かなーって思ってたんだぜ?」
微妙に似ている声真似に吹き出す。
「やるなぁ、和泉。どうやって口説いたんだよ?」
「口説くって……普通にお願いしただけだよ。他に女子の部員が入ったのが大きかったんじゃないかな?」
「あぁ、大江山さんだっけ?」
隣のクラスの大江山さんは二つ返事で入部してくれた。「わ、私なんかでお役に立てるのでしたら!」と言って力む姿は、見ていて何だか微笑ましかった。
「今時眼鏡で三つ編みおさげの女子高生なんて、絶滅危惧種じゃねーの?」
「エージ、それはちょっとあんまりだよ」
「でも、大江山さんが入部するから私も、ってタマじゃないだろ、八十島さんは」
「女の子のことをタマとか言うなって。でも確かに八十島さんって、我が道を行くって言うか、他人を自分の行動理由にする様な人には見えないよね」
「だろ?ん?あれ?でもそう言えば言ってたな。「男女川さんがやるって言うのなら考えなくもないけど」って。アレってどういうことだ?」
「それは僕じゃなくて当人に聞いてよ。答えてくれるかどうか知らないけど」
「教えちゃくれないだろうなぁ~……ま、何はともあれ。遂に和泉ハーレムが現実のものになるのか。羨ましいねぇ」
「ハーレムとか言うなよ。大体、ハーレム作る気だったら、エージは呼んでない」
折角作ったところで横から掻っ攫われてしまうのが目に見えている。
「お?そんなこと言っていいのか、和泉?」
「な、何だよ?」
エージの不敵な声に慄く。
「大事だぜー?重要だぜー?幼馴染枠って」
「要らない」