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苦手な方はご注意ください。

異世界転生・転移の文芸・SF・その他関係

SF世界に転生したら裁判で別の星に追放されたけど、こっちの方が住みやすくない?

作者: よぎそーと

「あれか」

 囚人護送用の宇宙船。

 その窓から外を見た霧島レイジは、自分がこれから過ごす星を見た。

 地球化が進められたその星は、追放刑を受けた者達の送り先。

 星一つが全て刑務所である。



 送り込まれた囚人は、最低限の配給だけを受けて残りの人生を過ごす事になる。

 生活に必要な道具はなく、ただただ食って寝るだけの日々。

 仕事に追われる事も無いので、ある意味快適ではある。



 しかし、寝る場所も着る物もなく。

 野外に野ざらしのまま放置される。

 食い物は提供されても、これでは死ねと言ってるようなもの。

 問題を起こして受刑者になった連中に、これ以上の支援は不要という事なのだろう。



 なお、人権を基本理念として各種判断をするAIであるが。

「衣服も住居もなくても飢えることはない。

 だが、食料がなければ人は確実に死ぬ」

という判断をしている。

 人権を最低限は保証する措置として、食料だけは提供するが、他は不要。

 これがレイジを追放したAIの司法判断となっている。



「さすが人権」

 人を何一つ守らないのが人権である。

 この基本理念通り、人権はレイジから何もかも奪い、最低限を更に割り込んでいった。

 そもそもレイジの刑を決めた判断すらおかしなものだった。



 家に押し入った強盗。

 これを撃退。

 そうしたら、「強盗に怪我を負わせた」「強盗の心身を損なった」とされた。

 特に、一人が死んだ事が悪質とされた。

 結果、家から何もかもを奪い、レイジを殺そうとした者を撃退した事で罪となった。

 暴行・傷害・傷害致死が罪状だ。



 なお、強盗は無罪放免となった。

 というより、裁判にもならない、検察による不起訴で終わった。

 強盗の出身地や出身身分を考慮してとのこと。



 いずれも人権という法律に基づく配慮。

 そして、この配慮を刻まれたAIによる決断。

 検事や裁判官も、この法律と人権とAIの判断を承認した。



 そんな理由でレイジは、これから囚人として残りの人生を過ごすハメになった。

 納得も釈然もしないが、もうできる事はない。

「どうしたもんかな」

 さすがに前世の知識や経験をもってしても、この状況は覆せない。



 レイジはSFなまでに科学が発展したこの世界に転生してきた。

 この世界はレイジの知恵や知識を必要としないほど発展していた。

「チートにはなれないか」

 こう思って残念がったのも懐かしい。



 ただ、生活水準は比べものにならないほど高い。

 努力と苦心の末に発展させねばならないわけではない。

 楽なのだ、とにかく全てが。

 そんな世界で、レイジは主人公にはなれなかった。

 しかし、名前のない背景の一部であろうとも、十分に生きていける。

 活躍が必要がないのは、これは別の意味でありがたかった。



 しかし、問題が全くないとはいかなかった。

 レイジをみまった強盗のような問題は多発してる。

 この他、様々な問題が発生してる。

 暴行、傷害、窃盗、強姦、強盗などなど。

 家に押し入って不法占拠、住んでいた者達を追い出すなどという事も起こってる。



 これらを覆せれば良いのだが。

 レイジにそんな能力はない。

 これが物語の主人公なら、超絶能力で状況を打開するのだろう。

 そして成功を手に取り、あらたな世界を切り開き、新しい何かを打ち立てるのだろう。

 巨万の富、素晴らしい仲間

 なのに、美しいヒロインと共に。



 現実は無情である。

 才能も仲間も金も地位も権力もないのがレイジだ。

 せめて主人公特権である幸運だけでもと思うが。

 当然ながら、あるわけがない。

 レイジはどこまでも、その他大勢の一般人。

 主人公の背景に書き込まれる群衆の一つでしかなかった。

 そんな背景のレイジには、決定を覆す力などあるわけもなく。

