魔王 が 現れた! 011
(姉上、終わりました)
動きを止め、ズズゥン、と地響きを立てて前のめりに倒れるヒュペリオンを無感動に眺めながら、アリアは上空の姉に報告を入れた。
といっても念話のチャンネルは姉妹全員が開いているので、声自体は他の皆にも聞こえている。
(ご苦労様。アリサも魔法を切っていいわ)
(あいあい)
アリサがSP供給を止めると、闇色のドームはスウッと薄くなるように消えていった。
(みんなおつかれさま~)
戦闘前に支援魔法をかけたくらいで、それ以降出番のなかった陰の薄いアリンが皆を労った。
終盤までは安全重視で戦ったこともあって、アリアたちのLP回復は支援魔法の《アクアリジェネーション》による自動回復だけで十分賄われており、アリンが直接回復魔法をかけるまでもなかった。
黒いドームが消滅し、その中にLPを全損したヒュペリオンが倒れているのを見て、トイは心底安心して深いため息をついた。
ヒュペリオンのLPが30%を切ろうかとしたところで急に黒いドームに覆われ、戦況が全く見えなくなったときは心臓が止まる思いをしたトイ。
体は小さいながら、戦乙女もかくやといった一方的な戦いを展開する少女たちを、もはや観客気取りで応援していたトイの仲間たちもまた、ドームが現れてからは深刻な表情になって心配していた。
だが幸いなことに、短時間でドームは解除され、現れたのは無事な少女たちと、倒れたヒュペリオン。
トイ以外の者からも安堵の吐息がそこかしこで漏れていた。
(ドーム内部がどういう状況だったかは想像するしかないが、恐らく少女たちも奥の手を使うかして速攻で決着をつけたのだろう。約30%もの残LPを僅か一分足らずで削りきってしまうとはつくづく恐ろしい……いや、大した少女たちだ)
トイは黒いドームがヒュペリオンの仕業だと決め付けていた。
ドームの発生タイミングや、死んで解除された事実などを鑑みれば、ヒュペリオンのエクストラアビリティだと誤解してしまうのも無理はない。
これからどう少女たちとコミュニケーションを取ろうかと考え始めた矢先、トイはふとあることに気付いた。
「ヒュペリオンの死体が、消えない……?」
同じ頃、アリスもトイと同じ疑問に行き着いていた。
死に方によって多少時間差はあれども、通常、LP全損後10秒以上経過しても肉体が残っているなどということは、ない。
聡明なアリスはなんとなくその理由を察した。
(アリア、アリネ、アリカ。ヒュペリオンから離れなさい)
妹たちへの指示に、アリスは「ヒュペリオンの死体」、とは付けなかった。
つまりそれはヒュペリオンが未だ健在だとアリスが考えている証明に他ならない。
疑問を差し挟むこともなく、アリアたちがそれぞれの戦闘スタイルに適した距離まで移動する。
「……わたくしとしたことが迂闊でしたわ。エクストラスキルにはそういうモノもありましたわね」
呟いたアリスの視線の先では、異変が起きようとしていた。
倒れたヒュペリオンの三つ首のうち一つ、黒錆色の鱗をもつ頭部から黒い霧のようなものが染み出るように湧いたかと思うと、あっという間に体積を増やしてヒュペリオンの全身を覆った。
遠くで状況を観察しているプレイヤーたちがその異変に気付き、騒いでいるのがアリスの高度からだとよく見えた。
(なるほど、三つ首はそれぞれ別のエクストラを所有していたようね。多頭型の魔物にはままある特徴……見た感じあれは黒首の能力?)
