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2.世界の理

 唐突に思い出した言葉が頭を過る。


「人前で感情を抑えられない事もあるだろうし、難題を抱えて逃げ出す事だってあるかもしれない。 でも楽な生き方は必ず後悔の元になる。 俺がそうだから間違いない」


 父さんが深酒をした時によく出る訓示だ。 大抵コレが出た翌朝は、澄まし顔で薬の用意をする母さんと、二日酔いで青い顔をした父さんの姿が見受けられた。


 何故この話を思い出すのかといえば、後悔しているからだ。

 何故後悔するのかといえば、感情的になった結果が目の前にあるからだ。


 王女様は、起きて俺を見るなり床に身を伏せ、泣きながら謝り出した……。


 母さんの言葉も浮かんでくる。


「女の子や小さい子には優しくね。 チョットした事は広い心で許したげなさい」


 今の場合はチョットの範囲に入らないとは思う。 俺は悪くないとか、泣きたいのは俺の方だよとか、少しは思う。

 でも理性が戻って、諦め半分だとしても許す気にはなったのに……目の前で更に泣かれて止めの土下座とか、モウ駄目デス。 心が痛い。

 ココは自分の為にも、何とか宥めて落ち着かせないと!

 取り敢えず、泣いていてもキッチリ聞こえるように気持ち大きめに声を出してみた。


「クレハ、だったよな? まず謝っとく! 昨日は感情的に怒鳴ったりして悪かった、ゴメン!!」


 声を掛けたら伏せたままビクッてシタ。 何かミスッたかもしれんけど、そのまま黙って様子を見る。

 ゆっくり顔を上げ、俺を見て……綺麗な顔が、泣き濡れて台無しに! こ、心がザクザクと刻まれる。 早くフォローしなければ!!


「ソノ、ね……い、今は、どうにか落ち着いたし、帰れないなら今後の身の振り方を考えたいと思ってるンダ。 だから、今度は怒鳴らずに確り話を聞くから……クレハも泣くの止めて、チャンと椅子に座って欲しいンダ。 ほ、本当に今は怒ってないから。 解ったら頷いてくれる、カナ?」


 多分、どうにか優しく言えたような気がする……。

 しゃくり上げながらボーッと俺を見詰めていた彼女は、少し間を置いてコクンと頷き、ユルユルと椅子に座ってくれた。

 チラチラと彼女の様子を窺い、時折ゴメンなと短く告げる。 その度に、俯いたまま微かに首を横に振る姿が痛ましい。


 結局、気の利いた事も言えず……クレハが落ち着いて話を始めたのは随分と時間が経ってからになった。


――――


 俺が元いた世界はコノハラと呼ばれ、今いる世界はシノハラと言うそうだ。

 このシノハラという世界には6つの種族が存在し、それぞれ国などを立て生活している。

 クレハは普人という種の王族で、俺が召喚されたのもアハラミヤ王国という普人族の国だ。

 普人族の外見は、毛髪の色が多彩な事を除けば元の世界[コノハラ]の人種と変わらない。 能力面でも身体的には同じようだ。

 ただ、1つだけ違うモノがある。 儀式・召喚ときたら想像するアレ。 ゲームや小説の定番、魔術という力だ。

 呪文を唱えて魔力を操り、様々な現象を起こす。 空想が現実になる! ハッキリ言って、コレだけは嬉しかった!! 喜び勇んで俺も使えるのか聞いてみた。

 その答は、判りませんという切ない回答だった……。


 理由は2つある。 1つ目、術の資質が無い場合。

 まず魔力は誰でも持つ力で身体中に宿っている。 当然俺からも魔力を感じるとクレハは言った。 ただシノハラには術の知識・理解を深めても使えない者がいるので判らないという答を述べたそうだ。

 俺がコノハラで魔術を使える人を見た事がないと話したら、軽く目を逸らされた。 イキナリ望みが薄そうだ……。


 2つ目、魔力量が足りない場合。

 魔力量とは、身体中の魔力を合わせた最大値で生まれた時から決まっている。 これは純然な才能に左右され、訓練などで増えるモノではないそうだ。

 術は魔力を呪文により変換・放出する事で使えるが、強力な術ほど多くの魔力を必要とする。 一回に使える魔力は体の半分位、それを超える量を一度に使うと最悪死ぬ事もある。 尤も術者になると自分の魔力量を感覚的に把握できるので、滅多に事故は起きないそうだ。


 俺の場合、首しか無いので魔力量は当然少ない。 多分、初歩の術でポックリ逝きそうな気がスル。 端的に言ってワタシには無理デスネ!


