夢と現実
前話から、あまり日を置かずに更新できました。
良かったら楽しんで下さい。
夢を見ている。 小さかった頃、熱を出した時に見る漠然とした怖れを感じさせた夢に似ていた。
世界をモノクロにし、白黒を逆転する。 闇の世界に浮かぶ人は真っ黒になる。 瞳は白く、白眼が黒く、肌は世界と同色で、目鼻立ちや輪郭の白線が無ければ人とは分からなかった。 逆に人以外の動物や植物は、闇から切り出した様に真っ白だ。
そんな覚えのある圧迫感を伴った音の無い闇の世界で、帰れない日々の生活は淡々と過ぎていく。 悪夢を見て心が冷えていく自分を感じながら、何時ものように学校に行く為にドアを開け、ふと瞬きをした間に状況が一変した。
日常の風景から、山の中だろうか? 闇の世界は同じだが、景色が切り替わった。 それと一緒に最初からあった圧迫感も消えていた。
周りを見る為に首を振ろうとしたが、固定された様に動かない! それどころか体が勝手に動きだし、視界もドンドン流れて行く。
……まあコレは夢だし、嫌な感じも消えている。 ヨシ! 成り行きに任せる事にしよう!! 頼んだぞ~俺のカラダ~。
ソンナ訳デ今……太刀を持った俺のカラダは勝手に戦っている!
最初は猪、次は熊、蛇や蜥蜴と、チョット、いや結構デカイが野生動物のオンパレードだ。 一番小さい蜥蜴でも俺の身長位アリ、一番デカくて凶暴な森の熊サンになると4m近くアリマシタが、大変美味しくイタダキマシタ。
戦いの場も、その時々で山中・森林と切り替わり、現在は草原で戦闘中デス。
少し言わせて頂くと……コノ身体、俺とは思えない程、チョー廃スペックなんデスが!?
最初こそ揺れる視界や襲い来る獣達にビビッたが、今はあまりの強さに映画の主人公の視界や、ARPGのチョー絶プレイヤーのデモムービーを鑑賞している様な気分です!
サッキまでの戦いもほぼ無傷で潜り抜け、今も狼の群れに囲まれているンですが、2回程背後から襲われたにも拘わらず、感ジル!と何処のNTデスか!?とツッコミたくなる様なチョー反応で躱したり、ソコ――ッ!とばかりにすれ違い様、一刀両断で狼の開き(白いので詳しくは見えません、ヨカッタ)を造ったりと正に無双状態!!
何匹もいた狼サン達が早くも半数まで数を減らしました……。
動物愛護の精神が全く無い、ガチキチなカラダから逃げて貰う為、残ったフサフサさん達に強力なNT(繰り返すがニートではない)としての念を送ってみた。 するとココロが通じた様だ。 群れのボスであろう一回り大きなフサさんを先頭に、名残を惜しんだのか何度も振り返りながら、ゆっくりと去っていった……念を送った際に尻尾を丸め、怯えた様に震えていたのは気のせいだろう。
その後、残ったフサフサさん達からフサフサの素を譲って貰う。
その作業を見ながら疑問に思った。 俺は夢に見る程まで、獲物の解体の仕方や肉を食う為の火起こし、草を使った傷の手当て等、各種サバイバル術を詳細に見た覚えは無いハズだ。 それなのにカラダの方は手慣れた様に作業を続けている。
他にも疑問がある。 先程見ていた戦闘術だ。 あまりにも闘い慣れし過ぎている。 俺が触った事もない太刀を見事に操り、獣達を屠る。 巨大な相手や複数の敵にも怯えず、傷の痛みにも躊躇しなかった。
………このカラダは本当に俺のカラダなのか?と考えている間にカラダの方は何時の間にか作業を終え、立ち去ろうとしていた……。
フサと別れた後は黙々と歩いている。 延々と視界を流れて行く、代わり映えの無い景色を眺める事にも飽きた……。 早く夢から覚めてくれないかと思っていたら、漸く村か何かが見えて来た! やっと暇が潰せると喜んでいたら、唐突に無音の世界にノイズが走った!!
闇の世界が徐々に歪み、光点が増えていく。 それに連れて雑音としか思えない不快なノイズが、次第にハッキリとした音に変わっていった。
その音が俺を呼ぶ声だと解った時………世界は白に染まっていた。
「タカク! タカク!!」
クレハにしては珍しい程、取り乱し慌てている。 多分、クレハにイイトコロを見せようと、飲み慣れない酒を無理して呷ったんだろう。 何時ものクレハなら慌てず騒がず術の一つでも唱えて、無理したお馬鹿さんにお説教って流れになるハズが……。
「クレハ、クレハ。 多分、酔いが廻ってブッ倒れたダケだから、何時もの様にチャチャッと魔術一発で治したら良いと思うよ?」
「そ、そうでした! え~っと術、術、術は!?……エッと……?」
「……ハイ、深呼吸~吸って~……吐いて~……」
重症だ……今日のチョッカイ一発目から変だなとは思ってたけど、これ程とは……。
カイリ兄を抜かせば、男に対して潔癖症、小さい頃から恥ずかしがりやの絶対防壁だった娘が、こうまで変わってしまうとはね~。 今も術を施した後、甲斐甲斐しくも世話を焼き、何を……膝枕まで飛び出した!?……コレはクー姉でもビックリだ!! 母サンまで呆気に取られて目を見開いてマスね!? 意識シテナイだろうケド、人前でココまでデキる娘ジャナカッタンデスガ。
………ッ! マズイ事に気付いた! ヤバイ事に違いはないけど今は助かった!! 挨拶もしないで奥で皿洗いをし、今は買い出しに走っているリクが居なくてヨカッタ。 ヤツが見ていたら血の涙を流し、タカクさんが一人になる時を狙って闇討ちしかねない……。
さっきから寝言で、「かくせいか…」とか「はやくにげ…」とか呑気に寝てるタカクさんを見て、優しく微笑んでいるクレハには悪いが、ヤツが帰ってくる前に何とかしなければ!!
「……クレハ? ソロソロ起コシタ方ガ良イヨ?」
「そうでした! タカク、起きて」
何度か声を掛けられながら、そっと揺さぶられて気付いたのか目を覚ました様だ。 さて、起きたのならばココは一つ、こうマデするのに違うと言い張ってくれた親友と、彼女を射止めた幸せな彼に、私からの細やかな御祝品を受け取って貰う事にしよう。
「所でクレハ~? 今、タカクさんに何してるの?」
「何って……!!」
ゴンッと良い音が響き、それを追い掛け、「グオォ――ッ!?」とくぐもった声が響く。
頭を抱え床を転がるタカクさんと、慌てて術を唱えるクレハを目にして、数人残っていた馴染みのお客さんからも苦笑が溢れた。
コレでリクにも言い訳が立つし、二人の為に無理矢理にでも我慢させようと思った。
でも、この時の私は知らなかった。 彼等二人の悲しい出会いを……普人族を皮切りに、シノハラの世に住む総ての種族が苦難の時代を迎えた事を……。
上のお達しで久々にマトモな休みがあたった!!
無駄にせず書き上げました!!




