表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
デスゲームの世界で魔王になりました  作者: 古葉鍵
序章 一般人と人形姫
9/21

魔王 が 現れた! 009

 まさしく、死闘という他はない。

 数値にして69レベル、イースの街に常駐するプレイヤーの中では3番目に高レベルのプレイヤーであるトイは、正気と忍耐力をガリガリと削られるような緊張感の中、巨大な三つ首の竜、ヒュペリオンを相手に紙一重の攻防を繰り広げていた。


ライトニングブレス(雷の吐息)が来るぞー!」


 後方に陣取る支援職の誰かが警告を発した。

 それを聞きつけたトイは素早く前衛たちに指示を出す。


「全員散開! ブレスを回避出来た者はフォローに回れ!!」


 レベル60を超えるプレイヤーとなると、個人差はあれそのほとんどが役割分担をした集団戦闘に慣れている。

 指揮者であるトイの指示は素早く行動に反映され、重武装の外見をした盾職プレイヤー(タンカー)たちが大小様々な盾をかざして防御体勢を取る。

 直後、戦場である大通りを斜めに切り裂くように、プレイヤーたちの頭上から紫電が襲いかかった。

 ヂヂヂッ! という耳障りな感電音が通り過ぎた後に、直撃したタンカーの多くがガクッと膝を着く。

 魔法にせよ特殊攻撃にせよ、放電は最も防ぎにくい攻撃の一つだ。

 盾や他の防具次第とはいえ、防御しても感電ダメージが発生するし、貫通するから射線次第では後衛にも被害が及ぶ。

 一番確実なのは回避することだが、雷速を見てかわすことなど不可能なため、どうしても運任せの予測回避に頼ることになる。

 ライトニングブレスをなんとか耐え切ったタンカーたちに、後衛から回復魔法とダメージ軽減(バリア)系の支援魔法(バフ)が乱れ飛ぶ。

 たった一撃のライトニングブレスで半数以上のタンカーのLPが半分を割っていたが、素早い回復魔法と支援のおかげで事なきを得る。

 反撃とばかりに後衛攻撃職から魔法による氷槍や弓職(アーチャー)から放たれた矢がヒュペリオンに浴びせかけられるが、硬い鱗に阻まれて1ドット2ドットという程度でしかダメージが通らない。

 LPのパーセント表記は小数点第二位まで表示されているが、今の攻撃で減った数値はたったの0.02%。つまり今の攻撃を5000回以上繰り出してやっと削りきれる計算だ。

 実際、1時間以上も戦って減らすことのできたヒュペリオンのLPはたったの9%弱程度。現在のペースを維持したとしてもあと10時間以上戦闘を続ける必要がある。

 途方もない難行と言わざるを得ない。

 それは仕方のない事だった。元よりレベルが違う相手なのだ。

 ヒュペリオンのレベルは76、対してプレイヤー側の最高レベルは71。平均で言えば64程度だ。

 レベルが10違えばその強さは大人と子供ほどに差がつくのがアカレコのレベル格差である。その上、最悪なことにヒュペリオンは《ボス属性》のモンスターだった。

 ボス属性とは、端的に言ってボスモンスターに設定されている属性の総称である。

 通常一つの属性しか持ち得ない一般モンスターとは違い、ボスモンスターは最低でも二つ以上の属性を持つ。

 プレイヤーはその特徴を便宜的にボス属性と呼称している。

 なのでヒュペリオンの属性を具体的に説明すると、物理・炎・雷・闇、の4つであり、その数が多い分、プレイヤーたちの攻撃手段も限定されてしまっていた。

 また、当然のことながら、ボスであるヒュペリオンのLP数値は、同レベル帯の一般モンスターの比ではない。


「ちっ……」


 ミリも減らないヒュペリオンのライフゲージを見て、トイは忌々しげに舌打ちした。

 タンカーと、それを支える支援職プレイヤーを巧みにローテーションさせて休ませながら、経過した戦闘時間は既に1時間を越えていた。

 戦死したプレイヤーは既に20人近くに及び、逃亡したプレイヤーも10人を超える。

 それでも戦闘を継続出来ているのは、トイがギルドマスターを務めるイースの街最大手ギルド《レッド・ペーパー》の戦闘部隊40人超が主体となって粘り強く奮戦しているからである。


