弐の贄 (改)
約1月振りの更新です。
クレハに頼み、護衛の二人に話が伝わらない様に牢から離れて貰い、訝しげに俺を見詰める黒豹へと前置き無しで話を切り出した。
「イキナリで悪いけど、アンタと仲間の命が助かって、序でに牢屋から出られる美味しい話があるんだ。 尤もアンタが幾つか条件を飲む事と、仲間を説得できるかにも依るけどな……どうする? 聞いてみるか?」
「……話の内容次第だ。 それと話の前に確認したい事がある」
「…答えられる質問なら答えるよ」
「感謝する。 俺が問いたい事とは…貴殿がコノハラから召喚された者ではないのかという事だ」
一瞬、クレハ共々虚を突かれ固まってしまった。 それが総ての答えになったのだろう。 黒豹は納得した様に頷き、沈痛な声で言葉を繋いだ。
「…矢張そうか、出来るなら、もう少し早く教えて欲しかった。 知ってさえいれば協力もしたし、斯様な暴挙に及ぶ事も無かったものを……」
そんな事を言われても、初見の時は盗賊で、次の機会は暗殺者、普通はそんな輩に最初から全部まとめて話す奴がいる筈が無い。
……繋ぎさえ付けば、そんな輩へ徐々に話そうとは考えたケドネ。
それよりも、何で黒豹が召喚とかの事を知っているのかを聞きたい。
思い当たるのは、尋問の最中に、野郎同士で見詰め合ったアノ瞬間! 恋の花咲く…事ハ絶対ニ無イ!!……自分でも気持ち悪いセルフボケツッコミを咬ましそうにナッタ。
……ともあれ、それ位しか思い当たる節はない。 黒豹に、ソコん所どうでしょうかと振ってみた。
「貴殿の想像通り、あの時に深層心理を読ませて貰った。 感覚は似ていたが、あれは我等の心理と違い過ぎる物だ。 その為、我等の口伝を思い出し、貴殿が召喚されし者だと当りを付けたのだ」
尤も、読心術に関しては相手の同意と瞳を覗く必要がある為、実質役には立たないらしい。 例の感覚とやらも、鋭敏に反応するのは同族のみで他族の場合は気配の察知位しか出来ないそうだ。
でもって、彼らに伝わる口伝に依り、召喚されし者に協力する事はデフォらしい。 そんなに簡単で良いんデスカと問い詰めたいケド、黒豹の真摯な口調からイインダヨーと返って来そうなので、追及せずに納得する事にした。
「後は…そうだ! 協力するのに、お互いに名前も知らないってのは変だよな。 遅くなったけど、コッチから名乗らして貰うよ」
と言う具合に、俺とクレハは名を告げた。
すると、黒豹は名を告げるに今の姿では礼に悖ると言うや、徐に獣化を解いて普人の姿へと変わっていった。
……モウね-。 予想通りと言うか何と言うか……ヤッテラレネ-。 スンゴク、テンプレ。 ヤッパリ、テンプレ。 野獣の中身は、イケメンでシタ――ッ!!
黒髪を肩まで伸ばし、浅黒く日に焼けた肌に、スッキリとした眉、鋭い眼孔に涼しげな深紫の瞳、高い鼻梁と、凛々しく引き締まった口が乗っていマス。 もう俺としては視界に入るな、コノヤロ、コノヤロ、エイ、エイ!! と言う感じサ-……。
そんな傷付いた俺に構わず、
「コノハラから召喚されし真人よ。 改めて名乗りを上げる。 俺の名はコクウ、姓をフルミヤと申す。 齢二十と六、獣人・豹の出にして長の一族に連なりし者となる。 以後見知り置きを」
と胡座をかいて、軽く答礼を寄越しヤガリまシタよ、コノ美青年ハ!
て言うか、いつの間に見知り置く間柄になったんデショウか? 俺にとって世の女性の視線を釘付けにする方は敵だったハズ!!……ッて、直ぐ傍に麗しい娘が居ヤガリマシタ-!!
イケメンに瞳を煌めかせ、頬を染めるクレハを想像して、恐る恐る隣に目をやってみた。
普通ダ……てか厳しい眼差しでイケメンを見てらっしゃいました!
今、ココに、外見に惑わされない素晴らしい人材が残ってマシタ!!