 島流し先の星に送られるしかなかった。



 そうして到着した流刑先。

 唯一の宇宙港には、刑務所らしき建物すらなかった。

 全てが自動化された発着場だけの港に放り出され、食料が納められた箱だけ渡される。



「箱の中の食料が無くなったら、箱を持ってきてください。

 新しい食料を補充します」

 合成音声の案内だけが、説明の全てだった。

 食料以外については何もない。

 これが人権に基づいた最低限の処置らしい。

「ありがてえなあ」

 皮肉をこめて気持ちを口にしてやった。



 こうして流刑地での一日目が始まった。

 仕方ないので、その場に座り込む。

 食料の供給源がここしかないのだ。

 下手にどうなんかしないで、ここで過ごしていた方が無難だ。

 住処などはいずれ考えねばならないだろうが。

 それでも、まずは唯一の宇宙港の前に陣取る方が手間が省ける。



 周辺の探索に出るにしても、食料の供給地からとおく離れない方がよい。

 もし帰還できなくなったら、いよいよ終わってしまう。



 それに。

 既に送り込まれてる罪人がいるかもしれない。

 それらと接触できる可能性がある。

 それらと友好的に接触できれば、有益な情報を手に入れられるかもしれない。



 もし、相手が極悪人だったらと思うと気が滅入るが。

 その時はその時である。

 今は少しでも情報が欲しいのだから。



 そんなレイジの希望は、その日のうちにかなう事となった。

 流刑地に到着して1時間。

 ガソリン駆動の自動車が宇宙港へと向かってきた。

 食料用の箱と、何人かの男を乗せて。

 その手にクロスボウや銃が握られてるのを見て、さすがに警戒をしてしまった。

 今更逃げることもできなかったが。



「新しい罪人か?」

 近づいてきた者達の一人がレイジに尋ねる。

「そうだ」

 応えるレイジに、男達は手にした武器を向けた。

 矢や銃口が向けられるのは良い気分はしない。

「それじゃあ、少しだけ付き合ってもらう」

 そういうと男達は、積み込まれていた機械を取り出し、それをレイジにつけていった。



「こっちの質問にこたえろ。

 返事は『いいえ』だけでよい」

「……嘘発見器か?」

「そうだ」

 男の指示で、自分に取り付けられた機械がなんであるかが分かった。

「これでお前がどうしてここに来たのか確認する。

 返事をしないのはかまわないが、その時は処分をする」

「それはまた……」

 なかなかに物騒な事になっていく。



「けど、そんな事をして大丈夫か?

 監視とかはどうする」

「この星に監視はない。

 誰がどこで死のうと、殴り合いや殺し合いがあろうと何もしてこない」

「なるほど」

 囚人の監視体制の実態がよく分かった。

 ようするに、放置した者達がどうなろうと知ったことではないのだ。

 監視をする手間を考えれば妥当ではあるが。



 ならばと男達の返事に応えていく。

 名前や年齢。

 これまでの経歴。

 何をしてこの星に放り込まれたのかを。



 それらに正直に答えていく。

 その都度、嘘発見器が反応したりしなかったりしていく。

 その結果を記録していき、男達は結果について語っていく。

 その結果。

「問題はなさそうだな」

 装置を外されていく。



「悪かったな、いきなりで」

 宇宙港で食料を補充した男達は、レイジを車に乗せた。

 そのまま彼らは宇宙港を離れていく。

「新しく来た奴はいろんな奴がいてな。

 駄目な奴もいるんだ。

 それを先に確認するようにしてる」

「それで嘘発見器?」

「ああ、本音を聞き出すためにな」

 その結果、レイジは問題ないと判断されたらしい。

 何を基準にしてなのか。

 そもそもとして、何を調べてるのかは分からないが。



「けど、お前の本性とかはこれからじっくりと見ていく事にする。

 問題がなければ一緒に暮らしてもいい」

「快適とはいかないがな」

 別の男が茶々を入れてくる。

 とはいえ、たちの悪いジョークではない。

 ここでの生活の厳しさからくるのだろう、これはレイジにも理解できた。



「でも、どういう事なんだ?

