第6話 アイリ
放課後。
夕暮れの色が差し込む自宅の居間で、俺はソファに深く座り込んでいた。制服のまま動けずにいると、古びた家の壁が赤く照らされているのが見える。
親を亡くしてからずいぶん経った。ここは、俺と妹の二人きりの家だ。最初は施設に預けられる話もあったらしいが、今はなんとか二人で暮らしている。俺が兄として、守らなければならない。
台所から湯気とともに明るい声が響いた。
「にーちゃん、カレー温めていい?」
小さな顔をのぞかせたのは、妹のアイリだ。まだ小学五年生。くるくる動きながらも、俺の様子をさりげなく気にしている。
「……うん、お願い」
「はーい!」
返事とともに軽快な足音が台所に戻っていった。
俺は視線を天井に向け、深いため息をつく。
「いただきまーす!」
アイリが大きな声でカレーを食べ始める。俺もスプーンを持ったが、手は止まったままだ。
「ねえ、今日、学校でなにかあった?」
「……なんで?」
「なんとなく? にーちゃん、しゃべんないときって、だいたい何かある」
俺は少し笑った。観察眼の鋭い妹だ。
「……ちょっとだけ、思い出してた。昔のこと」
「ふーん。あ、でも思い出しすぎはだめだよ? にーちゃん、たまに目が遠くなるから」
「目が遠くなる?」
「そう。目の奥がすごーく遠く見えるときあるの。わたし、あれキライ。さみしくなる」
アイリはスプーンを口に運びながら、当たり前のように言った。俺は言葉に詰まりそうになりながらも、笑みを作る。
「にーちゃん、辛くない?」
「うん、大丈夫。ちょうどいいよ」
「そっか。じゃあ、今夜は食後にプリンもあるよ!」
「それは助かるな」
そう答えながら、俺はようやくスプーンを口に運んだ。
ちょうどいい辛さのカレー。その後のプリンは甘いはずだ。
それは、俺とアイリのささやかな日常そのものの味だった。