「残念ですが、タカクと違って私は貴方を信じる事ができません。 だから、信用に足る証として私と血の契約を結んで貰います。 それが嫌なら話は此処まで、全て無かった事になります。 どうしますか?」
……浮かれる俺を他所にクレハの冷たい声が響いた。 デスよね、大事な交渉の最中ダモンね、そんな暇ナイヨね、俺って馬鹿ダね。
気を取り直して真面目に行こう……。
「……分かっている、当然だ。 だが、普人の姫よ…貴様では駄目だろうが。 タカクだったな? 真人の貴殿となら契約を結んでやろう」
「…何故、私だと駄目なんですか?」
「……当たり前だろう。 種従の契約は種族全ての契約であり、上に立つ者の義務だ。 だから貴様等は真人であるタカクを喚ぶ為に身内を捧げたのだろう?」
「…種従の契約とは何の事ですか? それに真人ってどういう意味ですか?」
「……少し待ってくれ……普人の姫よ、幾つか聞きたい事がある。 構わんか?」
クレハの了承の後、今更何故そんな事を聞くのか分からないが、コクウはアハラミヤが召喚を行った理由と目的について問い質してきた。
クレハも訝しげに思ったのか質問の意図を聞いてみたが、「必要な事だ」という一言の後、コクウは口を開こうとはしなかった。
俺達が何度となく声を掛けても黙り込んだ儘なので、仕方無くクレハは最初の神託から召喚の儀を行う迄の流れを淡々と語っていった。
「………だからこそ、神の指示で贄を…姉様を捧げて、召喚の儀を行ったんです」
「……貴様等、普人にとってはその程度の認識でしかなかったのに、贄の召喚を行ったのか」
「…その程度?……姉様が…姉様が命を捧げてまで守ろうとした事を、その程度ッ!?……絶対に許さないッ!!!」
「チョ、ま、待ったクレハ!! コ、コクウ!! 頼むから早く謝ルレ!!」
激昂してコクウに詰め寄るクレハを慌てて抑えながら、急いでコクウに謝る様に促した!!
「ま、待て待て!? 勘違いするな! 貴様の姉を軽く扱ってなどいない! 気分を害したのなら謝罪するッ!! 只、俺が今、口にしたのは、普人の王族が贄の召喚を行う意味すら忘れてしまっている事を言ったまでだッ!!」
叫ぶように声を張り上げたコクウを見れば、若干冷や汗を垂らし、引き攣った顔を晒していた。
……ザマァ、イケメン。 ナイス、クレハ!!
その後クレハを宥め、何とか誤解を解いて落ち着く事が出来た。
それなのに舌の根も乾かぬ内に、コクウは又々妙な事を言い出した。
今度は、何故かクレハに読心術を咬ましたいらしい。
……モウね、ヘンタイですネ。 クレハもゴミを見るような蔑んだ目をしていマスね。
「き、貴殿等が、何を考えたか想像は着くが、俺の名誉の為に言わせて貰う!! ソレはチガウ! 勘違イだ! 俺に妙な趣味はナイんだッ!!」
イヤ、そんな風に必死に成る程、アヤシく思われますヨ……。
更にその後……いい加減しつこい位に弁解するコクウに訳を聞くと、約定だの、召喚に関する事だの普人と獣人で、おかしい程に齟齬がある為、照らし合わせの意味で王族たるクレハを確認したいとの事だった。 それを聞いてクレハも渋々ながら受け入れる事となった。
術を施し、暫くすると険しい表情を浮かべて、コクウは話を始めた。
「……道理で普人の行動がおかしい訳だ。 まさかとは思ったが、約定から解かれ、種従の契約どころか贄の召喚に纏わる事すら失伝しているとは……。
それに、降された御神託についても妙な内容だ。
………いや、もしや神々は約定から解放されている事を知っていて、妙な御神託を降したのか!?」
「約定を解かれているって、どういう事ですか!?…アハラミヤを、国を救えるのならと、苦渋の決断だったのに……神々にはそれ以外にも別の理由があったんですか!?……教えて下さい! お願いします!!」
「…悪いが、長でない約定に縛られた俺から話せる事は一つしか無い。 贄の召喚が行われた以上、事はシノハラ全体の危機となる。 コレのみだ……。
それと、タカク。 もし貴殿が神の話と、それに纏わる我等の口伝や約定について知りたいのなら、我が長に会った時に尋ねれば良い。 貴殿になら長も話して下さるだろう。
……最も、普人の姫に教えて頂けるかは分からんがな」
……想像になるが、約定とは呪いの様な物で、込められた約に反する事は一切出来ない。 多分、黙り込んでしまった事や、他種族殺しに依る自害すら、それの影響なのだろう。 そうなると、コクウに問う事は難しくなり、自然と俺達の口も止まってしまった……。