(だが、このままでは……)


 そう遠くないうちに破綻する。いや、既に崖っぷちと言っていいかもしれない。

 精神的な疲労や回復アイテムの枯渇から撤退せざるを得なくなるか、些細なミスから防衛が決壊するかのどちらかだろう。下手をすれば全滅すらありうる。

 培った連携と交代制により、防御面はそれなりに機能しているが、攻撃面があまりにも貧弱だ。

 序盤、ヒュペリオンの攻撃手段や攻撃力そのものを把握する前に、前衛の物理攻撃職プレイヤー(アタッカー)の大多数が戦死したことが響いている。

 ヒュペリオンが物理属性を有しているとはいえ、前衛物理攻撃職の攻撃はダメージソースとしてそれなりに有効だった。しかし、タンクに較べれば低い防御力しか持たないアタッカーたちは、レベル差も災いしてヒドラの爪やブレスの直撃一発で次々と即死していった。

 タンカーとの連携を重視して、カウンターに専念した戦い方ならアタッカーも生存しつつヒュペリオンに有効なダメージを与えてくれたかもしれないが、今となっては後の祭りだ。

 掠っただけで即死されるよりはと、有力なプレイヤーを探し、応援を求める伝令役を頼んだが、今のところさしたる成果には繋がっていない。

 そもそも東門の防衛や街全体に侵入したモンスターの駆除、低レベルプレイヤーの保護などでも戦えるプレイヤーの手が割かれているのだ。

 頼まれて即座に応援に駆けつけられるような手の空いた状況で、しかも高レベルのプレイヤーなどまずいないだろう。

 唯一、現実的に希望が持てるとするならば、15分ほど前にここからやや離れた場所で使用された大魔法の使い手の存在だ。

 待機させていたアタッカーの最後の一人に、探し出して参戦を依頼してくれと使いに出したが……そこまでの距離と経過時間を鑑みるに、未だ探し出せていないか、交渉が難航しているかのどちらかだろう。いずれにせよ、あまり期待しすぎるわけにはいかない。

 現状分析に思考の何割かを割いていたせいか、集中力を若干欠いたトイは、普段ならやらない致命的なミスを犯してしまった。

 横薙ぎに襲ったヒュペリオンの尻尾攻撃を盾で受け流し損ねたのだ。

 これまでは攻撃の角度次第で斜め上にかち上げるか、打撃力に逆らわず吹き飛ばされて着地なり素早く受身を取るかだった。

 しかし、今回は角度を見誤り、かち上げようとして踏ん張ったが堪えきれず、持っていたラージシールド(幅広盾)を手から弾き飛ばされた上にトイ自身も大きく吹き飛ばされた。

 ゆうに5、6メートルほど宙を飛び、受身も取れずに地面に叩きつけられる。

 意識を手放したくなる誘惑と戦いながら身を起こそうとするトイの頭上高くで、今が好機とばかりにヒュペリオンの爪が振り下ろされようとしていた。


「マスターぁぁ!!」


 その光景を目撃したギルドメンバーの誰かが悲鳴を上げた。

 トイの直近に援護できるプレイヤーはおらず、後衛の支援が間に合うタイミングでもない。

 LPがゲージフルで、かつ防御体勢を取れているならば致命的な攻撃ではない。しかし、先の一撃でLPの約4割と盾を失った今のトイはそのどちらの要件も満たしていなかった。


「っ……」


 悲鳴によって頭上を見上げたトイの背筋に《死》という冷たい予感が滑る。

 ゴッ、と風を切り裂きながら巨大な爪が振り下ろされた。


ドンッ!!


