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ヒトの矜持

階段を降りて進むうちに、カビ臭さに加えて饐えた臭いが漂い始める。 石壁は清められる事もなく薄汚れ、その為か闇を造らない様にと据え付けられた灯で照らされても、通路は異様に暗く感じられた。 その上、俺達に気付くと慌てて逃げて行く小動物まで棲んでいる。


ココは上とは隔絶され、居るだけで気分が滅入ってくる場所だ。

……漸く実感できた。 ココが上とは違う、一条の陽も差さない闇に包まれた不浄の世界なのだと……。


俺の少し前を歩き、護衛を供に尋問室へと向かうクレハを見詰める。 部屋を出る前から何故か沈んだ風に感じられた。 まぁ、こんな所にいればテンションが下がるのは当然だけど、少し心配になってくる。


「なぁ、クレハ。 チョット良いかな?」

「はい、何でしょう?」


クレハは護衛の方に先導を任せ、歩みを緩めて俺の隣に並ぶ。 そっと顔色を伺うが特に変わりなく見える。 気のせいかと思いつつも、適当に話を振ってみた。


「あの黒…じゃなくて猫属が素直に尋問に応じなかったらどうなるんだ?」

「その時は、応えるまで死なない程度の拷問に掛けられるか……薬物と術による尋問に切り替えられると思います」

「その後は?」

「供述の確証が得られて関連する者を捕らえ次第、法に則り斬首に処されるでしょう」

「やっぱり、そうなるよな普通に……。

なぁ、視察に行く前の晩、話してた事を覚えてる?」

「えぇ、覚えてます。 正直、私も城外の時は上手く事が運べるなら良い機会だとは思いました。 でも、ココまで事が大きくなった上は難しいと思います。

……何より他の獣人なら兎も角、猫属(アレ)はタカクの命を狙ってました。 理由がどうあれ私は許さない」


急に背筋が寒くなりまシタ。 クレハさん、お願いだから殺気立たないで下サイ。 普通ニ怖イデス。


……その後、直ぐに尋問室には着いたが、少し準備が遅れているらしく隣の詰所で待つ事になった。 結局の所、話し掛けつつ様子を見ても普段の彼女と変わりない様に思える。 変に気を回し過ぎたのかもしれない。 それなら今空いた時間は、この後の事をクレハにお願いするのに丁度良い。


「クレハ、悪いんだけど、俺に猫属と問答をさせて欲しいんだ。 その……」

「すみません……私、サッキから少し変ですよね。 だから、タカクにお任せします」

「……そ、そっか…ごめんな、我儘言って。 えっと、その……何かあった時は頼むな?」

「……はい」


やはり何か気に病む事があるらしい。 今ここで聞いて良いものか、ちゃんと部屋に戻ってから改めて聞くべきか、迷っている内に中の準備が出来てしまったようだ。 仕方なく気持ちを切り替えて、担当者の案内で部屋に入る。 その途端、吠える様な罵声が飛んで来た!!


「来たかッ! この面汚しがッ!!」

「い、いきなり酷い事言うな!?」

「当たり前だッ! 貴様は、普人族に恭順しているんだ!! 獣人の誇りを、心を捨てやがった!!」


そう吠えたてる黒豹は、体に縄を掛けられ、両手足は鉄の枷で拘束されている。 そうでもしないと、今にも襲い掛かって来そうな勢いだ!……!? それよりも、今コイツの口から不思議な言葉を聞いた気がする!