「さて、タカクよ。 貴殿はクレハから血の契約…もとい種従の契約について、どう聞いた?」
「…血の契約は、絶対を司る主従の契約。 主は従へと益をもたらし、従は主への違える事なき忠誠を結ぶ…だったか?」
「まぁ、概ね合っているか。 ならば早く済ますとしよう」
コクウは、爪で切り裂き、血が伝う掌を俺へと向けた。
そして、俺はクレハからナイフを借り、同じく掌を切り裂き、血が滲んで痛む掌を、コクウの掌と合わせ、契約の呪を唱えた。
「…血を基に互いを結べ、其の力を互いにもたらす契約の証と為さん…」
その途端、血の気が引くような目眩と、背筋を這いずる寒気が走った。
「グォアッ? ギッ!?…ァァアアア――ッアアアア――――ッ!!!」
何だ? 何だコレ!? 足ガ痛イ。 熱イ! 焼ケル!? 千切レ――――ッ!!!………………。
契約を交わした途端、緊張から強張っていた真人の表情は苦悶へと変わり、耳を劈く絶叫を上げて倒れ伏した。
普人の姫は、暫し呆然と立ち尽くしていたが、何とか気を持ち直したのか慌てながらも真人に取り縋ろうとする。
そこに悲鳴を聞き付け衛兵が寄って来たが何とか追い返し、漸く容態の確認に掛かった。
………少し時が経ち、普人の姫は一つの吐息と共に安堵の顔を見せる。 どうやら真人は気絶しただけで身体に異常は無かったようだ。
しかし、契約を交わす事で気絶する程の痛みを伴うとは…長からそんな話を聞いた覚えは無いが……!
「普人の姫よ、召喚の際…贄は一人か?」
「…タカクの状態と何か関係が有るんですか?」
「いいから答えろ。 贄は貴様の姉だけか?」
「……姉様一人だけです」
「馬鹿が…上から喚ぶ、依り代となる為の贄が一つの命で足る筈は無いだろうが!! 何故そんな欠け……済まん。 知らねば御神託の通りにしか動けぬな。
……だが、今後どうする?…多分、他の種従の契約を交わす度に同じ様になるぞ。 今の様子を見るに、其の者に耐えられるとは思えん。
もし拒否されれば欲で釣るか…最悪、脅して結ばせるしか方法が無くなる。 どうするつもりだ?」
優れない顔色ながらも懸命に、拙い内容に苦慮しつつも必死に思考を巡らせる様に哀れみを覚える。
だが本人の預かり知らぬ間に、贄の伴侶となるやもしれぬ立場になってしまったのだ。 最早、これも宿命だと諦めて貰うしかない。
「……種従の契約とは回避出来ない物なのですか?」
「無理だ。 始めた以上、最後まで為さねば…シノハラは滅びる」
「理由を聞いても…」
「先程述べた通り、俺から伝える事は不可だ……悪いとは思うが約定という呪に縛られた身では、口伝を知る長の一族でも障りで口には出せん。 他の種族も、約定から解かれる王か長にしか全てを語る事は出来ないだろう」
「……分かりました。 貴方は…私の権限で解放します。 帰り次第、長の許で方針を纏め、直ぐに此方へ戻って下さい。 それで宜しいですか?」
「良かろう。 我等は、贄の召喚を知れば否応なく纏まる。 程無く戻れよう。
それよりも、寧ろ不安は貴様等の方にある」
「父王や重臣については何とかします」
「…それもあるが、タカクの事はどうするつもりだ?」
「……貴方の話を伝えて、分かって貰います」
「本当に、それで大丈夫なのか?」
「……私はタカクを信じます。 約束したんです。 互いに何でも話し合おうって……無理でも、私が必ず支えになります。 だから……」
猛る身体を嘗める風が心地好い。 草原を喜びに包まれながら、疾風の様にひた走る。
真人を信頼し、自らの覚悟を決めた者がいる。 正直、普人の姫を侮っていたが、これは俺の不明かもしれない。
考えてみれば、古の戦の時も贄の伴侶は普人の姫だった。 贄や他の種族の支えとなり、最後まで務めを果たしたと伝わっている。
約定を解かれ、失伝し、薄れようとも、未だ其の血を繋いでいるのだ。
現に不意を突いたとはいえ、俺を降す程の武を示してもいる。 更にソレが信頼する真人にも武の片鱗が見えるのだ。 コレを己が手で鍛え上げ、仕えてみるのも一興だろう。
……そして何より、諦め、燻っていた、己が武を、遠慮容赦無く奮える場が…遂に叶ったのだッ!!!
この興奮! この歓喜!! 言葉にも上げれぬ程の欲を、漸く開放出来る高揚感を押さえ付け、夜闇の中、俺は一心不乱に長の許へとひた走った!!
神様、私めに文才を~て言いたくなる今日この頃……。
11/11改稿