アリスが推測した通り、黒い霧は闇属性をもつ黒首のエクストラアビリティだった。
それはLP全損後、即ち死亡後に自動発動する性質のもので、その効果は――
(単なる蘇生などではなく、アンデッドへの転生……いえ、この場合は変容というべきかしら)
アリスの眼下で、黒い霧を全身に纏わりつかせたままヒュペリオンの巨体が再び動き出した。
ゆっくりとした動作で身を起こしたヒュペリオンから少しずつ黒い霧が薄まっていき、ついには消えた。
全貌を現したヒュペリオン……頭部のやや上に表示されている個体名称は《ヒュペリオンゾンビ》。
安直といえば安直な名称だが、今のヒュペリオンの状態を良く表している名前とも言えた。
鱗で覆われた体表はところどころで肉ごと腐れ落ち、骨が見えている。三つ首の一つはほぼ完全に肉が削げ落ちていて、ゾンビというよりスケルトンといった有様だ。
ただれた肉と体液の混ざったような粘液を体中の各所からじくじくと染み出させながら、ずるり、ずるりと動くその姿は、まさしくアンデッド系モンスターのおぞましさに他ならなかった。
ヒュペリオンゾンビの名称の横に表示されているLPゲージを確認すると、100%と全快している。
(全く、面倒なこと……)
これまでの労力が無駄になったわけではないが、流石のアリスとてため息の一つもつきたくなった。
そのうえ上空にまで饐えた腐臭が漂ってきて、アリスは僅かに顔をしかめた。
ゾンビ化したところで怖いなどとは全く思わないが、選べるのであれば戦うのは避けたいモンスターだ。
外見どうこうではなく、腐った体液の返り血など一滴たりとも浴びたくないからである。
(妹たちには悪いけど、我慢してもらうしかないわね)
アリスは小さくため息をつくと、妹たちに連絡を入れた。
(アリアとアリカは距離を取って様子見、アリネは狙撃してアレの出方を窺いなさい。アリサとアリンは合流して上空で待機。いいわね?)
素早く対応を決め、てきぱきと指示を出すアリス。
地上ではアリアたちが指示された通りにそれぞれが行動に移っていた。
アリアとアリカはヒュペリオンゾンビの手足が届かない位置まで後退し、アリネはヒュペリオンゾンビから80メートルほど離れたところにある裏路地の家屋屋根の上から狙撃を図る。
(ペネトレイト系は効果薄そう……《ダムドブレット》を使おう)
ヒュペリオンゾンビの特性を勘案し、アリネは弾丸を換装することにした。
ライフル弾とはやや形状の異なる爆裂弾をボルトアクションで装填後、光学照準器を覗き込み、狙いを定める。
「……照準OK、砕け散れ!」
引き金を引いた直後、ズドン! という射撃音と、ドォン! という爆発音がほぼ同時に発生する。
ヒュペリオンゾンビ中央首の鼻先に命中した爆裂弾は、中位攻撃魔法級の衝撃と爆風を撒き散らして前頭部を粉々に吹き飛ばした。
爆裂弾の威力が高いのか、それともアンデッド化後は耐久力や防御力が大幅に落ちているのか、たったの一撃でヒュペリオンゾンビのLPが6%ほども減少する。
(あら、案外弱いのかしら。マナ量からしてレベルは変容前と大差ないはずだけれど……)
やや意外の念を抱きながらヒュペリオンを観察していると、被弾後20秒ほど経過したところで再び異変が起こった。
爆裂弾による破壊を免れた後頭部から黒い霧が湧き出したかと思うと、前頭部の輪郭を模るようにわだかまり、あっという間に元の前頭部へと変貌する。
同時に、完全回復魔法をかけられたかの如く一瞬でLPゲージが100%に戻った。
(なるほど、ただ姿を変えて復活したわけではないようね。恐らく無限再生……倒すには短時間でライフポイントをゼロにしないとダメなパターンかしら、これは)
非生物にあるまじき、いやむしろアンデッドだからこそと言うべきか、高速の肉体再生という異能を見せ付けたヒュペリオンの攻略法を考え始めるアリス。
アリスが結論を出すより先にヒュペリオンゾンビが動いた。
三つ首のポジション的には真中、外見的には赤錆色の頭部が、かっ、と顎を大きく開いたかと思うと、予備動作なしにアリアに向けて黄土色の霧のようなブレスを吐きかけたのだ。
「くっ!」
アリアは素晴らしい反応速度で虚空を蹴り、より上空に回避行動を行う。
しかし、広範囲に撒き散らされた霧を避け切ることができず、まともにブレスを浴びてしまう。
直接的な打撃を与える攻撃ではなかったらしく、アリアは飛び上がった勢いそのままにブレスの範囲外へと脱出した。
ピリピリするような肌の痛みを感じ、溶かされたように穴が空いてぼろぼろに綻びていくドレスを目にして、アリアは今の攻撃が何であったのかを把握する。
「……《アシッドブレス》か」
アンデッドらしいといえばらしい攻撃に、アリアは苦い表情で吐き捨てた。
今の被弾でアリアのLPは9%弱も減少している。たった一瞬でこれならば、直撃して長時間浴びたとしたら大ダメージを受けるだろう。
ブレス攻撃は要注意だとアリアは警戒レベルを引き上げた。
あられもない姿で戦う趣味などないアリアは、SPを消費して破損したドレスを染み一つない状態に修復しつつ、更に上昇してヒュペリオンゾンビから大きく距離を取った。
飛行能力は失っているのか、追撃してくる気配はない。
皮膜の大部分を失い、半ばから骨が露出しているような翼で飛べるとは思えず、アリアはひとまず安心した。
アリアと同様、アシッドブレスを警戒したアリカが同じ高度へと昇ってくる。
ブレスの射程を考えれば決して安全とは言えないが、それなりに距離があるのでよけるのは難しくない。
(ターンアンデッド使った方がいい~?)