「……なぁ、ひょっとして、俺が獣人族って勘違いしてるのか?」

「勘違いも何も、貴様は馬鹿か? 感覚で同族か判るだろうがッ!!」

「感覚って……判るかそんなモン!! そんなアヤフヤな理由(コト)で俺を襲ったのか!?」

「……自分の事が分からないとはな。 貴様、捨て子か?」

「馬鹿な事言うな! ちゃんと普人族の両親から生まれて、育てて貰った!! 俺は獣人族じゃない!! いい加減にしろよ、お前ッ!!」


コイツに俺はコノハラの人間だと言ってやりたい!! そうクレハに目で訴えてみたが、首を横に振られた。

すると俺達を見て何やら納得でもしたのか、訳の分からない事を言い出した。


「フン……そういう事か……いいだろう。 貴様の思い込みに付き合ってやる。 証明して見せろ」

「グッ!! コイツ――……どうやってだ!」

「まだ惚けているのか?」

「俺が何を惚けるんだッ!!」

「……チッ、まぁいい。 気を鎮めて、俺の目を見ろ」

「何でそんな事を「いいから早くしろ。 貴様の潔白を証明するんだろう?」ッ……あぁ分かった! その代わり誤解だったら必ず謝まれ! いいなッ!!」


正直な所、野郎と見詰め合うのは気持ち悪かったし何か妙な事を考えているのかとも思ったが、相手は拘束されている。 それに何かあったとしてもクレハが何とかしてくれるかと考え直した。

……何より勘違いから命を狙われ、オマケに罵声まで浴びせられたんだ。 嘲る様に俺を見る、この黒豹(バカ)に謝罪させて、鼻を開かしてやらないと気が済まない!! だから何とか気を落ち着けて、言われた通りにしてやった。


………暫くすると黒豹は怪訝な雰囲気を見せ、次いで息を飲み驚いた様に声を漏らした。


「!?……なッ…そんな馬鹿な筈は!!……感覚は似ているのに、本当なのか……しかも、これは!!……」


声を挙げた後は本当に普人だと判って相当驚いたのか、黙り混んだまま俺を凝視して動かなくなった。


「どうだ! 判ったか!!……どうやって確かめたかも、言ってる意味も解らんけど、俺が獣人族じゃないのは判ったみたいだな!!」

「!……あ…あぁ、確認できたから、信じざるを得ない。

………今更、詫びを入れて、済む話じゃないが……命を狙った事、侮辱した事は…謝罪する……本当に、済まなかった」


あれだけの剣幕で捲し立てた黒豹が、驚きからか支えるように謝罪の言葉を述べ、呆然と視線を落としている。 そして無意識だろう、呻く様に呟いた声が耳に着く。


「………これで、俺達は…無駄に命を、散らす…のか……」


エッと、コレって……俺は悪くないヨネ!?


……その後の尋問についてはガイフ殿から立ち合いの許可を貰えてなかった為、退室する事になった。 以降の供述は書類にまとめ次第、コチラにも回してくれるそうだ。


 


尋問室を後にして、上に戻る為に足を進める。


「これでタカクの用は済んだんですか?」

「あぁ、猫属(アイツ)の誤解も解いたし、大丈夫さ」

「……そうですか。 それなら良いんですけど……」


他に何かありマシタっけ?……アリ? よく考えると黒豹の誤解は解けたが、残りの獣人達から俺の事が広まってしまいマスね……ヤ、ヤバイ!! コレからも何度となく襲わレル可能性ガ高イジャナイカ!! アレだけテンパってたのに何で直ぐ気付かないンダ!! 早く何とかシナケレバ!! 急いで冷静に考えロ、考えルンダ!!


……マ、マズ獣人達(ヤツラ)の誤解を解くには俺が普人だと証明すればいい………もう知っている獣人の黒豹がいるじゃないか!! デモ、その為には黒豹を牢から出さないといけない理由がいる………獣人族の上に繋ぎを付ける事が理由になるんじゃないか!? それに黒豹(アイツ)にとっては自分だけじゃなく生き残った仲間の命も助かる! 狡い考え方かもしれないが、アイツの現状なら間違い無く取引に応じる! 何よりもアイツの口から直接他の獣人の誤解を解く事が出来る!! これで何とかなるかもと思いながら歩いていたら、何時の間にか部屋の前に着いていた。


 


