普人と獣人
連続投稿です。
クレハと雑談しながら夕日に染まった街並みを抜け、城へと帰る。 その途中で、それは起きた。
「ウワァ!……!? だ、誰か…!? そ、そこの人ッ、そいつ等を捕まえてくれッ! 泥棒だ――ッ!!」
声に驚いて振り返れば、さっき擦れ違ったオジサンが倒れ伏しながらも声を張り上げているのと、紐の千切れた鞄を手に此方に向かって駆けて!? 獣人族か!!
「鼠属と猫属!?…ッ止まりなさい!!」
警告の声を挙げるなり、クレハは何かの術を唱えながら突ッ込ンでイクッ!? エッ? 何シテ…止めッて、危なッ!?………両手足に白光を纏い、素手で戦ってマス。
エット……何コレ、魔術師ジャナカッタノ? 武道家デスカ!?
呆気に取られる俺を他所に戦いは続く。
クレハはネズミに似た鼠属の刺突を掌で叩き逸らし、黒豹に似た猫属の放つ斬撃は身を捻って躱す。 掌底や肘撃、牽制の足払いを放ち、華麗な足の運びで目まぐるしく間合いを変え、熟練の技で攻撃を次々と捌く。
それは洗練された美しい舞いを見ている様だ……ッて、ボ-ッと見てる場合じゃなかった! クレハの表情に余裕はない!! 早く何とかしないと…! そうだ護衛ッ!!
「護衛の方! 一人は俺を守って! 残りはクレハの援護を!!」
そう大声で叫んだ! チョット情けないが、現状で一番マシな対応だ! 少し離れた所から5人程、此方に駆けて来るのを目にしつつ、クレハの様子を窺う。
奴等も耳にした様だ。 護衛にも気付いたのか、飛び退く様にクレハとの間合いを開ける。 少し顔を見合わせ、俺の方を一瞥すると、左右に身を翻し脱兎の勢いで逃げ出した。
「まッ待ちなさい! 逃がし「止めろクレハ! 自分をよく見ろ!!」ッ……!? キャッ!!」
「キャッ、て? へ!?…ブハッ!!」
お、お約束ゥ?……テ、テンプレ-!?……俺ニモ起キタ―――ッ!!
一瞬、何を見たか解らなかった。 映像が頭に届き、解析が完了した途端……心が叫んだ!!
服が胸元から、お腹に掛けて裂けてマシタ! 綺麗な形のアレから、カワイイおヘソまで余さず目に焼き付いてマス!! コレは脳内メモリーに保ぞ!?……しゃがみ込んでいるクレハから恐ろしい気配が!! マ、マズ…
「見た?…見まシタ!?……見ろッテ言ッタ!!」
「ミ、ミテナイ! 見テナイ!! 見てナウ!!……ち、違ッ!? み、見ろッて言ったのは体の状態を把握しろッて意味!! 汗だくだったし呼吸も乱れてたダロ!? それと振り返って直ぐ、シャガンダから見えてナイッ!!」
見たのがバレたら不幸な目に遭いそうな予感がヒシヒシとする! こういう時は黙っているのが正しい漢の生き方だろう。 声にせず、ココロの内で留めたのも俺にしてはファインプレーだ! ヤハリ今、運命の女神はオレに微笑んでイル!!
