デキル事とデキナイ事と
いつもより少し長いですが、宜しくお願いします。
ナハトさんは表情を曇らせ、余り口にしたくなさそうな雰囲気を醸し出している……。
「獣人族は、大別して三つ程に区分けされています。 犬属、猫属、鼠属等です。 その他にも細かい差異がある者もいますが、概ね三つとされています。
まぁ、大別したのも理解しやすい様に我々が大体に分けただけなので、彼等には彼等の言い分もあるでしょう。
ですが、一先ずそれは置いておきます。
犬属は、大体が街道沿いや峠道等の交通の要所を中心に活動しています。
内容は盗賊・山賊行為です……。
鼠属は逆に、街や都市部に拠点を構え生活しています。
日々の糧はスリや泥棒です……。
残った猫属なのですが……彼等は個体毎に、好きな方に与して行動しています……。
……後は、完全に確認が取れた訳ではありませんが、街中で生活する"極々"一部の者達は私達に混ざり"真面目"に"普通"に暮らしている様です」
「えッと……その……」
「言いたい事は分かりマス……。 罪を犯した者は、捕まえれば済む事デスヨネ……。
……スミマセンが、説明を全て終わらせてから、質問は受け付けさせてイタダキマス」
マズイ……普段の朗らかな表情を忘れてイマス!! 眉間に皺、口は引き吊りながらの笑みを形作り、額には青筋が……目が鋭いのでチョット表現してはイケナイ顔付きに……!?
俺は慌てて首を縦に振った。 今これ以上、彼を怒らせてはイケナイ!!
「……説明を続けます。 何故、彼等を捕まえる事が難しいのか。
それは彼等の能力の為です。 その能力とは獣化と言います。
彼等の獣化前の姿は普人族と見分けが付きません。
しかし獣化すると其々の部属毎の特徴が現れます。
他にも力は我々の数倍に、俊敏さも数倍に跳ね上がり、更に竜人族とは違い我々と同じく武器を使い、魔術も多少は使ってきます。
その為、一人に対して兵役に就いている者でも数人懸かりで何とか互角といった所です。
それに必ず複数で行動し、個別行動は絶対にしないので、逃げを打たれると殺すなら兎も角、捕縛する事は、ほぼ無理です。
他にも理由があります。
まず、同族以外の前で獣化はしません。
彼等は私達と違い何故か獣化前でも同族か分かります。
それと獣の特徴が強いからか気配の察知にも優れています。
ですから私達には正体がばれません。
追っ手を撒いて人の気配の無い所で獣化を解き、後は人混みに紛れればお手上げです。
次に獣化時に死んだ場合は、その姿のまま正体は分かりません。 逆の場合も同じです。
国や本拠地が在るのかも分かりません。
昔話に成る程の過去には彼等の国も在ったらしいのですが、所在地も記録されていませんし、もうアハラミヤの各地や商業都市レイヤールに溶け込んでしまっているので必要が無いのかも知れません」
此処まで一気に説明をしたナハトさんは、目を閉じ、自分を落ち着かせる様に軽く一息をつく。
そして俺に視線を合わせ質問してきた。
「さて、タカク殿は獣人族に対してどんな風に思いましたか?」
「……その気に成ればアハラミヤを征服……いえ、シノミヤさえ手に出来るんじゃないですか?」
身体能力は獣化すると普人族の数倍、戦闘力・隠密性に優れ、潜入・暗殺も楽勝だろう。 アハラミヤはまず落とせる。
次いでチハラミヤに戦を仕掛けて降し、三種族全ての数の暴力で竜人族を攻める。 其処まで行けば後はどうとでも成る。
少し考えれば、直ぐに答えは出るだろう。
でも、おかしい……。 俺でさえ考え着く事を、未だに実行していないのは何故だ?
考え込んでいる俺を見やり、ナハトさんは口を開く。
「一見、無法者にしか思えない彼等にも一つだけ避けている事があります。
掟があるのか、理由があるのかは分かりませんが、彼等は他種族殺しだけはしません。
商隊を襲ったりしても殺す事はまず無く、もし抵抗したとしても軽い怪我で済みます。 護衛すらも無力化するだけです。
街で生活し、隠れて兵役に就いている者がいた場合も、戦の始まる直前までには軍を脱走し、姿を消してしまいます。
仮に誤って他種族殺しをした場合は、直ぐにその場で自害するか、数日内には獣化した死体が目立つ場所に晒される事に成ります」
ナハトさんはやるせない表情で、絞り出す様に言葉を繋ぐ……。
「普人族は現在、困難に見舞われています。 他種族にもこの事は知れ渡っています。
それでも彼等は、今も普人族の陰に寄り添う様に生きています。
私は思うのです。 その様に、良くも悪くも共に生きるつもりなら、何故こんな時にまで愚行を繰り返すのか!