 一緒に暮らすとか」

 何にしても分からない事が多すぎる。

 なので、レイジは疑問をぶつけていった。

「なに、たいした事じゃねえよ」

 そう言いながら男達はこの星の状況を話していく。



 流刑地のこの星に送られる人間はそれなりの数になる。

 そういった人間が集まって出来上がった町がある。

 そこに連れて行くかどうか。

 それを男達は調べていたのだ。



「どうしても駄目な奴も来るからな。

 そういうのは除外するしかない」

 幸い、レイジは問題は無いと判断された。

「町に戻ったら、今度は脳波を調べるが。

 まあ、大丈夫だろう、よほどの事がなければ」

「だといいけど」

 聞いててレイジは少しばかり不安になっていった。



 それからも話を聞いていくと、この星の現状が分かってきた。

 これまで送られてきた罪人達。

 そのうちの何人かが生活のために集まって集落をつくっていた。

 更には田畑を、動物を集めて農場も造り出していた。

 地球化によって、地球に存在していた動植物のほぼ全てがこの星にももたらされてる。

 これらの中で食用に適してるものを時間をかけて集めていった結果だ。



 他にも、様々な知識や技術の持ち主が、この星の文明水準を高めていった。

 今では、地球の21世紀まで到達している。

 最先端部分や研究段階では。

 ただ、実際に形にするとなると、どうしてもそこまでのものを量産する事はできずにいる。

 普及してるものは、おおよそ20世紀後半から21世に入った頃くらいまでとなっている。



 あくまで地球の文明水準に置き換えればだ。

 部分的には発達してるところもある。

 逆に、転生先のこの世界にはないものもある。

 このあたりは、地球と異世界で発展や発達の仕方の違いがあらわれてる。



 ただ、生活そのものに支障は無い。

 完全無欠とはいかないまでも、野原に放り出されるよりは快適に過ごせる。



 ただし、簡単にそこで暮らせるわけではない。

 快適な場所を造った者達の、そこで暮らしてる者達の意向がある。

 これに適合しない者ははじかれる。

 当たり前だ。

 やってくるのは囚人。

 中には問題の発生源になりかねない者もいる。

 そういった者を受け入れるほど、ここにいる者達は馬鹿ではない。



「問題を引き入れるわけにはいかない。

 事前に見つけ出して排除する」

 そうしなければ、町が崩壊する。

「ここに来る前に嫌って程見てきたからな」

 そう話す男の顔は、厳めしいほどのこわばりが浮かんでいた。

 色々あったのだろう察するほどに。



 ただ、あらためて受けた検査を、レイジは問題なく通過する事ができた。

 脳波だけでなく、様々な質問などもされた。

 いずれも嘘発見器や、その時の思考や心理状態を確認されながら。

 これらを経て、レイジは問題なしと判断された。



「じゃあ、町での暮らしの許可は出す。

 あとは、適した仕事を探してやっていけ」

 囚人達が造った町で生きてくには働かねばならない。

 そうして金を稼いでいく。

 欲しいものがあれば、この金を使わねばならない。



「まあ、生きてくだけなら、食料だけ宇宙港に取りにいけばいいけどな」

 そうも言われる。

 快適とは言えないが、寝床も一応は用意されてる。

 それこそ刑務所の独房のようなものが。

 あるいはカプセルホテルの一室のような場所がだ。

 そこにいるなだけなら、特に金もかからない。

 贅沢もできないが、生きる分には支障が無い。



 ただ、それもさすがにと思っているので、仕事を探す事にした。

 贅沢とまではいかなくても、人間らしい生活はしたい。

 それにだ。

「がんばってみます。

 宇宙港の配給品は、栄養だけでまずいですから」

 そんなものを食うだけの人生はごめんだった。



 こうして始まった流刑地での生活。

 これはかなり快適だった。



 仕事そのものはすぐに見つかった。

 肉体労働から事務作業など、比較的技術や知識のいらない仕事の募集が多かったからだ。

 その分報酬も安いが贅沢はいってられない。



 住処はカプセルホテルのような簡易宿泊所を使うことでしのぐ事ができる。

 新参者や無一文になった者達のための施設だ。

 施設の性格上、無料で使うことができる。

 当面は安い仕事をこなしつつ金を貯めていく。

 ついでにこの囚人達の町の様子を探っていく。



 別にやましい事をするわけではない。

 この星のこの町の常識などをおぼえていくだけだ。

 所変われば品変わる。

 この町ではこの町のやり方や生き方がある。

 雰囲気や空気といってもよいだろう。



 また、報酬や物価の水準、相場も把握しておきたい。