 ヒュペリオンの左肩あたりで盛大な爆発が起こり、その衝撃に堪えかねて巨体が斜めに傾いだ。

 トイを狙っていた爪も的外れの虚空を薙ぐに留まり、九死に一生を得る。


「な、何が……?」


 これまで小揺るぎもしなかったヒュペリオンがたたらを踏むのを、立ち上がって態勢を整えつつも呆然とした表情で眺めるトイ。

 彼の目の前で、更なる追撃とばかりに上空から光の槍が何条も振ってきて、ヒュペリオンの胴体に、首に、次々と突き刺さる。


「GYUAAAAAAAAAA!!」


 苦痛のためか、ヒュペリオンが身を捩って吼える。

 トイがヒュペリオンの頭上を見れば、今しがたの謎の攻撃により、LPゲージのパーセント数値が4%近くも一気に減少していた。


(それほど高位の魔法には見えないが、凄まじい威力だ。一体、誰が……)


 助かった、という安堵もそこそこに、ヒュペリオンが受けたダメージの大きさに驚いたトイは思案を巡らせた。そして、閃く。


(まさか、先ほどの大魔法の使い手か!?)


 トイは素早く思考を巡らせ、目の前で起きた出来事にあたりをつけた。

 駆け寄ってくるギルドメンバーのタンカーに大丈夫だと手振りで伝え、トイは素早くインベントリから予備のラウンドシールド(丸型盾)を取り出して実体化させる。

 命の危機に瀕してうるさいほどがなりたてる心臓の鼓動を強い精神力で抑え込み、トイは冷静になって指示を出した。


「全員、気を緩めるな! 現状待機でタンカーは防御に徹しろ! 誰かが応援に来てくれたのだと思うが、状況がはっきりするまで様子見する!」


 すでに後衛の支援を受けてLPを全快させているトイは油断なくヒュペリオンを見上げながら、そろそろと味方との連携に適した位置へと移動する。

 しかしヒュペリオンは足元の弱敵など眼中にないようで、三つ首全てを上空へと向け、喉を膨らませた。


(まさか、同時ブレスか!?)


 トイは身の毛がよだつような戦慄に支配されていた。

 同時ブレスなど、これまでの戦闘でトイたちには一度も見せていない攻撃パターンだ。

 それが意味することは明白で、ヒュペリオンは全く本気を出していなかったという事実。

 ヒュペリオンの思考ルーチンがどうなっているかは知らないが、少なくともトイたち以上の脅威を上空の敵対者に感じているのだろう。

 喉を膨らませる数秒の予備動作を経て、炎・雷・闇の3属性のブレスが同時に放たれた。


キン!


 甲高い音がして虚空に白色光の魔法陣が出現し、三色のブレスを遮断する。


(あれは……光属性の防御魔法?)


 トイは心中で呟いた。

 魔法陣が放つ燐光の色からして、そうとしか思えない。

 しかも魔法陣が消滅しなかったということは、ブレスの膨大なエネルギーに耐え切ったらしい。

 レベルが高いからかもしれないが、ボスの固有スキル攻撃に対してそんな芸当が可能なのはどう考えても高位の防御魔法に限られる。


(攻撃魔法も放てるということは、《ライトセージ(光の賢者)》……? それともエクストラジョブの《ティンクルスター(煌く星)》という可能性もある、か?)


 ライトセージはレベル60が転職最低条件の上級職であり、ティンクルスターとはレベル80が転職最低条件のエクストラジョブのことだ。


(噂では今のところ二人しか確認されておらず、流れてくる情報もごく僅かなため詳細ははっきりしないが、確か光属性のあらゆる魔法を使える上に物理攻撃スキルも充実しているという超万能職だったはず……)


 もし噂どおりのスペックであれば、ヒュペリオンを単体で葬ってしまう可能性すらある。


(トッププレイヤーの誰かがレベル80相当のボスモンスターを一人で倒したとかいう眉唾な噂もあるそうだしな……)


 意外なところで真実の琴線に触れつつも、トイは見えない参戦者について推測を重ねていた。

 油断なく周囲に気を配りつつ、トイが分析に思考を割いている間も、ヒュペリオンと虚空の何者かは遠距離戦を繰り広げている。

 ヒュペリオンのブレスがどの程度効いてるかはわからないが、虚空から投げつけられる光の槍はじわじわとヒュペリオンのLPを削っている。


(いいぞ、あの何者かがダメージソースになってくれれば、我々の援護でもっと効率良くLPを削れるはず。ここが勝負どきだな)


