考察と鉄拳術師
オリンピックですネ!
……その業界の人には、己の恥態を見て頬を染め、目を伏せ恥じらう美少女が居れば、それは素晴らしいご褒美なのかも知れない。 でも多分、普通の人格を有している(と思いたい)ワタクシとしましては何とも居た堪れず、直ぐにでも逃げ出したくなるのは仕方の無い事なのデス。
等と部屋の中央にある丸テーブルとセットになった椅子に腰掛け(勿論、用意してあった服を着ている)考えてマス。
……それはそうと、クレハが部屋に入るなり、ドアの前から動かなくなって随分と時間が経つ。 何時までもこの儘なのはクレハだって辛いだろうし、こうしていても仕方が無いので俺の方から謝ろうとしたら、クレハが口を開いた。
「ワッ私は…キ、気にシテませン…カラ……」
イヤ、マダ確りと気にしてマスよネ!? あの時は疾風のように去って行ったし、今も口調が怪しくなってマス。
……いい加減、何時までもウジウジとオワッタ事に拘っているのは、男として情けないヨネ。 折角クレハが、こう言ってくれてるんだし俺も早く謝ってお互いに忘れる事にしよう……。
「サッキは、その…気付いたら、アァなってて……心配してくれたクレハを不愉快な気持ちにさせたと思うんだ。 本当に悪かったと思ってます。 ごめんなさい」
「イ、イエ…私こそ変に反応して、飛び出したり……それに、そうなる原因は私が抱き付いたせいですし」
「イヤイヤ、泣いてたクレハを抱き寄せたりしたのは俺の方だから、悪いのは俺だと」
「そんな事ありません! あの時は姉様に慰めて貰ったみたいに安心できて凄く嬉しかっ…た……デス」
「エ~……御役に立てて、何よりデス」
……更に居た堪れない感じがするのは、気のせいだと思いたい。
それはそうと取り敢えず、こういう話をしていられるという事は切羽詰まった状態じゃないんだろう。 この問題は脇にでもウッチャッて、ズンドコ話を前に進めた方が良さそうだ。 本当に今がどういう状況なのか、早目に把握して置きたい処なのは間違いない。
「ア-、この件については最初にクレハが言ってくれた様に、これ以上お互いに気にしない方が良いと思うんだ。 俺の謝罪についても勿論不満があるとは思うけど、何とか受け入れて貰えると有り難いです。
それに、襲われた後どうなったのか早く知りたいのもあるし……どうかな?」
「ハ、ハイ! それで良いと思います。 私も時間を取らせる様な事をしてしまって申し訳ないです。」
「ウン、コッチこそゴメンな。 それと立ちっぱなしだったし、疲れただろ? 早く座ろう?
それじゃ……今が急ぎの状況じゃなければ確認とか検証したい事もあるから、クレハが部屋に入った前後位から話してくれないかな?」
「……解りました。 その点についての問題はないと思いますから、順を追って話させて貰います」
「……私が目を覚ましたのは、タカクの叫び声を耳にしたからです。 その後、巡回していた者が私の安否確認と指示を仰ぎに来ましたが、私はそれを無視して急いでタカクの部屋へ走りました。 その時になって漸く「賊が侵入したぞ!!」との声を耳にしてます。
私は知らなかったのですが、同時に宝物庫の方も襲撃を受けたらしく下も騒ぎになっていたそうです。」
「兎も角、部屋に着くなり異常は感じたのですが、控えのドアに鍵が掛かっていたので、声を掛け直ぐに蹴破って中に入りました。
……私が目にしたのは、血塗れで倒れていくタカクと振り向いた猫属の顔で………気が付いたら、床に倒れている猫属を見下ろしていました……」
「私にも何がどうしたのか解らないんです……。 部屋の光景を目にした途端…そこから意識が途切れた様に……。
……一緒に居た巡回の者が言うには、目で何とか追える位の速さで近付いた瞬間、術も使わずに一撃入れて投げ飛ばす様に床に叩き付けたそうです……」
「気が付いた後は……一瞬、訳が分かりませんでしたけど、猫属が気絶してるか確認して直ぐにタカクの治療に入りました。 刃傷は時間が掛かっても何とか術で塞いだんですが、血が足りなくて……タカクに造血の秘薬を飲ませる事が出来たから……命を取り留められたんです。
その後は、直ぐに使える空き部屋が無かったので……私の部屋へ運びました」
「賊に関しての報告によれば、襲撃した者は合わせて5人、全て獣人でした。 でも……結局、捕らえる事が出来たのはタカクを襲った者のみで、宝物庫の賊は殺した者を1人除き、手傷を負った者も取り逃がしてしまいました。
捕らえた猫属は身動きを取れない様に拘束してから、応急措置を施し牢に入れてあります。 尋問については、今日の午後から行うそうです」
クレハが話しやすい様に口を挟まず、頷いたり相槌を打つ程度にして最後まで聞き終えた。
聞きながらも不穏に思ったけど、先ずは目的が宝物庫なのか俺なのかで状況が全く違ってくる。
多分、これが本命で間違いないとは思うが、宝物庫ならば以前から準備を整えていた処に、何故か、偶々、俺を殺す理由があった黒豹が、単独で襲って来た事になる。
コノ場合は、俺を襲った黒豹は捕えたので余り心配は無さそうだ。
……コッチの方は本当に考えるのも嫌だ。 ひょっとシテ、もしかシテ、仮に、ナニかの間違いだと思うけども、俺がメインだった場合は……昨日の強盗騒ぎの後直ぐ陽動の為仲間を集め無計画に襲って来る程獣人に狙われている事になる。
……マ、マァ、もしソウだったらフツウはヒトリで襲ったりシナイよネ?……デモ急ぎで人手不足ならヒトリでもクルよネ!?…ソレダと失敗してもシぬマデ刺客がクルよネ!!……ハハッ…絶対尋問に立ち会ってソッコー問い詰めナケレバッ!!