 オワタ。 儚い夢ヨ、サヨナラ。


 クレハは固まった俺を見て、慰めるように代替となる身体の話を続けた。

 シノハラには義体というクローン培養みたいな便利な技術があるらしい。 それで補えば生活は普通にできるそうだ。

 体が付いたら魔力も! と一瞬期待し、続きを聞いて更に落ち込んだ……。

 義体に魔力は宿らない。 俺の身体は全部ソノ義体になる。


 俺がクッタリとしていると、またクレハが頭を下げようとしたので慌てて止める。


「待った!! 謝罪はサッキ散々しただろ? もう諸々込みで許したつもりだから、謝らない事!」

「ですけど……」

「女の子に目の前で沈まれるとホント辛いデス。 勘弁して下サイ」


 何度も謝らせて悦に入る趣味はない。 何よりグジグジ言って器が小さいとか思われたくないし、男の見栄とかの小さなプライドがありマス……これで何時も損するんだと思うケド、これ引っ括めてが俺だから仕方がないのだ!


 気を取り直して話を進めて頂いた。


――――


 サテ、そんな普人族を他の種族と比較すれば、かなり明確な差があるらしい。


 例えば天人という種族はシノハラで一番寿命が長く、能力的に優秀かつ個人差も少ないそうだ。 但し子供が非常に産まれにくい為、少数しかいない。

 それと対極の種族が普人族だ。 短命で、能力的には階級・個人ごとの差が激しく不安定、全種族で比べれば劣る面ばかり目立つ。 その代わり、多産なので数だけはシノハラで最も多い。

 長寿・優秀な順に並べると、天人族、魔人族、竜人族、獣人族、鬼人族、普人族となり、人口順は逆になる。


 ここまでの話しを聞くと普人は可哀想な種族に思えるが、利点もあった。 他種族よりも能力が不安定で多産な為、極稀に圧倒的な素質を持つ者が生まれるのだ。

 実際の処、千年程前には天人族を凌駕するまで成長した普人もいたそうだ。

 また、そういう存在は他の種族でも生まれはするが、優秀な種族ほど出生頻度は減り、能力の振幅も小さくなるらしい。 つまり普人族も一部の者を考慮すると中々に捨てたモノではないようだ。


 そして各種族でも力を持つ人達は……何と神にまで成長する。

 神とは神託を降され、試練を越えて昇天(死ぬ訳ではなく位階が上がる)した人を指す。 力がある者は更に強くなり長い時間を生きる。

 これが嘘や冗談ではなく、普人の歴史書には昇天した普人について記されているそうだ。

 しかし、千年程前を最後に何故か昇天した者の記述はパッタリと途絶えている。

 当時の人々は特権階級の血が濃くなり過ぎた為に、強力な個体が産まれなくなったと考えたようだ。 そこで知識的な勲功があったり、武功を立てた者の血を取り入れたりしてみたが……やはり神託が降りる事はなかった。

 それでも暫くは何とかしようと様々な試みが行われたが、全て徒労に終わったと記載されていたそうだ。

 そのまま長い年月が過ぎ、神との繋がりは人々の記憶から薄れていった。 そして長い年月は、それらが連綿と行われていた理由さえも忘れさせていた。

 突然、五年前に神託が降るまでは……。


 神はこう告げた。


「普人の神が、普人の王族に告げる。 天界で寿命により神の力が減退している。 シノハラでも様々な災いに見舞われるだろう。 それを防ぐ為にも神の試練を受けられる強力な人材を育てよ。 無理ならば贄を捧げ上位世界コノハラから人を召喚せよ」


 この神託を授かったのがクレハだ。 当時11歳の彼女は声を聞いただけで、圧し潰されるような存在感と背筋が凍りつきそうな程の桁違いの魔力を感じたそうだ。

 恐れ戦きながらも、クレハは直ぐに父でもある国王へ神託が降された事と告げられた内容を報告した。

 この時は実害が出ていなかった為、一般には神託が降りた事と国の主導で人材育成を行うという布告だけに留まったそうだ。

 しかし一年、二年と時間が経つと土地が痩せ始め、作物の収穫量は徐々に減少し、狩りの獲物まで段々と少なくなった。


 こうなると国としても急いで対応するより他はない。 新たな土地の開墾や水利調整を行い、交流のある種族からは新種の作物を輸入し、栽培するなど被害を食い止めようと試みた。 それでも殆ど効果が無い。