……現在、人員2名のコノ部屋はピリピリとした空気に包まれてマス。 2名の一方たるワタクシは身を縮めるように椅子に腰掛け、もう一方たるクレハは戻ってから一言も喋る事なく窓際に佇み、更にその背中からは怒りのオーラを漂わせているのデス。 その為、無言のまま大分時間が過ぎ去っていマス。

先程ミズキさんが気を利かせて茶の用意をしてくれましたが、それも温くなってしまいまシタ……。

多分、確認するまでも無く俺の浅はかな考えはスデにバレており、その結果怒っていると思われるのデスが……何という事デショウカ、先ずはその怒れる彼女と話さないと何も始まらないのデス。

待合室の事も気になるし、ココはなけ無しの勇気を振り絞ってクレハに話しを切り出してみまショウ。


「ねぇ、クレハ。 話しが「嫌です! タカクが許せても、私は猫属(アレ)を許せません!!」……マダ何モ言ッテナインデスガ」

「じゃあ違う話ですか? そうじゃないでしょう!? 誤魔化さないで下さい!!」


ボクの勇気は一瞬で砕ケ散ッタ……という訳にも行かないので、頑張って何とか話を繋いでみる。


「アノ…サッキ悩みというか、何か気にしていたみたいだから、相談に乗ろうカナ~とも思ってたんデスケド……」

「……それは、別に大した事じゃないので今はいいんです! そんな事よりも! 私が怒ってるのは、タカクの考え方が楽観的に過ぎるからです!!

……死にかけたんですよ!? 誤解でも最初は殺そうとしたんですよ!? また何かあったら同じ事を繰り返すかも知れないんですよ!? それを許すんですか!?」


部屋に戻ってからは初めて顔を会わせる。 そう言って振り返った表情には俺に対する不満や怒りはあったけど、同時に心配してくれているのも分かった。 クレハの目に溜まっていた物が、一筋流れていったから。

……それでも、クレハが心配してくれるのは嬉しいけど、コレは此方に有利なチャンスなんだ。


「……確かに猫属(アイツ)は犯罪者だ。 それでも間違いを謝る位の良心は持ってる。 それに俺を襲った時は裏切者と言ってた。 そう考えれば義侠心に富んだ奴だから、誤解とはいえ王城に侵入してまで追って来たんだと思う。 クレハが気付いてるか分からないけど、自分達が誤解で無駄死にする事を悔やんでるみたいだった。 だからこそ両族の関係を良くする為の意義のある行動なら、説得も随分と楽になるんじゃないか?

……他にも、チョット汚いけど俺達に協力する事で罪を軽減してやれば、自分や仲間の命も懸かっているし凄い感謝すると思う。 多分アイツの性分からも、一度約束を交わせれば破る事はしないと思うんだ。 それにアイツの口から直接他の獣人の誤解を解く事が出来れば、俺が襲われる事は無くなるよ」


……今、自分の足元を見る様に俯いているクレハは、俺の言葉を受け悩んでくれている。 クレハなら、俺程度が思い付く事は話しを聞けば直ぐに理解してくれる筈だ。

クレハが納得してくれるまで待つ……。


「……一つだけ条件があります。 私の案を猫属(アレ)が受け入れるなら、これ以上は反対しません。 でも、もしアレが拒否するようなら、幾らタカクの頼みだとしても私は協力できません。 どうしますか?」

「……分かった。 クレハの言う通りにする。 だから、その条件を聞かせてくれ」


俺の了承した言葉を受けて、クレハは漸く顔を挙げた。 まだ少し不満そうな表情で、暫く俺の目をジッと見詰めた後、目を伏せ軽く溜め息をつき、彼女は言った。


「……分かりました。 私の条件は………」


 


……部屋を後にした俺達は、再び地下へと降り、今度は尋問室ではなく牢獄の前に立っている。

獣人族の協力を得る為に、この男を説き伏せ、繋ぎを付けたいと思う。

そして俺は、格子の向こうで壁を背に座り、此方を見上げる黒豹に声を掛けたのだった。



自分の文才のなさに、悲しくなってしまいマス。 流れはできてるのに言葉が出てこないのデス。

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