第20話 声の日
世界の静寂を切り裂くように、ひとつの声が届いた。
「この地球に住むみんな、聞こえるか?」
レンの声だった。その響きは、街の喧噪の中でも、眠りの底でも、等しく人々の耳に入り込んでいった。音ではなく、頭に注ぎ込まれるメッセージ。
オフィス街。書類を抱え、廊下を急いでいたサラリーマンが思わず足を止める。彼は耳を疑い、周囲を見渡すが、同僚たちも同じ声を聞いて目を丸くしていた。
「私たちは、魔法世界から来た者だ」
続く声は、今度はアナザーのもの。落ち着き、冷徹ともいえる響きだった。
「魔法など信じられないだろう。だが、今こうして世界の全員が同じ声を聞いている事実が、何よりの証拠だ。この声は世界中の人々の頭に直接届いている。言語の壁はない。意味の領域で語りかけている」
郊外の住宅。小さな子どもが寝返りを打ち、むくりと起き上がる。母親は静かに子を抱き寄せた。聞こえてくる声には柔らかな温かさがあった。
「俺たちはオリジ国に住んでいる。そう、誰でも知ってる、あの紛争の絶えない国だ。そこで見たものを、今から伝える」
レンの声は、怒りと悔しさを押し殺しながらも、どこか真っすぐだった。
遠く離れた施設の一室。保護されている少女――アイリは、小さくつぶやいた。
「……お兄ちゃんの声だ」
その頬に、安堵の涙が流れ落ちる。
「ピース国が世界を平和に導こうとしているのはみんな知ってのとおりだ。でもピース国は戦争を終わらせるふりをしながら、裏で武器を流している。オリジ国とジャスティ国が争い続けるよう仕向けていたんだ」
レンの言葉にかぶせるように、アナザーが続ける。
「さらにピース国はジャスティ国と結託し、オリジ国を滅ぼして領土を二分する計画も進んでいる。それが、この戦争の正体だ」
その瞬間。ジャスティ国の最高指導者は、報告書を握りしめた手を震わせ、深く唇を噛んだ。彼の背後で側近たちは互いに目をそらす。
一方、ピース国の国会議事堂。若い議員は椅子に崩れ落ち、頭を抱えた。
「……やっぱり、間違っていたんだ……」
彼は震える指で端末を開き、必死にメールを打ち始める。
「みんなに伝えたいんだ。真実を共有すれば、世界は少しずつ変わる。戦争を続けたい者たちが隠そうとしていることも、皆が伝え合えば意味をなさない。大きな争いも、小さな争いも。情報のすれ違いから生まれる。日々自分の思いを相手に伝えることが大事だと俺は思う」
レンの声は揺るぎない。
「情報は武器にもなるが、希望にもなる。信じてほしい」
アナザーの声は硬質ながらも、どこか誓いのように響いた。
世界中で、人々が立ち止まっていた。道路に立ち尽くす者、食事の手を止める者、涙ぐむ者。誰もが、届いた声を胸の奥で受け止めていた。
そして、声は続く。
「これが俺たちの……最後の魔法になるかもしれない」