 勿論、人材育成にも力を入れていた。 しかし、誰にも試練を告げる神託が降りない。

 城の宝物庫には貨幣・食料共、あと数年は余裕で賄える量の蓄えはある。 だが、税収が減り続ければ何れ尽きる事は目に見えていた。

 こうして遂に国の滅びが現実の問題となったのだ。


 そんな中、普人族の神からまたも神託が降る。 それが召喚の儀式を行った日から一週間前の事だ。

 今回もクレハが神託を賜ったので事前に纏めていた質問をしたり、何度も呼び掛けをしてみたが、全く返答が無かったそうだ。 今度も警告を伴う似たような内容だったらしい。


 これを聞いて、神託は上からの一方通行で意見も出来ない不便なモノという認識を持った。 他種族に降った過去の神託でも神サマの対応は同じらしい。

 神サマにも事情があって直接的な干渉が出来ないダケだと思いたいが、被害が出た後の警告とか全く意味が無い。 要求のみでコチラを無視、関心すら持っていないように思える。


 色々と疑問は感じるが、話を最後まで聞く事にした。


――――


 結局何も成せないまま時が経ち、再び神託は降った。 それを受け、国王は漸く儀式を行うと決める。 ただ、問題が1つあった。


 贄をどうするかだ。


 術や儀式を統合する魔術院に諮るも良案が出てこない。

 そんな中、儀式の二日前に国の宮廷魔術師がある案を出した。

 国の最高の宝モノを捧げれば良いと……重臣達による会議は紛糾し、侃々諤々に荒れたらしい。

 それでも宮廷魔術師は一人づつ丁寧に説得し、国王もその案で執り行うと決を下した。


 儀式は神託を受けたクレハが主宰として行う事になった。

 クレハ達、魔術院の者は相当な覚悟と決意で儀式に臨んだ。 魔力が高まる満月の晩を選び、複数人による多重詠唱で魔力を増幅、ソコに国の最高の宝モノを贄に捧げた。

 なのに、喚び寄せる事が出来たのは男の生首だけとなる。


 召喚者が死に儀式は失敗。 茫然と立ち尽くして首を見詰めていたら、急に目を開いたらしい。

 生きているのが信じられず、確認しようと首を持ち顔を寄せた。 すると強張った表情で周りを見渡し、いきなり叫び声を上げたそうだ。


 話しを聞いて思った。


 我ながら何てリアルホラー……俺なら確実に気を失いマスね。 絶対に。


 しかし、そんな時でも首をチャンと持ってるとは、随分と肝が据わってらっしゃる。 流石に一国の王女様だ。


「でも凄いな。 よく落とさないで持ってられたよ。 俺だったら、叫ばれた時点で間違いなく気絶して落としてたな」


 と誉めたらクレハの顔が引き攣った。


「ふぇッ……まさか、落とした? マジデ!?」

「イ、イエッ! ソノ……違イマス」

「ダ、ダヨネ! 何か片言だけど落とさないヨネ!?」

「……私も、一緒に気絶しました」

「ダ、ダヨネ。 普通ハ気絶スルヨネ……ハハッ。 マ、マァ……異常無しで喋れるから大丈夫だよ、ウン」


 とか言いつつ、俺の顔も引き攣っていたようだ。 また頭を下げようとするクレハを宥め、王女様なのにエライ腰の低い子だと思いながら、同じやり取りを繰り返す嵌めになった。


――――


「以上が、この度の顛末です。 ご理解頂けましたか?」

「ウン、大丈夫。 取り敢えず体については何とかなるし、前向きに考える。 それで最後の話、もう1回聞かせて? カミサマは何処に居て、いつ会えるんだっけ?」

「天界に居られるので試練を終えて昇天した時か、何かの御用で下界へと降りて来られるのを待つしか、御目にかかる機会は……ありません」


 ヘー。 用があったら来れると……。

 軽く目を瞑る。 幾分か気を鎮め、目を開ける。 意識して冷静に声を出す。


「少し自分だけで考えたいんだ。 暫く一人にしてくれるかな?」


 クレハは少し目を伏せて、答えてくる。


「……分かりました。 退室致しますので何かあればお呼び下さい。 直ぐに参ります」


 そう言って彼女は軽く会釈し、立ち上がると部屋を出る為に歩き出した。 入口の前で再び頭を下げ静かにドアを閉めるまで、傍目には平静を保つ事が出来たと思う。


 ハァ~堪らん。 何で俺がこんな目に……ココまで来ると溜め息しか出ない。

 もう独りだし、少し位は良いでしょ?


「マジ頭来る! 何が上位世界から召喚しろだッ!! 直で謝れよッ!! 無責任な糞神は本当シねッ!!!」


 呪いの怒声が、広い部屋に響いた。


13/2/23 改訂

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