第19話 世界へ
世界を揺らすほどの情報の交換。残ったのは妙な静けさだった。焦げた匂いの漂う廃墟の片隅で、俺たちは立ち尽くしている。
「……ピース国の真実を、世界に知らせよう」
思わず口をついて出た言葉だった。
それが正しいかどうかなんて、わからない。ただ、このまま隠され続けるのは耐えられなかった。
アナザーが細く開いた目で見つめる。
「どうやって? 私たちにはメディアへのコネクションなんてない。たとえ個人で発表したところで、すぐに消されるだけ」
淡々とした声だったが、そこには現実を突きつける冷たさがあった。
俺は答えられず、口を閉じる。ノノカも同じように黙り込んだ。廃墟に吹き込む風の音だけが、会話の隙間を埋める。
そのとき、ノノカがぽつりと呟いた。
「……魔法で、なんとかできないのかな?」
「無茶を言うな」
アナザーが即座に返す。
「そんなことをするには莫大な代償が必要になる。世界中の人々に情報を届けるためには大きな魔力が必要になるから」
彼女の声はいつもどおり平静だったが、その奥に揺らぎを感じた。ノノカは目を伏せ、それでも諦めきれない様子で唇を噛む。
俺は口を開いた。
「それなら……あるじゃないか」
二人が同時に俺を見る。
「情報が魔力になるんだろ?俺たちが魔法を使えるという事実そのもの。魔法世界の存在。それを代償にすればいい。地球の人々にとってはとんでもない新情報だ」
沈黙。
アナザーの目が見開かれた。普段、何を言っても冷静な彼女が、言葉を失っていた。
「……できるかもしれない」
アナザーがようやく絞り出した声は震えていた。
「ただし規模が大きすぎる。反動で、私たちは二度と魔法を使えなくなるかもしれない」
「問題ない」
俺は即答した。
「どうせ、大したことに使ってきたわけじゃない。だったら最後くらい、世界を変えるために使ってやる」
アナザーは目を閉じ、深く息を吸った。
「……わかった。私が術式を構築する。レンがメインになって。私は情報と魔力を送って制御する」
その横で、ノノカがそっと俺の手を握った。小さな力だけど、不思議と背中を押された気がした。
目を閉じ長い詠唱を始めるアナザー。やがて彼女の周囲に、巨大な魔法陣が浮かび上がる。夜空に散らばる星を繋ぎ合わせたような、眩い光の紋章。
「レン、始めて」
アナザーの声が、張り詰めた空気を切り裂いた。
俺は大きく息を吸い込み、目を閉じた。閉じた目で見渡すのは全世界。そこに住む無数の人々。
心臓が鼓動を速める。怒りも、迷いも、今はただ一つの決意に変わっていた。
そして、声を放つ。
「――この地球に住むみんな、聞こえるか?」
その瞬間、俺の声は風に溶け、空を越え、大地を越え、見えない網の目のように世界中へと広がっていった。
――闇を切り裂く最初の一言が。