アリンが相変わらず緊張感に欠ける口調で申し出た。
苦戦というほどではないが、アリスが対策を講じるまではと、アリアたちが消極的なのを見て取ったからだろう。もしくはやる事がなくて暇だからかもしれない。
(いらん。アンデッド化したとて、あれが魔物どものボスであることは変わってない。効くはずがない)
アリスが何か言うより早くアリアがばっさりと切り捨てた。
レベルの高低に関わらず、ボスモンスターに即死系スキルが効かないのはアカレコの仕様であり、常識とも言える。
ターンアンデッドは即死系とは微妙に毛色が異なるのだが、ボスに効かない事には変わりがなかった。
そんな姉妹のやりとりを余所に、地上ではヒュペリオンゾンビが新たなアクションを起こそうとしていた。
首の半ばから白骨化した右端の頭部がくねくねと動き出し、口から骨の欠片のような白いものを辺りに撒き散らす。
何を始めるのかと身構えて警戒するアリアたち。
たっぷり10を数えるほどの間、《何か》をばら撒いたヒュペリオンゾンビは動きを止め、突如奇怪な鳴き声を発した。
「カカカカカカカカカカカカカカカカカカ……!」
人の笑い声のようにも聞こえる不気味な鳴き声にアリアたちは身を硬くした。
遠くではトイたちプレイヤーもあまりの気味悪さに青ざめた顔をしている。
状態異常誘発系か何かの間接スキルかとアリアたちが考え始めたところで、それは起こった。
石畳や戦闘の余波で露出した地面から、ぼこっ、ぼこっと白い手が無数に突き出され、続いて上半身、下半身と土の中から体を引き抜いていく。
街灯と月明かりの下に姿を晒したソレは、小ぶりのラウンドシールドと曲刀を装備した人型の白骨死体。
しかし頭部だけは人間のものではなく、トカゲの頭蓋骨を乗せており、そのギャップによって異様さをより際立たせていた。
「まさか、ドラゴントゥースウォーリアー……!」
おぞましい光景を目にしたトイが驚愕に呻く。
竜牙兵は、上級職のネクロマンサーが召喚・使役できる存在としてそれなりに知名度のあるモンスターだ。
難易度が中級以上のダンジョンにも生息している。
モンスターとしての種族レベルは45前後といったところだが、召喚された竜牙兵の強さは術者のレベルに依存するので参考にならない。
少なくともヒュペリオンゾンビが呼び出した竜牙兵はモンスターとしてのそれ以上、下手をすればレベル60台くらいには強いかもしれない、とトイは危惧を抱いた。
「なかなか芸達者ですこと……」
ドラゴンゾンビ系の魔物が呼び出す眷族としては妥当なところだ。
そう判断したアリスはさして驚きもせず、意外だとも思わなかったが、対処の手間が増えたことにはややうんざりしていた。
ヒュペリオンゾンビの周囲には50から60体ほどの竜牙兵がどこかカクカクとした動きでたむろっている。
ヒュペリオンゾンビは竜牙兵を護衛として使うつもりだとアリスは見て取った。
自分や姉妹たちにとってはさして脅威にならないだろうが、放置しておくと矛先が近くにいる人間たちに向かうとも限らない。
ユキの元にはアリーがいるため、神経質に心配する必要はないが、気がかりは予防しておくに越したことはない。
そこまで考えたアリスは、ずっと暇そうにしているアリンに仕事を与えることにした。
(アリン、あなたの出番よ)
(ん~? ターンアンデッドで消せばいいの~?)