 どのくらい働けばどれくらいの金が手に入るのか。

 その金で何をどれくらい買えるのか。

 こういった知っておかねばならない事を、まずは把握していかねばならない。

 でないと、とんでもないしくじりをしてしまう。 知らないというのはおそろしいものなのだから。



「……と思ってたんだけどなあ」

 流刑地のこの星に放り込まれて3ヶ月。

 日雇いや短期の労働をこなしながら金を稼ぎ。

 そうしながら様々な事を出会う人に聞いていき。

 この星のこの町での雰囲気もだいたい分かってきた。

 そうして得た感想は次のようになる。

「思ったより暮らしやすい」



 まず、治安がいい。

 犯罪らしい犯罪がおこらない。

 たまに事故が発生するが、故意に問題を起こしてるわけではない。

 ここが外とは違う。



 また、悪質な行為を行う者もいない。

 いわゆるハラスメント。

 パワハラやモラハラ、カスハラなどなど。

 犯罪ではないが、人を不快にさせ不当な圧力をかける行為。

 これらを行う者が極端に少ない。

 というより皆無だった。



 ここには問題を起こす人間がいない。

 調べてみたが、犯罪がほとんど起こらない。

 せいぜい、軽犯罪程度。

 殺人や強盗、破壊行為などはほぼ発生しない。

 これらをやらかす人間がいないからだ。



 とてつもなく平和な世界。

 それが、囚人が集まるこの流刑地の実態だった。

「なんでだ?」

 最初は不思議に思った。

 しかし、事情が分かると納得できた。



「そりゃあ、そういう奴しかいないからな」

 ある時、仕事で一緒になった者に聞いた。

 何でも、かなり昔にこの星に流された者の子孫だという。

 こういう囚人の子孫もこの星には何人もいる。

 だからこそ、町といえるほど大きな集落が発生してる。

 そんな彼はこの星の事情もある程度知っていた。



「そもそも、ここってのは外の社会からはじかれたのが放り込まれてるわけだ」

「まあ、そうですね」

 自分がその一人だったので、レイジにもよく分かる。

「でも、社会からはじかれてるけど、悪さをしたわけではない。

 そういうのが多い。

 ほとんど全てだ」

「ああ、それも、まあ、そうですけど」

 言われて再び我が身を振り返り、確かにそうだなと納得していく。



 レイジが捕まって流刑になった原因は、強盗への抵抗だ。

 これにより強盗犯に怪我を負わせた、そして中には死んだ者も出た。

 当然の報いだが、人権を理由に裁判所はレイジを犯罪者とした。



 つまり、レイジに罪はない。

 身を守っただけである。

 それで強盗が死んでも自業自得。

 そもそも悪さなんかするなという話だ。



「そういうのが多いんだよ、ここに送られるのは」

 つまり、罪に問うべきではないような事で犯罪者扱いされたものばかり。

 好んで人に危害を加えようなどと考えるものはいない。

 そんな人間ばかりだから、流刑先のこの星は平和なのだ。



 ようは平和と平穏を求める人間しかいない。

 悪さをされたら反撃はするし、問題の予兆が見つかれば予防措置をとる。

 しかし、自ら問題行動をとる事は無い。

 ならば、平和になるのも当然。



「あんただって、問題を起こしたいと思うのか?」

「いや、全然」

 問われてレイジはクビを横に振る。

 好んで問題を起こすつもりなどレイジにはない。

「そんな人間しかいない。

 だからここは平和なんだ」

 一族代々ここに住んでる者の言葉にレイジも納得した。



 そのおかげだろう。

 この星ではもう一つ特徴がある。

 作業効率が良いのだ。



 生産性が高いといおうか。

 業務中の無駄がほとんどない。

 仕事中の雑談や、少し手を止めて息抜きをするといった事はある。

 しかしこういったちょっとした休みを含めても、作業は進む。



 これも単純な話しだ。

 パワハラやモラハラが起こらない。

 こんな事、しようとすら思わない者がほぼ全てだ。

 これだけで作業効率が格段に上がる。

 というより、作業効率の低下要因がない。

 人が本来発揮できる能力をしっかりと発揮できる。

 それだけで、作業効率は高まる。

 無理矢理高水準を保とうとしなくても。



 パワハラやモラハラなどの悪質行為は、その場にいるほぼ全ての者の気分を悪くする。

 この気分の悪さが、一人一人の能力を落とす。

 この星にはこれがない。

 作業効率は人が持つ本来の水準を保つ事ができる。



「なるほど」

 理由が分かれば簡単だった

 そして、この星の事も分かった気がした。

「ここは過ごしやすいんだな」



 ここにいるのは犯罪者である。

 だが、悪人ではない。