手を携えてくれれば私達がどれだけ感謝の念を懐くか……。
物資はこれからも徐々に減り続けます。 そこに彼等が略奪を続ければ、更に減ります。
彼等は理解してくれません。 その行為が自分達の首まで絞めているという事を……。
これが彼等に憤る理由です」
そう言って空を見詰めるナハトさんの眼は、悲しみを湛えていた……。
静けさが痛い……。
その空気に堪えかね、何か声を掛けようとした時、テラスに出てきたクレハの姿が目に入った。
事務方からの伝言で、何か問題が起きたらしく至急ナハトさんの判断を仰ぎたいとの事。
結局、その日の講義はそれで終了した。
夕食後、今日の講義の内容や、最後にナハトさんが憂いていた問題についてもクレハに話してみた。
「政務長の言う通り、彼等の協力を得られれば十分な助けになります。 問題はどうやって連絡を取るか、協力を取り付けるかです。
……タ、カクは、どうすれば良いと思いますか?」
……まだ呼び捨ては恥ずかしいみたいだ。 声が小さくなるし、顔も少し赤い。
普通にカワイイ。 この恥じらいの表情は素晴らしいモノデス。
ココガボクノアンジュウノチダッタンダネ。
「……あの、タカク? 聞いてますか?」
「へ? ハッ、効いてマシッ!? き、聞いてまする!!」
……クッ、見事に笑いを取ってしまった。
俺の妙な反応がツボに入ったらしい。 クスクスと笑っていらっしゃる。
いい加減、慣れないと変に思われるワナ……。
気を取り直して答える。
「え~、先ずはどっかの商隊に同行して、王都近くに現れる盗賊団に襲われる。
で、アハラミヤの国使だと理解させ、獣人族の偉いさんに繋ぎを付けて貰う。
交渉し、何かの利で協力を取り付ける。 っていうのはどうかな?」
「……商隊に同行するのは簡単だと思います。
ただ、彼等に襲われるまで王都と目的地を何度も往復するのは時間が掛かるし、国使として交渉するから、父様達にも話して置かないとダメですね。
後は、話を持ち掛ける盗賊団が、獣人族の上の方と繋がりがあるのかが分からないのは確認の取り様がないし……ウ~」
「待った待った! 直ぐに動くんジャナイから! アクまでも仮定の話ダヨ!?」
「えッ……すッ済みません! 私、早とちりしちゃって!」
……顔を赤くして謝るクレハ。
昨日の後からは、クルクルと色んな表情を見せてくれる様になってきた。
その表情を見る度に、理性という名の防壁が崩れていく……。
ツ・ツ-・ツツ-……敵ノ兵器ハ強力、ワレ援軍ヲ求メズ……。
「……あの、本当に大丈夫ですか? さっきからボーッとしてる事が多いし……。
……ひょっとして、他に何か心配事があるんですか!? それなら話して下さい! 私に出来る事ならしますから!」
ウン、シテモライタイコトガイッパイアルンダ。 ソレハネ……ッて駄目だ――!!」
時が止まった……。 正面に驚いたクレハが固まっていマス。 思いが溢れていた様デスネ。
……早く確認しないとッ!!
「ゴメン、俺、今、何て言ってた?」
「……いきなり、駄目だって……」
OK、セーフだ! まだまだ闘える!!
