Girl's Side 2 ~勧誘~
八十島さんが戻ってきたら、話したい事があったのだけれど、いざ戻ってきてもどう切り出していいものか分からない。チラチラと様子を窺っているばかりで、下手をすればストーカーと言われても言い逃れのしようがない。
そんな丸っきり不審者なボクに、心優しい八十島さんの方から話が振られた。流石は八十島さん、嬉しい気遣いだ。
「男女川さんは何か部活とかするのかしら?」
「えっと、かるた部なんですけど……」
「かるたっていうと、百人一首?でもそんな部活あったかしら?部活動紹介でも見た記憶がないのだけれども?」
「それはこれから立ち上げるっていう話で――」
「八っ十島さ~ん!」
突然背後から襲う大声にビックリして息が止まる。
「何?何?何の話してんの?」
「竜田川君、乙女の話に割り込むなんて、ちょっと無粋よ。部活動はどうするのー?って話をしてたのよ」
「じゃぁもう、和泉から話は聞いた?」
「和泉……君?何の話かしら?」
「まだ聞いてない?和泉がかるた部を立ち上げるんだ。で、経験者を中心に部員を募集しているってワケ。そ、こ、で。八十島さんにもぜひ入部して欲しいんだ。八十島さんも経験者なんでしょ?」
「ボクからもお願いします」
「ちょっと待ってよ。経験者って言うけど私、小学校の頃に一度市のイベントか何かに参加したことがあるって程度よ?」
「俺も同じようなもんだよ。和泉に言われてようやく「あー、そーいやいっぺんだけ和泉に付き合って何かの大会に出たっけ」って思い出したくらいさ。ぶっちゃけ百人一首なんて、秋の田の~と他に2つ3つくらいしか思い出せない」
「経験者なら興味持ってもらいやすいかなー?ってだけで、実力は問わないって」
こちらから援護射撃を加えるけれど、八十島さんは難しそうな顔をしている。
「男女川さんがやるって言うのなら考えなくもないけど……ううん、待って。そもそもなんで私が大会に出たことがあるなんて知ってるの?」
「それは……これだよ」
広げられた紙には、二十余人ほどの名前が列記されている。男女川、和泉、八十島、竜田川……と、どういう偶然かこのクラスの人間の名前が、そのリストの頭に並んでいた。その並び順も不可解で、五十音順にすらなっておらず、個人的にはなんでボクがトップバッターなのかは、キッチリと問い質しておきたいところだ。ついでに、それは極秘資料という話じゃなかったのか?という点についても。
「この学校の、かるた経験者のリスト。県のかるた連盟の人が用意してくれたんだ」
「……呆れた。個人情報の流出よ?」
「……だよね」
八十島さんに同意して苦笑する。これが部活動の勧誘だからまだしも、関連グッズの訪問販売とかだったらちょっと笑い話じゃ済まない。
「かるた連盟だってきっと必死なんだよ。そんなマイナーでパッとしない競技を広めようと思ったら多少は強引に行かないと」
「そんな強引に勧誘しなきゃいけない様なマイナーでパッとしない部活動に私は勧誘されているワケね」
八十島さんの言い種は心底迷惑そうで、髪を掻き上げる仕種も鬱陶しげだった。物憂げに溜め息を吐く姿も深窓の令嬢よろしく、様になっている。
「兎に角その件については前向きに検討させてもらうわね。大体、部活動発足に必要なだけ部員は集まりそうなの?」