第6.5話 守る。
街の守備騎士団の宿舎、二階の小さな部屋。
夜の帳が下り、魔法のランタンが一つだけ、
柔らかな橙色の光を投げかけている。
アリアは鎧を全て脱ぎ捨て、
白いシャツ一枚でベッドに腰掛けていた。
胸の重みが解放されて、肩が少し落ちる。
汗で湿った金色の髪を、指でゆっくり梳きながら、窓の外を見つめる。
外では、街の灯りがぽつぽつと瞬いている。
子供たちの笑い声が、遠くからかすかに聞こえてくる。
アリアは小さく息を吐いた。
「……今日も、無事だった」
彼女の瞳に、過去の影がよぎる。
十年前。
まだ騎士見習いだった頃。
アリアの故郷は、小さな辺境の村だった。
魔獣の襲撃が頻繁で、村人たちはいつも怯えていた。
ある夜、魔獣の大群が村を襲った。
父親は槍を手に立ち向かったが、すぐに倒された。
母親はアリアを抱きしめて、隠れ家の奥に押し込んだ。
「アリア、絶対に声を出すんじゃないよ……
お母さんは、みんなを守るから」
母親は村の広場へ走っていった。
子供たちを逃がすために、魔獣の注意を引くために。
アリアは隠れ家の隙間から見た。
母親が、魔獣の前に立ちはだかる。
小さなナイフ一本で、子供たちを背に守ろうとする。
「……みんな、逃げて!」
母親の叫びが、夜空に響く。
魔獣の爪が、母親の体を切り裂く。
血が噴き出して、地面に広がる。
アリアは声を殺して泣いた。
指を噛んで、血の味が口に広がるほど。
村は壊滅した。
生き残ったのは、アリアと、数人の子供たちだけ。
その後、アリアは街へ流れ着き、騎士団に拾われた。
訓練の日々は厳しかった。
巨乳のせいで動きが制限され、
男たちから嘲笑されたこともあった。
「そんな胸で剣なんか振れるのかよ」
「邪魔だろ、それ」
でも、アリアは黙って耐えた。
鍛え続けた。
なぜなら、胸の奥に、母親の最後の言葉が刻まれていたから。
「みんなを守るから」
アリアはベッドの端に置いた剣を、そっと撫でる。
「……お母さん、私、今でも守ってるよ。
街の子供たちを、家族を、笑顔を」
彼女は立ち上がって、窓辺に寄る。
街の灯りを見下ろしながら、静かに呟く。
「怖いよ。いつか、私の力が及ばなくて、誰かを失うのが怖い。でも……それでも、守りたい。あの日のように、誰も泣かせたくない」
アリアは胸に手を当てた。
心臓の鼓動が、強く、確かにある。
「この胸が、重くても。この体が、傷ついても。
みんなが安心して眠れるなら……それでいい」
彼女は小さく微笑んだ。
優しく、でもどこか寂しげに。
「明日も、剣を振るうよ。街を守るために。
みんなの笑顔のために」
ランタンの光が、アリアの金色の髪を優しく照らす。
騎士アリアは、この街がずっと幸せであることを願っていた。