「……さっきの事を色々考えていたら、良くない想像をしちゃってサ。 つい声が出てたみたいだ。 ゴメンな? 驚かせて……」
少し目を伏せ言ってみた。
「そうだったんですか……。 ありがとうタカク。 そこまで真剣に考えてくれていたなんて……」
クレハの暖かい眼差しがツライ……。
実際に、こういう事をしたら、ここまで良心の呵責が半端ナイとは。 ここからは、もっと真剣に考えよう。
……ゴメンなクレハ。
……良い案が出ない。 あれから結構な時間を掛けて意見を出し合ったが、コレだ! という決め手がない。
二人で難しい顔をしていると、部屋にノックの音が響く。
こんな時間に誰だろう、と思いつつ返事を返すと、
「失礼します。 お飲み物をお持ちしました」
と来たので、どうぞと返す。
そういえば、夕食後から何も飲んでなかったな、と今更ながら気付いた。
入ってきた侍女の……クレハの話で確か聞いたよな?……ミズキさん?は、優雅に御茶と茶請けの用意をする。
へぇ~紅茶にクッキーか。
「何かございましたか?」
「えッ、あぁ、緑茶や煎餅かなと思っただけで」
「そちらの方が宜しければ、ご用意致しますが?」
「あるんですか!?」
「? はい、いかがなさいますか?」
「い、いや、いいです。 お構い無く」
俺が畏まって遠慮すると、それを見た彼女は俺に向き直って一礼する。
「失礼ですが、一言申し上げます。
タカク様は、アハラミヤにとっては国賓になられます。 ですので側仕えの者に対しては、そこまで遠慮なさらずに御用の際は何なりと申し付け下さいませ」
と言うと俺にニコリと微笑んだ。
確か、彼女は亡くなったクズノハさんの侍女を、長年に渡って勤めてきたはずだ。
俺に対して色々と思う所もあるだろうに、それをおくびにも出さずに、自分の勤めを果たしている。
このアハラミヤには、素晴らしい人達が一杯いる。 そんな国の危機に、助けとして俺が喚ばれた。
正直に言って、俺には全ての問題を解決する事は出来ない。 でも、学んで一緒に事に当たる位は出来るはずだ。
その為に、今は出来る事を増やすのが一番大事な事だと思う。
色々調べたり考える事も大切だけど、何も出来ないのに考え過ぎるのは間違いかもしれない。
出来る事が増えれば、新しい道が見える可能性も上がる。
そう考えると、少し肩の力を抜く事が出来た。
「うん、ありがとう。 次からはそうさせてもらいます」
そう返すと、彼女は俺とクレハに一礼し、
「では、何かありましたら御呼び下さいませ」
と部屋から退出して行った。
「それじゃ、休憩にして少し雑談したら、今日は終わりにしよう」
「今日は、もういいんですか?」
「あぁ、今考えて良案が出ないのは足りない事が多いからだと思うんだ。 だから一先ず置いて他にも情報とか集めてから、また後日に検討しよう」
「そうですね、それなら私の方から情報収集の手配はしておきます。 何かしら有力な情報が入れば、お知らせしますね」
「ありがとう、頼むよ。 正直、知らない事が多いから、クレハに教えて貰う事や頼る事が沢山あると思うんだ。 だから、これからも宜しくお願いします」
「私の方こそ、さっきだって色んな考え方を聞かせて貰えて感心しました。 それに、タカクが一生懸命なのを見ているのは凄く嬉しいもの!」
グォゥ、だから、俺の理性を破壊するなとあれほど(ry
「それはそうと、明日は私が魔術について教える日ですが、少し相談があるんです。
……良かったら、二人で城下を見て回りませんか?」
「えッと、いいけど、ソレって!?」
「も、勿論、父様の許可は貰いますし、離れて護衛も付きます。 それに、何かあれば私が守りますから心配しないで下さい!」
いや……女の子に守って貰うのはチョット。
……でもソレって……もしかしなくてもデート!? デートですヨネ!! 大事な事なので二回イイマシタ!!
苦節18年!! イキ…
「今日の事で思いました。 城下の暮らしを見て貰えば、もしかしたら良案が出るかもしれないって。
勿論、直ぐに良案が出ないのは分かってます。 でも、これから後、何かの判断材料とかになるとは思うんです。
……どうでしょうか?」
ウン、分かってたんダ。 俺にはまだ早いってサ。 多分ソンナ事だと。
……俺にミラクル等ない!!………ン!? イヤ待て、俺が思い込めば、コレは視察と言う名のデートなんじゃナイカ? ソウだよ、間違いナイ!!
早くニコやかに返事をするんダ!!
「ウン、分かった! 明日は宜しく頼むよ!!」
「はい! それでは、お休みなさい」
「ウン、お休みなさい」
急いで明日の為に、準備をしなければ!!
……思えばヨコシマな事を考えたからバチが当たったのだろう。 冷静に考えれば、護衛もいるから無理なのにネ。
次の日、あんな事が起きるとは予想もしていませんでシタ……。
連続投稿される方の凄さを実感した今日この頃です。




