第17話 対峙
──あの気配だ。
胸の奥をかすかにざわつかせるような、冷たく張りつめた魔力の波。あの魔法術式。禁じられた魔法か…?
いずれにせよアナザーのものに違いない。俺は迷わず足を速めた。
曲がり角を抜けた先、夕陽に照らされた広場に二人の姿があった。
ひとりは、見慣れた銀髪の少女。
もうひとりは──ツカサ。
「……お前か。」
思わず声が低くなる。ツカサは俺に気づくと、ニヤリと口角を歪めた。
「よぉ、レン。やっと来たか。」
その挑発的な目つき。胸の奥で、熱いものが弾けた。俺は何も考えず、手を突き出す。
「うおおおっ──!」
魔力がほとばしった。けれど、それは思ったほどの威力を持たず、光の矢は地面に散って消えた。息が荒い。どうしてだ……? いつもなら、もっと出せるはずなのに。
ツカサが嘲笑する。
「なんだよ、それが魔法か? 見せもん以下じゃねえか。」
胸を締めつけるような悔しさに、言葉が詰まった。
そのとき、アナザーが俺を見た。
真っ直ぐに、冷たいけれどどこか揺れる瞳で。
「……妹は、生きている。」
心臓が跳ねた。
「……な、に……?」
アナザーの言葉が、頭の奥に残響のように繰り返される。生きている? 嘘による錯乱狙いか? でも──彼女の声は、揺るぎなかった。
アナザーが右手を広げ、小さな何かが浮かび上がった。その物体はゆっくりと俺の方に近づいてきた。
そっと掴んで見てみる。小さなガラス片の中でアイリの眠っている姿が映っている。そして彼女の現在地の座標も。
「『捜索』の魔法か…聞いたことがあるよ。アイリを対象に使ったんだな」
魔法の分類は多岐にわたる。この魔法に関して俺は詳しくない。対象の現在の状況と位置を映し出す魔法。当然、マナー上禁じられている。
「じゃあ、アイリは…無事なのか…」
俺はその場に座り込んでいた。体に力が入らない。
「今だ!」
ツカサが叫んだ。
「レンの野郎は茫然自失だ。やつを叩き潰せ!魔法使いは二人は必要ない。わかるだろう?やつを倒せばお前の天下だ!」
だが、アナザーは動かなかった。冷たい声で、短く告げる。
「私は……あなたの駒じゃない」
ツカサの顔が歪む。
「なんだと……?」
「二度と私に命令するな」
その一言には、氷の刃のような切れ味があった。ツカサは言葉を失い、しばし睨みつけたあと、舌打ちをして背を向けた。
「チッ…なんで力を自分のために使わないんだ…全然わからないぜ…」
その背中が闇に消えるまで、俺は呆然と見ていた。
さっきまでの怒りはアイリの生存を聞いた瞬間に動揺へ変わり、今はただ……目の前のアナザーの言葉を受け止めるしかなかった。
──アイリが生きている。本当に? もしそうなら……。
俺は息を吸い込み、震える胸を押さえた。
アナザーは、こちらを静かに見つめていた。