相変わらずおっとりとした口調でアリンから返事が届く。
(それだと再召喚されて二度手間になるでしょう。範囲浄化魔法で手段ごと潰しなさい)
(でも~移動されたら意味ないでしょ~?)
(問題ないわ。その前に終わらせるから)
(は~い)
短いやりとりを経て、納得したアリンは僧杖を翻した。
目を瞑り、精神を集中して、魔法の詠唱を始める。
「楽園より零れし蒼き精霊の涙 清浄なる怒りとなって大地を満たさん」
詠唱を終えると、僧杖が蒼く輝き始める。
アリンは僧杖を手に大きく振りかぶると、石突(杖の下側の先端)を下に向けて思い切り投擲した。
約200メートル上空から投げ落とされた僧杖は、重力によって加速され雷光の如き勢いでヒュペリオンゾンビ付近の地面に突き刺さる。
オーバーアクションを済ませたアリンは祈るように両手を胸の前で組み、僧杖に魔力を送り込んだ。
「アクアリウムバニッシュ」
魔法が発動し、大地に突き立った僧杖を中心にして直径6メートルほどの魔法陣が地面に出現する。
直後、地下水脈まで掘り下げられたトンネルの出口の如く、ドドドドド……、と魔法陣から大量の水が溢れ出し、周囲一帯を満遍なく覆ってゆく。
浄化の力を宿した蒼水に押し流された竜牙兵たちはもの凄い勢いでLPを喪失し、数秒ももたずしてポリゴンの欠片に変換され散っていった。
ヒュペリオンゾンビもまた例外ではなく、竜牙兵に較べたら遅々としたものだったが少しずつLPが減少していた。
数秒ほど大量の水を吐き出して魔法陣が消滅し、水が引いた後には竜牙兵は一体たりとも残存していなかった。
更に、水を吸い込んだ大地が短時間聖属性を帯び、接地する不死種族や悪魔種族に持続ダメージを与え、かつ闇・魔・不死属性モンスターの召喚スキルを封印するという豪勢な副次効果まで発動している。
もっとも持続ダメージの方は微々たる効果で、ヒュペリオンゾンビの膨大なLPは見た目減少している様子はなかった。
(アリア、アリネ、アリカ、無理をしない程度にアレをしばらく足止めしなさい。その後、私が合図したらアリアとアリネはエクストラを使うこと。良いわね?)
(承知)(了解)(……はい)
アリスが妹たちに指示を出したタイミングと同じくして、ヒュペリオンゾンビは竜牙兵の再召喚ができないことに気付いたのか、緩慢な動作で移動を始める。
そこに上空からアリアとアリカが攻撃を再開し、遠い位置からアリネが狙いをつけ、発砲した。
足を止めて応戦を開始するヒュペリオンゾンビ。
ちょこまかと飛び回る小さな敵には大振りの爪や尻尾攻撃が当たりにくいとこれまでの経過で理解したのか、中央首がアシッドブレスを、左首がダークブレスを放って攻撃してくる。
アシッドブレスは射程範囲がスプレー型なのでかわしづらく、アリアもアリカも2発に1発は被弾するものの、上空でアリンが回復魔法を適宜かけてくれるのでさしたる脅威にならない。
ダークブレスは多少幅があるものの直線射程なためにすばしっこいアリアたちには全く当たらない。
しかし命中すれば相当な痛手を負うだろうことは、ダークブレスの直撃した建物がボロボロに風化して崩れていく様を見れば容易に想像がつく。
アリアたちが優勢に見えるが、ヒュペリオンゾンビも25秒間隔でLPを全快し肉体の欠損部も再生させるため、傍目には状況に進展のない不毛な戦いになりかけていた。
「私が無為に空を飛び回っていたわけではないことを教えてあげるわ」
レトロムービーの怪獣の如く、街を粉砕して暴れまわるヒュペリオンゾンビを上空から見下ろし、アリスは冷ややかな表情で誰とはなしに呟いた。
そして地面に立つように虚空に屹立すると、心地よい風に身を任せるかのように自然に両腕を広げ、目を瞑る。
