第9話 星に落ちた日
目を覚ましたとき、俺は温かい布にくるまれていた。誰かの腕に抱かれ、かすかな鼓動と匂いに包まれている。視界はぼんやりしていたが、自分が赤ん坊になっていることにすぐ気づいた。
――生きてる。
それが最初の実感だった。
数日が過ぎ、ようやく「家族」という存在を理解しはじめた。自分を抱く若い母親。頼りなくも優しい父親。二人の声を聞くだけで胸が温かくなる。もっとも、会話の内容はまだわからないけれど。
魔法世界ではずっと独りだった。研究仲間はいたが、血のつながった家族も、親族と呼べる誰かもいなかった。
――ようやく、家族を持てたんだ。
俺は赤ん坊の体に制限されながらも、早く言葉を覚えようと努力した。歩けるようになり、話せるようになり、時には魔法でそっと家の手伝いもした。もちろん、バレない範囲で。
そして、三歳になったある冬の日。家族にとって、そして俺にとって、大きな出来事が起こった。
「レン、お兄ちゃんになるのよ」
母の言葉を聞いた瞬間、俺の心は熱くなった。小さな拳を握りしめて、そっと頷いた。
それからしばらくして、生まれたのが――アイリ。
小さく、か弱く、けれどとても愛らしい存在。生まれてすぐのアイリに顔を寄せ、俺はこっそりささやいた。
「アイリ、ようこそ。兄ちゃんが、ぜったい守るからな」
そこからの日々は、俺にとって宝物だった。
ミルクをあげるのを手伝い、泣いているときには真っ先に駆けつけた。
時にはぐずっているアイリの前で、小さな魔法の光をこっそり見せて笑わせた。
夜、二人並んで寝る布団の中。まだ言葉が曖昧なアイリが、俺に向かって「にいに、すき」と呟いたとき、涙がこぼれそうになった。
(こんな日々がずっと続けばいいのに……)
それが叶わないことを、俺はどこかで知っていた。魔法世界の記憶から、運命の不確かさを知っていたから。
だからこそ――俺はアイリとの時間を、一瞬一瞬、大切に噛み締めていた。




