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デスゲームの世界で魔王になりました  作者: 古葉鍵
第一章 副題未定
20/21

魔王 が 現れた! 019 (三人称改訂版)

実質最新話です。

 例によってティア無双で障害となるモンスターを駆逐しつつ、三人に増えたレン一行は裏路地を歩いていた。

 レンの獲物になり得る低レベルモンスターにも途中で出くわしたが、愛理を左腕に抱いたまま戦闘が行えるはずもなく、ティアの処分対象とされた。

 同様の理由で、北側区画のモンスター駆除を断念したレンは、ユキやアリスと合流するためにイース中央区画方面へと向かっていた。

 歩きながら、レンは落ち着き始めた愛理から事情を伺うことが出来た。

 凄惨な事態に巻き込まれ、目の前で実の母親を失うという経験をした愛理にレンは深く同情したが、これからのことを考えると悩ましくもあった。

 現実世界であれば、親戚や公機関に愛理の身柄を任せて解決だろうが、この世界ではそのどちらも存在しない。

 正確に言えば、万に一つの可能性で愛理の親戚がいるかもしれないし、母親の知人に頼るという方法もある。

 しかしながら、親戚にせよ知人にせよ、見つけたところで愛理を引き取ってくれるとは限らないし、他人に身柄を放り投げてはいおしまい、では、いささか無責任に過ぎる。

 辛い経験を話し終えてからしばらくの間啜り泣き、今は力尽きたかのように眠っている愛理の頭を優しく撫でながら、レンは後でユキに相談してみるかと考えた。


 途中、レンの元にアリスから念話にて連絡が入り、ユキたちが面倒な状況に陥っていることを知った。

 一般人プレイヤーの集団から突き上げを食らった挙句、《ヒュペリオン》というボスモンスターの討伐にアリスが赴かざるを得なくなったとのことだった。

 人が良さそうなユキのことだから、要請を断りきれなかったのだろうと、その状況を想像してレンは苦笑する。

 これからヒュペリオンと交戦に入る、というタイミングの事後報告だったが、レンが現場にいたとしてもボスの放置は出来ない、と考えただろう。ゆえにユキとアリスの判断に不満はなかった。

 もっとも、|《破裂の姉妹》《エクストラアビリティ》の任意使用も含め、判断の是非はアリスとユキに任せたのだから、今更文句のつけようもなかったのだが。

 アリスが破裂の姉妹を召喚した状態の総合戦力はレベル85のモンスターに匹敵する。

 アリスとて同格のボスモンスターであれば、実質的にレベル10弱も劣るヒュペリオンに遅れを取ることはまずないだろうとレンは分析していた。

 ボスモンスターの出現のみならず、《黒死イナゴ》の大群までもが襲来したことを含め、デザイアの肝入りではないかとアリスに具申され、ありえるな、とレンも同様の危惧を抱いた。


 アリスが気を利かせて妹のアリーを護衛に残したので、レンがユキたちの現在地を把握することは難しくなかった。

 主人には使い魔の位置を把握できる能力があるからだ。

 順調にユキたちとの距離を縮めていく途中で、再びアリスから念話連絡が入る。

 首尾良くヒュペリオンを倒したという報告であった。

 簡単な戦闘報告や経緯を聴取し、《ヒュペリオンの聖痕》をはじめとする戦利品をレポートで一通り確認し終えたレンは、アリスへと指示を出した。

 それは先にヒュペリオンと交戦していたイースのプレイヤーたちに戦利品を分け与えること、可能な限りアリスの存在について緘口を依頼することの二点だ。

 後者はともかく、前者の指示についてはレンなりの思惑があってのことだった。

 街の防衛戦において、多大な犠牲を出して得た物がない、では、今後また同様の襲撃イベントが起きた際のモチベーションに関わるからだ。

 プレイヤーが籍を置く街を守るのは良識的義務であって、税金自動徴収のような強制力が働く類の絶対的義務ではない。

 防衛戦不参加の場合、デメリットはせいぜい自身の評判や風評に傷が付く程度で、それ以外の実質的損害は皆無であると言って良かった。

 ゆえに、命を賭けてまでタダ働きなんぞしたくない、というプレイヤーが増えれば、街の防衛力はガタガタになってしまう。

 これが通常の街であれば、最低限領主ギルドは防衛戦の矢面に立つだろうから、そういった心配は少なくて済む。

 しかし、イースの街だけは領主ギルドの選出が行われないため、防衛力に関してはプレイヤー個々の判断、行動の総合で決まってしまう。

 モンスター襲撃イベントが起こりえない街、というイース最大の居住メリットが今回の件で失われてしまった以上、今後は他の街へのプレイヤー流出が起こるであろうし、となれば街全体の戦力が低下するのは避けられない。

