第8.5話 ずっと
朝の光が、木の窓枠から優しく差し込む。
ミリアは台所で、蜂蜜パンを焼いていた。
夫は数年前に魔獣の討伐で亡くなり、
今は未亡人として、娘のエリナと二人暮らし。
でも、寂しさはいつも胸の奥にあった。
それでも、エリナの笑顔を見ると、
すべてが溶けていく。
「ママー! パン、焼けたー?」
エリナが台所に飛び込んでくる。
水色の髪を二つに分けて、赤いリボンで結んでいる。
頰のそばかすが、朝陽にきらきら光る。
ミリアはしゃがんで、エリナを抱きしめた。
「もう少し待っててね。
今日は蜂蜜をたっぷりかけてあげるから」
エリナはミリアの胸に顔をうずめて、
くすくす笑う。
「ママの匂い、好き……パパの匂いも好きだったけど、ママの匂いが一番安心する」
ミリアの胸が、きゅっと痛んだ。
でも、すぐに微笑んで、エリナの額にキスをする。
「ママも、エリナの匂いが大好きよ。甘くて、ふわふわで……世界で一番の匂い」
二人は小さなテーブルに並んで座る。
パンをちぎって、蜂蜜をたっぷりつけて、
ぱくぱく食べる。
「ん~~! おいしー!」
「エリナがそう言ってくれると、ママも幸せ」
食事が終わると、エリナはミリアの手を引いて、外へ。
「今日は市場に行こー!新しいベリーがあるって、おばちゃんが言ってた!」
ミリアはエリナの手をぎゅっと握って、
路地を歩く。
エリナはスキップしながら、歌を歌う。
「ママとエリナ、ずっと一緒~♪パパもきっと天国で見てるよ!」
ミリアは涙をこらえて、笑顔で頷く。
「……うん。ずっと一緒よ。ママが、エリナを守るから」
市場では、エリナが屋台の前で目を輝かせる。
「ママ見て! このベリー、青くてキラキラ!
エリナの髪と同じ色!」
ミリアは銅貨を数えて、ベリーを買う。
エリナは袋を抱えて、にこにこ。
帰り道、エリナがぽつり。
「ママ……パパがいなくなっちゃって、寂しい?」
ミリアは足を止めて、エリナを抱き上げた。
「……寂しいよ。でも、エリナがいるから、ママはがんばれるの。エリナの笑顔が、ママの太陽だから」
エリナはミリアの頰に両手を当てて、額をくっつける。
「エリナも、ママが太陽だよ。ママがいなくなったら、エリナ、泣いちゃう」
ミリアは涙をこらえて、エリナを強く抱きしめた。
「……ママは、絶対にいなくならない。
エリナのそばに、ずっとずっといるから」
夕方、家に戻ると、二人はベッドに並んで座る。
ミリアはエリナの髪を梳きながら、昔話を聞かせる。
「昔ね、ママとパパは、こんな街で出会ったの。
パパが『君の髪綺麗だね』って言ってくれて……
それから、ずっと一緒にいたのよ」
エリナは目をキラキラさせて、聞く。
「エリナも、パパみたいに、ママのこと大好き!
ママのこと、世界で一番守りたい!」
ミリアはエリナを抱きしめて、頰をすりすり。
「ママも、エリナのこと、世界で一番守りたい。
どんなことがあっても、エリナの幸せが、ママの幸せだから」
夜になると、二人は同じ布団にくるまる。
エリナはミリアの胸に顔をうずめて、眠りにつく。
「ママ、おやすみ……大好き……」
ミリアはエリナの髪を撫でながら、囁く。
「おやすみ、エリナ。
ママも、大好きよ……ずっと、ずっと」
月明かりが、二人の影を優しく包む。
未亡人の悲しみは、確かにあった。
でも、エリナの存在が、その悲しみを優しい光に変えていた。