「クレハ! 尋問には俺も立ち会わせてほしい!!」
「それは……理由を聞いても?」
考えを話し、奴に直接問いたいと説得する。
俺の体調の事もあり心配していたけど、クレハも一緒に居る条件で何とか了承を得る事が出来た。
直ぐに小さなベルを鳴らして控えていたミズキさんを呼び、ガイフ殿へその旨を伝える様だ。
それと王城に侵入された事で襲撃後の警備態勢も厳重になり、背後関係が明らかになるまで、俺を含む要人の傍や私室の前には常時護衛が付くらしい。 それを聞いて少しだけ安心する事が出来た。
次は、クレハに関してだ。 昨日は質問する機会が今一つ無かったので聞けなかった。 今が良い機会なので聞く事にする。
「トコロでクレハは魔術師なんだよね? 俺の勝手なイメージだけど、普段は後ろに控えて前衛の補助とか、ここ一番の強力な術で戦況の打破をしたりするんだと思ってたんだけど」
「術を行使する場合、真銀以外の金属製の武具・防具は魔力を練る時の妨げになります。 その為、術師は精々で革鎧や棍等しか身に付けません。 タカクが言った通り、前衛が居る場合や戦場等の大規模な部隊行動時は、その認識で大体合ってます。
ですが、昨日みたいな時は素手で戦えないと逃げるしか手がなくなるんです。 だから、術師なら誰でも最低限の護身術は修めているものです」
「エッと……アレが最低限なの?」
「アレは…ソノ……姉様やガイフ叔父が、私が小さな頃に嘘を……」
「嘘? どんな?」
「……魔術師は攻防守の総てに優れ、騎士より強い! 現に(女性で)一番強い御先祖様は魔術師だった! だから魔術師になりなさい! と」
「? それでどうして彼処までの技術に?」
「……当時、体の弱かった私は物語の騎士が大好きで、強い騎士になりたかったんです。 でも私を心配した二人は、魔術師に目を向けさせようと御先祖のツクヨ様を引き合いに出しました。
ツクヨ様は術師として高い能力を持っていたそうですが、それ以上に体術や武術に優れた方で、素手で魔獣を退治したりと色々な逸話が残っています」
「……ウン、モウワカッタカラ。 ソノ人ヲ目指シテ最低限ハ楽勝デ突キ抜ケチャッタンダネ?」
「……年頃になって院に入った時は既に、上の方を混ぜても体術に関しては私の方が上で、それが恥ずかしくて……驚かそうと皆にも内緒で修行していたので、これだけは私が姉様達よりも強くなっていて……姉様はそれ以降よく言ってました。 「アンタとだけは絶対に喧嘩しない!!」と……」
「でも……ソノお陰で俺の命は助かったんだ」
「!……ハイ、そうですよね」
「それに黒豹を倒した時も、きっと鍛練の積み重ねが無意識の内に出てくれたんだよ」
「……そう思う事にします」
そうこうしている内に、ミズキさんが戻ったみたいだ。 どうやら問題なく、ガイフ殿の許可も出たらしい。
そしてクレハの先導の元、俺達は護衛(またもや女性騎士だった……)を連れて地下の尋問室へと向かう事になった……。
連日の寝不足で仕事中の欠伸が……。




