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第16話 ツカサの言葉

 アナザーは夜の街を歩いていた。

 レンとの戦いの余韻が、まだ胸にわずかに残っている。自分はなぜ、あれほど力を振るったのか。なぜ、彼の叫びが心に引っかかるのか。答えの出ない思考を抱えたまま、彼女は人通りの少ない道を進んでいた。


 「迷ってるみたいだな」


 声をかけてきたのはツカサだった。学校での討論からそれほど日は経っていない。周囲の状況は様変わりした。あれから長い時が経ったような気がする。

 彼は制服姿のまま、いつものように軽薄な笑みを浮かべている。


 アナザーは眉をひそめる。

「……なんでここに」

「ニュースで見たんだ。お前とレンの戦いを。あんな力があれば、この国どころか世界を変えられる」

 ツカサは肩をすくめて続けた。

「で、アナザー。今のお前は何をしたい?」


 問いかけに、アナザーは答えられなかった。足を止め、視線を落とす。頭の奥に残っているのは、戦いの最中に見せたレンの顔。そして「妹を探している」という、あの必死の叫び。

 あれはただの戦いではなかった。レンは何かを守ろうとしていた。


 「……レンの妹が、まだ生きているかもしれない」

 ようやく口から出た言葉に、ツカサは目を細めた。


 「なら確かめればいいじゃないか。お前には魔法があるだろ?」

 「……そういう魔法はある。けれど、他人の安否や居場所を勝手に暴くのはマナー違反だ」

 アナザーは無表情のまま言った。だが、その声にはわずかなためらいが滲んでいた。


 ツカサは鼻で笑った。

「マナー?戦争にマナーなんてあるのか?そんなことを言っていたら何も成し遂げられないぞ」


 アナザーは黙り込む。理屈ではなく、感情の部分が揺らいでいた。

 ツカサはさらに畳みかける。

「お前が動かなきゃ、レンはまた絶望するかもしれない。助けられるものも助けられない。いいのか、それで」


 その言葉に、アナザーはふっと息を吐いた。夜風が頬を撫でる。

 「……大きな情報を渡さなければ、魔法は応えてくれない」

 小さく呟いたのは独り言か、ツカサに向けてか、自分でもわからなかった。

 「聞けツカサ、お前が授業で言ったことは当たっていた。ジャスティ国の裏にはピース国がいる。しかも彼らは恐ろしいことを企んでいる」

 ツカサは目を細めた。

「そうなのか…だがなぜそのことを俺に?」


 アナザーは答えない。目を閉じると、低く言葉を紡ぎ始めた。周囲の空気がわずかに震える。

 魔法が応じる気配の中、映像のような断片が頭に流れ込む。


 ――少女の姿。傷一つない。

 ――どこかの建物。見慣れない服を着た人々に囲まれている。

 ――安堵した顔で眠っている。


 アナザーは目を開いた。彼女の手に、小さなガラスの破片のようなものが現れた。少女の姿と、いくつかの魔法文字が刻まれている。

 アナザーは淡々とした声で、しかしその瞳の奥にかすかな光を宿して告げる。

 「……生きてる。レンの妹は、無事だ」


 ツカサは満足げに頷く。

「ほらな。やっぱり使えばいいんだ」


 だがアナザーは返事をしなかった。彼女の胸に生まれたのは安堵であり、同時にわずかな重みだった。マナーを破ったことも、ツカサに背中を押されたことも。

 それでも――レンに伝えるべき真実を、自分は知ることができたのだ。

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