 攻撃の再開を決意したトイは、声を大にして指示を出した。


「よし! 我々も戦闘を再開する! 後衛はヒュペリオンの注意を引く程度の攻撃でいい! 前衛はこれまでどおり防御に専念しろ! アタッカーは上空の助っ人が引き受けてくれる!」

「「「おうっ!!」」」


 ヒュペリオンのLPの減り具合を見て、勝機と希望を見出したプレイヤーたちが威勢良く応じる。

 絶望的な消耗戦から一転、リスクの少ない防衛戦に変わったようなものだ。

 助っ人が現れる前に較べ、プレイヤーたちの顔は一様に明るいものとなっている。

 しかし戦意とやる気を漲らせ始めたトイたちを掣肘した者がいた。


「……あなたたち、足手まとい。邪魔」


 トイたち前衛が数人固まっている場所の直上から怜悧で容赦のない声が浴びせられた。


「なんっ……!?」


 頭上を見上げたトイたちの目に、この殺伐とした場に相応しからぬ純白が映る。

 そこには、月光そのもののような金糸の髪を靡かせて宙に佇む人影があった。

 トイたちは眩しいものを見るように、目を細めてそれ(・・)を見極めんとする。

 人形のように小さく、繊細な体躯。まるで貴族のお姫様が身に着けるような豪奢な白いドレス。そして何より、その手には――


「……スナイパーライフル?」


 貴人の麗装にはあまりにもミスマッチな、硝煙燻る対人殺傷兵器が握られていた。

 小さな体躯に相応のミニチュアのようなサイズとはいえ、視力の良いトイはそれが何であるかを正確に見て取った。


「もう一度言う。あなたたち、邪魔。死にたくなければ、下がれ」


 紫色の瞳で流し目気味にトイたちを見下ろしながら、小さな少女は抑揚のない声に微かな苛立ちを含ませて再び警告した。


「――そう邪険にするものではない、アリネ。彼らとて武人なのだ。事情も話さず除け者にしては立つ瀬がなかろう」

「アリア姉」


 声色だけはそっくりな、しかし口調が全く違う別人の声が違う方向から投げかけられる。

 トイたちがはっとして新たに声が聞こえた方へと視線を巡らせれば、頭上の少女よりもヒュペリオンに近い前方上空に別の人影が浮かんでいる。

 細部を確認するにはやや遠いが、頭上の少女とそっくりな容姿と服装をしているように見える。

 唯一違うのは、狙撃銃ではなく、長剣らしき武器を手に持っているところだろうか。


「とはいえ、悠長に説明している暇などない……なッ!」

「!? しまっ……!」


 剣を装備した方の少女が宙を蹴るような挙動と瞬発力であらぬ方向へと飛んで行く。

 反射的にそれを目で追ったトイの視界に、自分たちに肉薄する黒い影が映る。

 頭上に気を取られ、周囲への注意が疎かになった隙を突くように、死角からヒュペリオンの尻尾がトイたちへと振るわれていた。

 既にまともな防御体勢を取れるタイミングではなく、トイたちには致命的な油断を後悔する暇も与えられないはずだった。


ギィィィィ!!


 金属同士が鎬を削るような甲高い音が響き、ヒュペリオンの尻尾による薙ぎ払いが堰き止められる。


「オオオォォォォォッ!!」


 そこには、千年の樹齢を誇る大樹の如き太い尻尾に、雄たけびを上げながら小枝のような剣をかち合わせて防いでる少女の姿があった。

 尺度があまりにも異なる両者の鍔迫り合いに、トイたちは驚愕のあまり声も出せずにその非現実的な光景を見守っていた。

 数秒の拮抗が続き、やがて決着する。


ギキキキキキキ……ギンッ!!