数秒の精神集中の後、アリスは静かに口を開いた。
「遅延解除」
囁くような声が風に紛れて散り、アリスを中心として北・東・南・西の方角に直径2メートルほどの白く輝く球体のような積層型立体魔法陣が出現する。
アリスから各魔法陣までは10メートル弱の距離が開いており、真上ないし真下から見ると光の球体がアリスを取り囲んでいるようにも見える。
無論敵対的なものではなく、アリスが設置しておいた遅延起動型魔法陣だ。
それは極大魔法を放つ為に必要な事前準備だった。
魔法陣の出現を確認したアリスは、伸びやかな声を空に響かせた。
「集え 巡る星天の瞬き 其は明星の光となりて 黎明の闇を吹き散らさん」
アリスは滑らかに詠いながら念話でアリアとアリネに指示を送る。
(アリア、アリネ、頃合よ。次の自動回復後のタイミングを測って叩き込みなさい)
何を、とは指定しない。
言われずともアリアもアリネもやるべきことを理解しているから。
(承知)
応諾したアリアは、ヒュペリオンゾンビの顎から迸るダークブレスを上昇して回避しつつ、そのまま天高く舞い上がった。
(了解)
アリスとのやりとりに若干の意識を傾けながら、危険なブレスを放つ中央首を狙い、アリネは何度目かの狙撃を行った。
連続射撃で熱くなった銃身からは陽炎のように硝煙が立ち昇っている。
ヒュペリオンゾンビへの着弾を確認後、アリネは愛銃を消滅させると、両腕を天に掲げた。
そして、姉妹3人の詠唱が重なる。
「暴かれし原罪の咎人 遍く祭壇を背に 裁くは四天の聖霊なり」
「不義なる者を前に 我は断罪の神炎を身に纏いたり」
「天槌の権能 具現せし姿は雷光の射手」
アリスは胸の前でパァンと鋭く拍手を打ち、眉間に右手の人差し指を当て、そこから手を振り下ろすようにして印を切った。
(わたくしの最強魔法で逝けること、光栄に思いなさいな)
正眼に剣を構えたアリアの髪が真紅に染まったかと思うと、髪先が伸びるように炎へと変わって全身を覆ってゆく。
(塵も残さず燃え尽きろ)
遥か天空より一条の雷光がアリネの掲げた掌の上に落ち、放電の余波を撒き散らしながら直径1メートル大の雷球へと形を変える。
(……天の怒りを思い知れ)
「セラフィックフォース!!」
「イグニスインパクト!!」
「マテリアトールガン!!」
アリスの極大魔法、アリアとアリネのエクストラアビリティがほぼ同時に発動した。
上空に展開された四つの立体魔法陣から図太いビームのような光の柱が放出され、ヒュペリオンゾンビの肉体を貫き、触れたところから消滅させていく。
全身を包むように炎をわだかまらせ、フェニックスの如き外見の巨鳥と化したアリアがヒュペリオンゾンビの骨首頭部に突撃し、鎧袖一触で粉砕した上、破片を瞬時に蒸発させる。
アリネは両掌を前方へ突き出し、一瞬で狙いを定めて雷球を打ち出す。紫電を放って打ち出された雷球はヒュペリオンゾンビの黒首頭部に直撃、肉と骨の大部分を抉り取って貫通し、イースの夜空に一筋の光芒を刻んだ。
超強力かつド派手な3連続攻撃を叩き込まれてヒュペリオンゾンビのLP80%強が一挙に吹き飛ぶ。
骨首、黒首、胴体部分の大半を消し飛ばされ、もはや原型を留めていない四肢と真中の首を残すのみとなったヒュペリオンゾンビを冷酷な眼差しで見下ろしながら、アリスは呟いた。
「消えなさい」
その瞬間、立体魔法陣がビームの放出を止め、内部から白光を漲らせる。
まるで小さな太陽のように輝く光球と化したそれは、猛烈な速度で地上に落ちた。
カッ、と辺りが強烈な光で包まれる。
囲むように四方で炸裂した光の奔流に飲まれて、ヒュペリオンゾンビは輪郭を保てず、溶けるように消滅していった。