俺は、ささやかな幸福を噛み締めつつ、動揺しているクレハを落ち着かせる為に必要な事ナンダ!と自分を騙し、半分だけ嘘を吐いた。
取り敢えず目のやり場に困るので、俺が纏っていた外套を渡す。 クレハは肌を隠すと、涙目にスゴイ勢いで尚も問い詰めて来るが、俺は圧されながらも必死に嘘を貫き通した。 その甲斐もあり、何とかクレハを納得させる事には成功した。 言い訳する間に、やっと来た護衛の方々(何故か女性ばかりだった)の物言いたげな視線が痛かったが……。
倒れたオジサンは、護衛の方に起こされ何か話している。 鞄は残念だけど、見た感じ怪我もなさそうで良かったと思う。
鞄は盗まれ結局は逃がしてしまったが、獣人族はナハトさんの講義通り恐ろしい強さだった。
一見、クレハ独りで抑えていた様にも見えたが、黒豹の獣人は途中から何故か俺を警戒し、積極的に攻撃をしなくなった。 クレハの攻撃も、俺に注意を払いながら躱している様に見えた。
鼠の獣人も攻撃はしていたが、急所を狙わず腕や脚を中心に攻撃していた。 それを捌くのに、かなり体力を使ったクレハを見ると、速さ重さは相当なモノだったのが分かる。
そして最も脅威を感じたのは、逃げ足に見せた体力と敏捷さだ。
一応とはいえ戦闘を行った後、此方から姿が見えなくなるまで走り去る体力、戦闘中には見せなかった身の熟しと、アッという間に遠ざかる爆発的な脚力は恐怖を覚えた。
殺しはしないと聞いてはいたが、どうしても奴等が俺達を殺すつもりだったらと考えてしまい背筋がゾッとする。
正直に言えば、逃げてくれて助かったとしか思えない。
今後なるべくなら、奴等と事を構えるのは避けたいと思う。
考えている内に、オジサンと護衛の方との話し合いも纏まった様だ。
オジサンは金貨を数枚ほど渡されホクホク顔で去って行こうとした時、急に振り返り俺を凝視して驚いた表情を浮かべた。 そこで初めて俺の視線に気付いたオジサンは曖昧な笑みを浮かべると、ソソクサとその場を立ち去って行った。
様子のおかしなオジサンの後ろ姿を眺めていると、ふと違和感を覚えた。 何だ? 何か引っ掛かる。
オジサンを見詰めながら立ち止まり、考え込んで動こうとしない俺を見て、クレハが声を掛けて来る。
「タカク、暗くなってきましたし、そろそろ行きませんか?」
違和感はあるのに、暫く考えても出て来ない。 オジサンも遠く離れて見えなくなった。
「エッと………フ~、それじゃ帰ろうか?」
これ以上考えていても何も出て来そうにない。 諦めて城へと歩みを進める事にした。
夕食後、何時もの様に今日の出来事や雑談でもしようと思い、話し掛けようとしたら少し眠そうにしているクレハに気付いた。
あれだけ術を使って、最後は戦闘までやったんだよな……疲れて当たり前か。 そう思うと申し訳ない気持ちになった。
「クレハ、今日は、お互いに疲れが溜まっている様だし早目に休む事にしないか?」
「……そうですね。 タカクの言う通り、少し疲れてるみたいです。 お言葉に甘えて今夜は休ませて貰います。
……それじゃあ、お休みなさい」
「ウン、お休みなさい」
クレハを送り出した後、珠には早寝するかと寝る用意をする。 今日は色々な事があった。 最後はアレだけど、興味を引かれる事は沢山あったし、知人も増えたり、クレハとの楽しい時間を過ごす事も出来たなと思いつつ自分のベッドに潜り込んだ。 俺も疲れていたのか、眠りは直ぐにやって来た……。
………急に肌寒さと人の気配を感じ、ハッと目が覚めた。 !?…直ぐ側に誰かいる! 慌てて飛び起き、目にした姿は、あの時の黒豹に似た猫属だった!!
誰か呼ぼうと大声を出そうとした俺に、白い軌跡が迫る! 言葉になら無い叫び声を上げ、必死で体を倒す様にして横に転がった!! 肩に鋭い痛みを感じながらも、ベッドを挟んで何とか距離を取れた。
今の突きは間違いなく俺の左胸、つまりは心臓を狙った一撃だった! 他種族を殺さないハズの獣人族が急所を狙って来た! 本気で俺を殺そうとしている!? 訳も解らず混乱する俺に黒豹が声を出した。
「裏切り者が! 報いを受けるがいい!!」
裏切り者? 報い? 何の事か解らない儘、必死に白い軌跡を避ける!! 不思議と何処を狙った攻撃か何と無く分かるので致命傷は避けているが、手加減の無い命を奪う攻撃を振るわれる度に、体には傷が刻まれていく!
そうやって何とか命を繋いでいる内に、俺の叫び声を聞き付けたのかドアの方からクレハの声が聞こえた。 何を言っているか解らないし、返事する余裕なんて無い。
身体中の至る所が脈打ち、激痛と出血の所為か視界は白くなり、気も遠くなってきた……。
反射的に身体は動いている様だが、その感覚も薄れていく……。
コレで死ぬのかな?と思いながら、俺の意識は再び闇の中へと落ちて行った……。
また少し間が空くと思いますが、話は続きます。
良ければ今後も見てやって下さい。




