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ナクした温もり 下 (改)

続きをどうぞ。

今回の御神託からは、ある項目が削られていた。


神の試練を受けられる強力な人材の育成を、という文言が……。

私達、普人族は神に見限られたのだ。


無駄とは思いつつも呼び掛け、嘆願はした。

結局、何の返答も得られなかったが。


そんな私の報告を受けて、父様は……決断した。

生け贄を捧げ、儀式を行う事を……。


しかし、誰を犠牲にするのか?

議論は揉めに揉めた。


今後を考えれば、二度も御神託を授かっている私は除き、他の者を生け贄に選ぶのは当然の成り行きだった。

そして王族であり、周りに示せる力を持ち、公人としても責任感の強い姉様が自分から身を投げ出す事も又、当然だった……。


それでも私とカイリ兄は、勿論そんな事を納得は出来ないし、理解したくも無い。

何度も思い止まる様に説得しようとし、最後は情に訴えてまで翻意を促そうとしたが、逆に代案を要求され論破され理性的に説得されれば、どうしようもなかった。


そして、国の会議でも遂に姉様の意見が通った……。


その代わりか……姉様とカイリ兄の結婚はあっさりと認められ、身内のみで、ひっそりと式を挙げた……。

本来の結婚式とは程遠い、悲しみに包まれて……。


それからは飛ぶように、時間は過ぎて行く……。

そして……。


 


「役目とはいえ、クズノハを殺すお前を、憎むかもしれない。

だから、暫く旅に出る。

どちらにせよ誰かが他国の様子を探らないとならないし、頭を冷やす意味でも丁度良かったんだ。

既に王にも、クズノハにも了解は貰った。

もう準備も整えたし、直ぐにでも出立する」


「……悪いのは何もしてやれない、無様で情けない俺だ。

だから、謝らなくて良い。

最後の時まで、あいつを頼む」


 


「……そっか、そんな風に言ったか、あの馬鹿は……」


「あいつを追い出したのは私よ?

決まった事を何時まで言ってる、そんな事より、この国の為に他にやれる事を考えろッ!!

私は最後にアハラミヤの為、最高の貢献が出来るんだからね?

そんな私の夫のアンタが、何の役にも立たなかったら私が恥を掻くのよ!?

分かったらサッサと動けッ!!てね」


「もォ~、だからアンタも……何時まで言ってるの!!

儀式何か失敗する訳ないわよ! 何てったって私を使うんだから!

それより役目の後の方が大変何だからね!?

潜在能力はあっても右も左も判らない奴に、事情を話して協力して貰わないといけないんだから!

指導・教育もアンタがやるの!

私は居なくなるんだから、もっとしっかりしなさい!!」


「あァ~もォ~ヨシヨシ、私が悪かった! 姉様が悪かった!

だから、泣かないでちゃんと聞きなさい?」


「……母様が亡くなってから、他でもないこの私が、手塩に掛けて育てたクレハが居てくれるから、私は安心して逝けるんだよ?」


「神や自分が駄目でも、私なら信じられるでしょ?……私が保証する! だから絶対に大丈夫!!」


「良しッ! なら、この話はお仕舞い!

所で話は変わるけど、召喚者って男女どっちが来るかな?

まぁ、女の子だったら私と近い位は綺麗で、心も素晴らしい娘が喚ばれるだろうから、直ぐに親友に成れるわね!

男の子だったらきっと……」


 


その夜は久し振りに姉様に抱き付いて眠らせて貰った。

昔、小さかった私が安心した温もりを感じながら……。

これで最後だと、思いたくはなかったのに。


朝起きると、もう姉様の姿はなかった。


姉様の侍女のミズキに聞くと、誰であろうと入れないように彼女に言い含め、儀式の時間まで瞑想室に籠ったそうだ……最後の言葉も言えないままに……。


そして本当の最後の夜が来る。


 


月が満ち、魔力が最高になる時。

裸身の私は生け贄を捧げる呪文を唱え、恐怖と緊張で震える手に、魔力で精錬した儀典用ナイフを携える。


姉様は生け贄の祭壇に身を横たえている。


祭壇の側に寄る。

姉様は私を促す様に微笑んだ。


私は意を決して………心臓に刃を振り落とす………姉様は……姉様は、苦痛で強張り、引きつりそうな表情を、無理矢理、微笑みに換え………息を引き取った。


結局、最期まで姉様は泣き言一つ言わなかった……。


私は姉様の着ていた鮮血に染まった襦袢を………引き剥がし素肌に羽織る。


そして詠唱が始まって……。


私の最後の言葉と共に、貴方の首は姉様の亡骸を背に現れた。


 


「姉様の命を奪った事と、あんな体になって自分の国にも帰れなくなった貴方に対して、最初は罪悪感で潰れそうだった。

なのに、それでも自分より私を気遣ってくれる貴方の優しさに本当に安心して。

貴方の考え方とかも聞いて、聡明さも解って、姉様の命はまだ、貴方の内で繋がっている、無駄になったんじゃないって思えた。

だから、謁見式中もあの事の後で動揺してるだけで、ちゃんと話せば分かってくれる、大丈夫って自分に言い聞かせてた。

でも謁見式の後からは別人みたいになって……話し掛けても上の空で……一人で部屋に戻ってしまった……。

そんな状態の貴方を見ても、少し時間を置いて落ち着いて貰えば、冷静になって貰えば、まだ大丈夫って勝手に信じてた……。

でも、時間を置いて普通に考えたら誰だってあんな事があれば変になるって分かってきて……。

それで大丈夫か不安になって、でも気付いたらもう夜が更けてて……。

今更もう許して貰えないかも、手遅れかもしれないけど、今すぐに会いに行って謝った後で、もう一度、今度こそ一緒に頑張って欲しいって、私の思っている事をちゃんと伝える為に部屋に来たの……でも無視されて、放っといてくれって言われた瞬間……私の思い、何よりも姉様の命が無駄になるんだって思ったら……訳が分からなくなって……気付いたら、あんな更に追い詰める様な非道い事を喋ってた!

