Girl's Side 3 ~帰路~
地方都市の悲しいところで、ボクらの通う高校は交通の便があんまりよくない。駅方面や市街地へと向かうバスはまだ沢山あるけれど、逆に郊外へ向かうバスは1時間に1本もない。それも学校からはそれなりに離れた距離にあるバス停まで歩かなきゃならない。それも、坂道。帰りは下り坂だからまだいいけれど、朝からこの坂を上るのは思った以上に苦痛だった。入学から3日目にして既に心が折れそうだ。
勾配のキツいこの道は、下り坂でも油断がならない。慎重に足下を見詰めて歩くボクを背後から襲う声があった。
「男女川さん!」
「うわっ!?」
まだクラスに馴染めていないボクを名指しで呼ぶ人なんてそうそういるとは思っていなかった。だからその声はとても意外だった。その上、呼び声の主がまた意外な人物だった。驚きの余り、踏み外した足がもつれる。
「あら、ごめんなさい。驚かせるつもりはなかったのだけれど。そんなに驚くなんて、驚いたわ」
口ではそう言いながらも八十島さんは悪そうに思っている風にも、驚いている様にも見えない。強いて言えば嬉しそうで、楽しそうに見える。普段から物凄く落ち着いた雰囲気を纏っている八十島さんだから、彼女の感情の動きは読み取り辛い。
「男女川さんもバス通学なの?」
「うん」
「じゃあ、途中まで一緒ね」
そう言って八十島さんは隣に並んで歩く。
完璧超人と噂される八十島さんとボクなんかで一緒のところがあるなんて、何だか畏れ多くなってしまう。それが例え、通学路の一部であっても。出来ることなら師の影踏まずじゃないけれど、3歩くらい後ろをついて歩きたいところなのに、八十島さんの歩速はキッチリと計ったかのようにボクのそれに合わさっていた。
「部員は集まりそうなのかしら?確か最低5人の部員がいないと部活として認可が下りないのよね?」
「隣のクラスの大江山さんが入部してくれるって話だから、目処は立った……のかな?一応、ちゃんと進んではいるね」
「それは良かったわね」
「……その、八十島さんもやっぱり一緒にやらない?」
思い切って訊ねてみる。前向きに検討とか、そんなどう贔屓目に見ても後ろ向きで暗に”NO”と言っている風にしか聞こえない回答はどうにかして撤回して欲しい。しかし八十島さんから前向きな回答は得られなかった。
「ミィーナはそんなに私と一緒にかるたをしたいの?」
「み?」
「札を取る時に手が触れあって「「はっ」」ってなってお互いに見つめ合ったりして」
「いや、その……」
「でもソレって痛いだけよね?」
回ってきた答えが軽く意味不明で置いてきぼりをくってしまっている。そんなに独走されては、ツッコミも追いつかない。
「ちょっと待って!……ミィーナって、何?」
「あら、お気に召さなかったかしら?私が考えたあだ名は。我ながらとてもチャーミングだと思ったのだけれども。ミィーナ乃川」