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トラわれた者、トラわるる者

短いですが、挟んで置きます。

「ゲンジ、本当にこれで良かったのか? もう引き返せない所まで、来てしまったのも解っている……。 それでも……」


相変わらずの無表情、いや、とっくに心が凍てついているコイツには死ぬ事しか救いにならないのは、もう解っている。 その為に必要な事だとも解っているが余りにも惨い……。


「お前は見てきただろう? 最初からの、俺が信じられる本当の仲間は、もうお前しか残っていない。

あの屑共も結局、俺を殺す事は出来なかった。


俺は疲れた……。

もう自分の心を削る事も、これから先、残ったお前が消えた後も、唯独り、無為に時間が過ぎ去って行くのを眺める事にも俺は耐えられない……。


アイツが居なくなった後も、俺は十分に務めは果たして来た。 俺が消えた後の為に、どうにもならない屑共の掃除も済ませた。

馬鹿な奴等が全て消えた後の方が、何を始めるにもやり易い。

此処まで、お膳立てをしたんだから俺が休みを貰う為にした事ぐらい許してくれ。


それとも……お前が俺を消してくれたのか?」


それを私に言わないで欲しい……。 出来る訳がないし、そもそも、そんな気になる事はない……。 何て酷い男だ……。


「済まん……。 だが俺は、これ以上には誰とも心を繋ぎたくはない。

残される思いに潰されるのは、もう御免だ」


私は一つ、溜め息を溢す。

何を言っても変わらないのだ。 ならば、もう前に進める事しか、してやれる事はない。


「あぁ、もう此処までした以上は私も同罪だ。 最後までお前に殉ずるのも一興だろう。

精々、派手に育ててやるとしよう。

だが私の遣り方にまで口を出すなよ?」

「それについては、お前に任せる。

どのみち俺は、時が至るまで此処に座しているのみで、他にする事がない」


沈黙が漂う。

そう言えば、これは聞いていなかったと、ふと口を開く。


「ねぇ、聞きたい事があるんだ。 いい?」

「……似合わんぞ。 急にしおらしくなって、何を聞きたいんだ?」

「グッ、もういい!!……聞きたいのは今まで選んできた道についてだ。

もし、こうなる事が判っていて過去に戻る事が出来たなら、道を違えようとするか?」

「フンッ、変わらんよ。 例えまた、こんな所に辿り着くのだとしても、あの時々の選択は間違ってはいなかったし、変わらなかっただろうな。 でないと、お前達に会う事も、心を繋ぐ事も無かっただろうよ」

「そうか……そう聞ければ、アイツ等も喜んだだろうな……。

詮ない事かも知れないが、もっと前に聞いて置けば良かった……」


 


「では、そろそろ行こうと思う。

……最後の別れだ。 何かあるか?」

「いや、いい。 俺から言う事はない」

「チッ、最後まで素っ気ない奴だ!!……じゃあな!!」


そう言って、転移術を発動する。 これで生きてコイツと会う事も、私から声を掛ける事も、最早ない。 そう思って消える瞬間、


「有り難う」

「えッ……」


呆然とする私の顔を見つめながらの感謝の声と、微かに笑んだアイツの表情が目に焼き付く。


本当に最後まで酷い男だ。 私の返す言葉を聞きたく無かったらしい。

こんな土壇場になって最後の言葉を告げやがった!!

怒りと遣る瀬無さに胸が疼く。


……フン、まぁいい、まぁいいさ。

仲間の内では、先に逝った彼女よりも一番最後までアイツと過ごしたのだ。

あの世とやらで彼女に会えたなら……いなくなった後のアイツの事を散々に愚痴ってやろう!……恋しい彼女に会えた途端に強烈な説教を喰らうがいい!!


その為にも、アイツとの取り決めは確り果たしてやろう。

そう思いながら、私は漆黒の翼を羽ばたかせ、久し振りの下界に降り立った。



色々と想像していただける事が、楽しみです。

それではまた宜しくお願いします。

(^-^)/~~

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