あんな事言うつもりじゃ無かったの、本当にもう遅いけど……ごめんなさい!

本当は分かってたの……只でさえ大変な貴方に無理させてるのを……気付きたくないから目を逸らしてた事も……分かっていたのに……。

それでも楽しかったの……こんな私でも、寄り掛からせてくれる事が嬉しくて……姉様もカイリ兄も居なくなって……泣いていた私を、もう一度、笑える様にしてくれた貴方と、一緒にいられる事も……。

だからお願い! 怒られても叱られてもいいから……私を無視しないで!……貴方がいないと怖いの、もう一人じゃ無理! 耐えられない!!」


まさか、クレハがそんな風に思っていたとは……暫く呆気にとられて無言で見ていた。


「お願い、許して!……私、どうしたら良いの? どうすれば良いの?……もう分からないよぉ……」


そして遂に泣き叫ぶ、魂の慟哭の様に只々泣き叫ぶ姿は幼い迷い子にしか見えない。

普段の凛とした彼女をこんな風にしてしまった馬鹿で情けない俺を、そんなにも頼ってくれていて、そこまで信頼してくれていた事が嬉しくて、気付いたら彼女を抱き締めていた。


疚しい気持ちはないぞ!!

落ち着かせて上げたかったダケナンダ。

ウン、柔らかくて温かくて気持ちイイナンテ、カケラ程シカ思ッテナイデスヨ!?

コノママオモチカエリシテモイイデスカ? ソウデスカ。


俺が思考を飛ばしている間に少し落ち着いてくれたのか、クレハは顔を真っ赤にし、焦り気味に声を掛けてきた。


「ンンッ……あッあの、タカク様?……すッ少し苦しい!」

「イッ? アッ!? ゴ、ゴメン!」

「いッ、いえ、その、あの……」

「なッ泣いてるのを見たら自然に抱き締めてて、取り乱してるし落ち着かせ様と思っただけナンダ」

「そッそうですよね! すッ済みませんでした……」


きッ気まずい……何か小粋な冗談でも振らないと!!


「ま、まァ~端から見たら、さっきのはぶっちゃけ愛の告白にしか見えんわなー」

「えッ……!? あのッ……そういうつもり無くてッ……あッ! でもそうじゃ無くって、違うんです!!」


ギャ-!! マ、マズイ!! テンパって冗談にならない危険な話題を振っちまった!? いッ急いで誤魔化さないと!!


「そッそうだよね!? 違うんだよね!? さっきのはあくまでも端から見た場合的な一般論ナンダヨ? だから変に意識しちゃダメナンダスヨ!?」

「そッそうですよね!? 一般論ですよね!?」


ハハハッて二人で変に笑い合う。

デッカイ心のダメージは何とか避けられた様だ……。

今度こそ無難な話題を振らないと……そうだ!


「そういえば……さっきは敬語、いつの間にか止めてくれてたんだよな。 落ち着いたら戻っちゃったけど」

「あッ……すッ済みません。

御嫌でし「それで良いよ」……えッ?」

「せっかく本音を打つけてくれたのに他人行儀になるのは寂しいよ。

だから敬語も様付けも無しで!」

「きゅ、急には無理ですよ!」

「え~、すっごい寂しいな~! せっかく本音で話せる仲になったと思ったのに……」


わざとらしく悲しい表情をつくってみる。


「それって……ひょっとして……」


少しだけ期待する表情を見せてくれた。


「許すも何も、今回の事はお互いに気持ちを確り伝えなかったから、こうなったんだ。

俺も悪かったんだ。 辛いなら格好付けずにクレハに言えば良かったんだよ。

だから俺の方こそ、ごめんなさい!!

これで互いに謝ったんだからもう謝罪するのは終わり!! いいね?」

「わ、分かりました!

……でも言葉使いに関しては、なるべく善処するという事でも良いですか?」

「うん、ならそういう方向で!

その代わりってのも何だけど、俺の方もなるべく泣き言は言わない様にするよ。

でも、二人の時は珠には言わせてくれよな?

でないと、また、あんな情けない姿を見せる事になるかもしれないからさ」

「はい、私も思った事や感じた事は、なるべく時間を置かずにちゃんと言う事にします」

「さてと……なら後はクレハの親父さん達にも謝罪しないと……朝一番に時間を頂きたい旨を伝えて欲しいんだけど、お願い出来るかな?」

「はい、承りました! どうぞご安心くださいませ!」


言って、悪戯っぽい笑みを見せた。

そして二人で心から笑い合った。


 


と、ここで閉めれれば綺麗なんだが、俺なんかが格好を付けれる訳がなかった……。


「そういえばもう明け方近くか……何なら朝まで一緒に居ようか? なんつって!」

「は、はいタカクさ……タカクさえ良かったら構わないです」


ぐォッ……遂に苦節18年、初めて可愛い女の子に名前を呼び捨てに……イキテテヨカッター!!


言うまでもなく舞い上がって変なテンションの俺は、クレハに余計な気を使わせてしまったのだった……。



いかがでしょうか?

忙しいので、週一位の投稿になると思います。

それでも良ければ、付き合ってやって下さい

<(_ _)>


本文を少々、改行・空欄を変更しました。

4/28

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