 人権や法律が罪人とした者達だ。

 しかし、本当に悪いことをしてる者は少ない。

 皆無と言って良い。

 そんな人間が集まってるこの星が過ごしやすくなるのは当然。

 むしろ、ここにいるのは特権としか思えなくなっていく。



「無理して外に出る必要もないな」

 平穏無事で安心して暮らせる社会はこの流刑地にある。

 ここから外に出る必要がない。

 それこそ自ら地獄に戻るようなものだ。



 強盗を救い、身を守ったレイジを罪人とした世界。

 そんな所に戻りたいとは思わなかった。

 それよりも、平和なこの流刑地で過ごしたい。

 残りの人生は、楽園のようなこの場所で。

 そう思うようになっていく。



 ならばとレイジは、この世の中で生き抜いていく事にした。

 元の世の中には決して戻らないと。



 こうして新たな囚人は星に定着する事になる。

 穏やかな隣人達と共に。



 一方で外の世界は問題を加速していく。

 被害者を罪人とし、加害者を世に解き放っていく事で。

 大小様々な問題を放置し、原因を作り出すものを排除して。

 そんな社会、当然ながら衰退していく、



 治安の悪化、悪人の取り締まりもされない。

 やむなく自衛し始めれば、それを犯罪扱い。

 司法とAIのこの判断により、社会は崩れていこうとしていた。



 全ては法律により。

 そして、法律の根本にある倫理や道徳によって。

 これらが産み出した人権。

 それはまともな人間を排除し、悪人を保護していった。



 差は明確になっていく。

 最初は一般社会の方が発展していた。

 それに比べて流刑地は遅れていた。

 宇宙港以外に何もないのだから当然だ。



 しかし、流刑になった者達が集まるうちに変わっていった。

 知識や技術を持ってる者達が、原始的な家を造って。

 初歩的な農業をはじめて。

 ほんの少しずつ文明が興っていった。



 既に人類が通ってきた道を踏むのだ。

 分かっていれば発展は早い。

 さすがに一足飛びに現在の水準にはならないけども。

 それでも流刑者達は何もない星に文明を作り上げていった。



 対して一般社会は徐々に衰退していく。

 犯罪者や悪行を保護してるのだから当然だ。

 危機と隣り合わせの者達は生き延びるために危機に立ち向かわねばならない。

 だが、それすらも犯罪として処分される。



 ならばと引っ越そうにも、それすらも無駄になる。

「意思の疎通に問題があったのでしょう。

 まずは話し合いを」

とAIの指示で連れ戻され、悪人共の中に放り込まれる。

 その後に悲惨な目にあうのが風物詩になっていく。



「みんな仲良く」

 これがAIの、そして司法の、更には政治の判断である、

 統治者達は全員が等しく同じ所にいる事を求めた。

 どうしてもできない者は犯罪者として流刑地に放り込んでいったが。

 そうでない者達は、分け隔てなく同じ所に放り込んだ。

 肉食獣の中に獲物になる動物を放り込むように。

 結果は言うまでもない。



 そんな世の中が衰退する事で、流刑地との差が縮まる。

 この事実を知る者はいない。

 流刑地の様子をわざわざ確かめる暇人はいないからだ。

「どうせ、野垂れ死にしてる」

 これが流刑地に対しての評価だ。



 だが、そう言ってる一般社会の方が衰退していき。

 ついには崩壊へと至る。



 差別の排除という倫理道徳による人権をもっての統治。

 これは人を虐げ、人を蹂躙していく。

 ついにはまともな人も減り、人口は減少へと転じていく。

 外からの侵略でも、内部の騒乱でもなく。

 ただ生きる道を閉ざすことで、社会は自らを殺していった。



 そんな社会の崩壊とは真逆に。

 流刑地は発展を続けていった。

 やがて宇宙に飛び出し。かつての社会の様子をうかがえるようになるほどに。

 その時彼らは目撃する。

 自分たちを排除した社会が滅亡してる事を。

 そうと言うしかないほど衰退してる事を。



「そりゃまあ、そうなるよな」

 外の世界の事を聞き及んでいた者達は頷く。

 不思議など何一つない。

 なるべくしてなった。

 その結果を見届けてるだけだと。



 ある意味答え合わせだ。

 守るべき者を守らず。

 排除するべき者を排除せずにいた。

 その結果がどうなったのか。

 それを流された者達は己の目で見ていく事になる。



「ざまあみろだな」

 そんな観察者の一人となったレイジは、ただそう言うしかなかった。

 他に適した表現はない。

 そして、結果に呆れてため息を吐いていった。





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