 そうした事態の中にあって一定の防衛戦力や動機を確保できるよう、地元最大手ギルドが防衛戦力の要として大樹に成長してくれれば、とレンは考えたのだった。

 莫大な価値を有する聖痕メダルをイース最大手ギルドである《レッド・ペーパー》に無償譲渡するのも、そういった大局的見地に基づいた布石であり、投資であった。

 聖痕持ちのランカーギルドとなり、在籍するだけで実利名声両面でメリットを享受できるとなれば、イースの戦闘プレイヤーの多くはレッド・ペーパーに所属したがるだろう。

 アリスからギルドマスターがなかなかの人物だと報告を受けていたこともあり、レッド・ペーパーの成長拡大にレンは大きな期待を寄せていた。


 アリスとの念話を終え、アリーの現在地近くまでやってきたレン一行は裏路地を抜け、大通りに出た。

 するとそこには数百人規模の群衆が屯っており、どことなく弛緩した空気を漂わせていた。

 群衆の多くが笑顔で談笑に興じていて、緊迫した情勢下であるべき光景にはとても見えない。

 恐らくアリンが張ったのだと思われる《聖域》効果や大人数による集団心理、ヒュペリオン討伐の事実が群衆に安心感を与えているのだろう、とレンは推測した。

 あまり目立ちたくないレンにとっては不都合なことに、アリーの位置情報は群衆の中央付近にある。

 群衆の多さにうんざりしたレンは、ユキたちの方からこちらへ来てもらうことにした。


(アリー、俺の位置はわかるな?)

(あ、レン様。はい、判ります)

(群衆の中を突っ切るのが少々難儀でな。ユキを連れてこっちへ来れないか?)

(わかりました、ユキ様に聞いてみます。――問題ないそうです。今からそちらに向かいますね)


 レンとアリーが念話を切って間もなく、群衆の中心部付近でざわめきが生じた。

 同時に、モーゼの十戒の如く、中心部からレンの佇む場所に向かって群衆の海が割れてゆく。それはレンの正面まで開通し、そこから二人の少女が抜け出てくる。


「レンさんっ!」


 嬉しそうな声で名前を呼び、群衆からやや距離を取っているレンの下へ、金色の髪を靡かせながら小走りで駆け寄ってきたのは、もちろんユキであった。

 ユキの胸にはアリーが抱かれており、右斜め後ろにはユニを伴っている。

 ユニの存在についてはアリスから報告を受けていたので、ユキの同行者であるとレンは認識していた。

 レンの目の前まで来たユキは、レンの首筋に抱きついて眠っている幼い少女(愛理)に気付き、一瞬「おや……」という表情(かお)をする。

 しかしユキは疑問をひとまず横に置くことにして、レンに明るい笑顔を向けた。


「や。さっきぶりだね。アリスから報告は受けてたけれど、無事で良かった」

「はい、おかげさまで……。レンさんもご無事で何よりです。またお会い出来て安心しました」


 二人が離れていた時間は三時間程度のものだったが、お互いその間に色々な事があった。

 それだけにお互いの無事を寿ぐ言葉には、決して社交辞令ではない実感と思いやりが篭っていた。


(よかったぁ……。これでもう、何も心配いらないよね)


 ユキにとってレンは、《優しく頼りになる年上のお兄さん》という印象であり、再会出来たことで親を見つけた幼子のような無条件の安心感を抱いたのだった。

 それはある意味吊橋効果がもたらしたもので、アリスに助けられる度、間接的にレンを意識していたユキは、知らず知らずのうちに精神的安寧の拠り所としてレンを求めるようになっていた。

 二人の会話から、しばらくこの場に滞在しそうだと見て取ったティアがふわりと空中から舞い降り、レンの頭に着地する。


「ちゃおー、ゆき」

ヴォナセーラ(こんばんは)、ティアちゃん」


 早速レンの頭の上で腹ばいになり、どこで覚えたのかフランクな挨拶をするティアの愛くるしい姿を見て、微笑みを零しながら応じるユキ。

 ティアはフリーダムにチョイスした挨拶を使ったのだが、ユキのそれは明らかに気を利かせたものだ。ちなみにどちらもイタリア語である。

 ティアとユキのイノセンスなやりとりに癒されながら、レンはアリーに視線を向ける。


「アリーはボディガードご苦労様」

「はいっ、ありがとうございます。でも、ボクはユキ様に抱かれてただけなので、戦ってた姉さまたちにはちょっと申し訳ないですねぇ」


 溌剌とした口調のせいか、ちっとも申し訳なくなさそうなアリーの台詞にレンは苦笑する。

 プレイヤー相手と変わらない態度で使い魔を気遣うレンの人柄に好感を抱きながら、ユキはずっと気になっていたことを訊ねる。


「そういえばレンさん、東門の方はどうなりましたか?」


 ユキの質問に、レンは「ああ……」と少し考え込み、


「かなり街中まで押し込まれてた。裏路地に侵入したモンスターは俺とティアで相当狩ったけど、メインストリートは使い魔に任せてきた。アリス並に強い奴だから、今頃プレイヤーと(たぶん)協力して戦線を押し返してるよ。順調に行けば夜明けまでには殲滅できると思う」


