Boy's Side 1 ~昼は旨いモンを食べよう~
ちょっと職員室に行っている間に僕の席はエージに占領されていた。学校指定のスクールバッグは机の上に放り出し、椅子に前後ろに掛けて、すぐ後ろの席に集った女子に交じって何やら楽しそうに駄弁っている。顔もいいが人当たりもいい幼稚園以来の悪友は、既に桜色の、或いは桃色の高校生活のスタートを切っているようだった。思わず羨望の溜息が零れるほどのスタートダッシュだ。
嘆息が耳に入ったのか、こちらより先にエージの方から声をかけてきた。
「おう。何処行ってたんだ、和泉?お前のこと待ってたんだぞ?いつの間にかどっか行っちまってるしさ」
「ちょっとヤボ用で。何か用だった?」
用がなければこんな教室の端っこの方の席まで来て(ありがちな話、席順は出席番号順、つまりは五十音順だ)待っていたり、しないだろう。メインの用件は大体察しが付くけれど。
「親父がさ、昼は旨いもん食わせてやるからお前のことも連れて来いってさ」
またか、と心の中で苦笑する。先月も合格祝いだの卒業記念だのと言って散々ご馳走になったのに。嬉しいのだけれど、少し心苦しい。
高校初日の今日は入学式とレクリエーションだけでおしまい。僕らのクラスは簡単な自己紹介と今後のスケジュールの説明を終えて、既に解散となっている。まだ多くの生徒が残っているけれど、僕が職員室に出向いている間に教室内の人数は確実に減っていた。
「ことあるごとにご馳走になってちゃ悪いよ」
机の脇にかけてあった自分のバッグを取りながら、一応、申し訳なさそうな顔をして見せる。それで通るとは思っていないけれど。
「入学祝いってことでいいんじゃねぇの?あんま細かいこと気にすんなよ。お前が来てくれないと俺の昼飯のグレードが下がるじゃん?うちの親父もお前んとこの親父に世話になってたっていうんだし。お互い様ってヤツだよ」
確かに竜田川家とウチは家族ぐるみの付き合いだ。父親同士でけっこう深い付き合いがあったおかげで友達の少ない僕でも竜田川と仲良くつるんでいられるのだ。それだけでも僕がどれだけ救われてきたことか。
「細々言うなって。親父が振る舞いたいって言ってんだし、断る方が野暮じゃねぇの?」
分かっていたことだけれど、やっぱり僕に拒否権はないようだ。
「分かったよ。有難くお呼ばれするよ」