 押し合いに勝利したのはなんと少女の方だった。

 力負けしたヒュペリオンの長大な尻尾が地面に叩きつけられ、バウンドしてあさっての方向へと勢い良く弾き飛ばされてゆく。

 しかも、斜め下に斬り下ろすような剣筋だったためか、大地と挟まれて斬撃の圧力を逃せず、尻尾の半ばほどまで深々と切れ込みを入れられている。

 カウンターダメージによってヒュペリオンのLPゲージが目に見えて減少した。

 それによってヒュペリオンの巨体がバランスを崩し、背後の建物を崩しながら倒れ込んで盛大な土煙を巻き上げた。

 近くにいる者たちより、後衛たちの方が客観的に事態を眺めていられた為か、戦場の後方で歓声が上がる。


「すっ、すげえ! 何モンだあのちっこいの!? あんなでかいヒュペリオンを吹っ飛ばしやがった!!」

「一撃でLPが7%以上減ったぞ!? 攻撃力がとんでもねぇ!」


 わいのわいのと騒ぎ立てる後衛とは対照的に、前衛のタンカーたちは揃って慄然とした表情を浮かべていた。

 得手とするものが攻守の違いはあれども、同じ物理攻撃職として今の一撃がどれだけとんでもない威力を秘めていたかをほぼ正確に理解でき、その使い手の力量も予測できてしまったからだ。


(桁が違う……!)


 まさしく、攻撃力の数値に一桁以上の隔たりがあるだろう。

 現実世界では起こりうるはずのない、質量差を無視した結果に、ここが数値によって全てを決定付けられる世界であることを改めて実感するプレイヤーたち。

 いきなり現れてヒュペリオンに痛手を与えた乱入者の存在をどう捉えたらよいか迷っていたトイは、少女らの言動や行動から少なくとも敵ではないと位置づけた。


(参戦のタイミングからして上空にいる者と同じ一派なのだろう。体が小さい理由はわからん……が……まさか、キリングドール……!?)


 少女たちが劇的な登場の仕方をしたため、驚きと現状把握に精一杯でまともな考察力が失われていたが、平静なれば頭の回転の早いトイはようやくその可能性に気付いた。


(キリングドールがここまで強い理由はわからんが、彼女らがモンスターであれば、上空で攻撃を加えている人物はテイマーなのか?)


 従魔がいることと、光属性魔法を使える職業に就いていることは両立できるが、どこか違和感があった。

 強いて言うなら習熟度だろうか。物理戦闘系職であるモンスターテイマーを経験した者が、今は魔法特化系職業で戦っているというちぐはぐさ。

 エクストラジョブのティンクルスターが噂どおりの万能スペックで、上空の者がそうであるならば、整合性が取れていると思えるものの。


(いや、今はそんな分析はいい。彼女らがヒュペリオンに積極的な戦闘を仕掛けようとするならば、悔しいが確かに我らは足手まといになりかねん。下がれと言うなら下がって無駄な犠牲を避けるべきだ)


「GYURAAAAAAAAAA!!」


 ヒュペリオンが倒れ込んでいる間も容赦なく光の槍による攻撃が降り注いでいる。

 その鬱陶しさに怒りを爆発させたのか、ヒュペリオンは建物の瓦礫に埋まった体を起こした直後、雄たけびを上げて直立し、ばさりと翼を大きく広げた。

 ブレス攻撃では埒があかないと考えて、空中での直接戦闘に切り替えるつもりなのだろう。地上戦では主力となる尻尾に痛手を負ったことも響いているのかもしれない。

 ヒュペリオンの行動を見極めたトイは大声を張り上げて指示を下す。


「方針を変更する! 総員、一旦この場から退避! ヒュペリオンは彼女らに任せる! 我々は大通りの西側へ後退するぞ!」


 明らかに状況が好転している戦闘を他人任せにすることに不満を口にする者も多少いたが、大多数はほっとした表情で命令を受け入れた。

 ヒュペリオンに背を向けないように油断なく構えながら、プレイヤーたちが慎重な足取りでじわじわと後退してゆく。

 今や戦場は突然舞い降りた少女たち――そう、アリスとその姉妹に委ねられようとしていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