 前半は淡々と、後半は明るい口調で説明した。


「そうですか……良かった。こんな日に、レンさんがイースにいてくれて本当に良かったです」


 安心したようにほっと一息ついたユキは、柔らかく微笑みながらしみじみと言った。

 漫画やアニメであれば背景に花びらが舞いそうな雰囲気を形成し、親しげに言葉を交わす二人へと群衆の視線が殺到する。

 「おい、誰だあいつ」「頭に妖精みたいなの乗っけてるな」「恋人か?」「幼女抱いてんぞ」「犯罪臭がする」「紳士ですねわかります」「まさか夫婦で娘とか?」「バカ、どう見ても兄妹か何かだろ」「どっちにせよ殺意の波動に目覚めそうだわ」「怨怨怨怨怨怨……」といったような会話がそこかしこでなされる。

 明らかにユキから好意を向けられているレンに対しては嫉妬というか、不穏な反応が色濃かったが、ユキの背後に控えるユニもまた近いことを考えていた。


(これが噂のレン……アリスの本当のご主人様(マスター)。頭に妖精、腕には幼女……危ない人? まあ見た目はそこそこ良いし、優しそう。でもそんな強そうには見えない。装備も……っ!?)


 レンの外見から人物像を見極めようとし、顔から胴、腰回りへと視線を移したところで、左腰に差してある《シルフィリード》が目に入り、瞠目するユニ。

 精緻で美しい意匠が施された剣鍔に、柄と鞘の隙間から漏れ出す碧色の魔力の燐光。

 ユニは剣の目利きなどできないが、一目で市販品ではない、高レベルのレアアイテムだと判った。


(でも、アリスのレベルを考慮すれば、マスターであるこの人はレベル85以上がほぼ確実……魔力付与武器くらい、持っていて当然か)


 レンのレベルが自分よりも下であるなどとは思いもよらないユニはそう結論付けた。


(ともあれ、いつまでも二人の世界に浸らせておくわけにはいかない。男なんかにユキは渡さない)


 使命感にも似た決意を固めたユニは、ユキの左肘の服裾をくいくいと引っ張った。

 ユニの自己主張に気付いたユキは、はっとした顔をしてレンの目の前から右に半歩ずれる。そして左足を引いてレンに対して斜めに立ち、ユニの方へと顔を向けた。


「えっと、この子はユニって言います。私のお友達です。とっても良い子なんですよ」


 にっこりと微笑みながらユニを紹介するユキ。

 レンと再会したことで、群衆に祭り上げられた立場や責任から解放されると考えていたユキの声はこれまでになく明るかった。


「ああ、うん。アリスから話は聞いてるよ。ユニ……ちゃんでいいかな、君も色々大変だったね。ユキのこと、色々助けてくれたそうでありがとう」


 正確には「気難しく、警戒心の強い子」とアリスから報告を受けていたレンは、ユキの保護者的スタンスで若干遠慮がちにユニへと声をかけた。


「……《ちゃん》はいらない。ユキは大切な私の(・・)友達だから、助けるのは当然。あなたに礼を言われる筋合いはない」


 ユキが嬉しそうなのはレンへの好意からだと信じて疑わないユニは、対抗心からさりげなく所有権を主張しつつ、上目遣いでレンをぎろっと見つめ、敵意すら帯びた声で鋭く言った。


「あはい……」

「あ、あはは……」


 ユニの眼光に気圧されたレンは思わず頷き、ユキは苦笑気味に乾いた笑い声をあげた。

 ユニの人見知りぶりというか、気難しさを体験していたユキは、


(相手が大人の男性だもん、構えちゃうのは仕方ないかも)


 と、理解を示したが、ユニの男嫌いなど知る由もないレンは、


(もしかして俺、ロリコンか何かだと思われて警戒されてる……のか?)


 と、敵意の原因に被害妄想気味な見当を付けてショックを受けていた。

 とはいえ、実際にユニがレンのことをロリコンかもしれないと疑っていたのは事実だった。


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