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蟻宮、パパと対決する

はい!どんどん投稿しま~す!

だんだん、あなたはこの話に夢中になる……といいなっ!

「蟻宮さん、ちょっといいかな?」

店の奥から呼ばれ、蟻宮はPCが数台設置されたスペースに向かった。

惣木そうきさん、どうしたの?」

PCの前に座っているのは、ライトブラウンのニットにライトブルーのジーンズを合わせた大学生ぐらいの女性だった。

「わたし、戦闘が苦手でさあ。ここが、どうしてもクリアできないんだよね」

女性が画面を指さした。蟻宮は、「どれ?」と言って、画面に顔を近付けた。蟻宮の横顔が惣木の目の前に迫る。惣木は、うっとりとした表情を浮かべた。4分の1フランス人の血が入っている蟻宮の顔は、女性でも見とれてしまうほど美しい。

「ああ、ユウェヤーワーターね。ここ、難しいよね。わかった、一緒に入るね」

「いいの?ありがと!」


カフェ・ミストラルの奥まったスペースには、隣の家電量販店からモニターとして無料貸与された8台のゲーミングPCが設置されている。使用後にアンケートに回答する必要はあるが、飲食を注文すれば、無料でゲームをすることができる。ただし、遊べるのはファイナルファンタジー14(通称FF14)というMMORPG(大規模多人数同時参加型オンラインRPG)のみである。初代店長の謎の人脈により、スクウェア・エニックスから無償で提供された。ただし、有料ゲームアカウントは、客が自分で用意する必要はあるが。


そんなわけで、カフェ・ミストラルでは、FF14に限られるものの、居合わせた客が協力プレーをしたり、情報交換したりすることが日常的に行われている。友達でなくてもヘルプを求められれば助け合うのが、来店した客の、暗黙のルールとなっている。もちろん店員にヘルプを求めることもできる。


「あと二人、お客さんに手伝ってもらってもいい?」

蟻宮が惣木に確認した。今から入ろうとしているダンジョンは4人攻略なので二人足りないのだ。

「いいですよ」

惣木が了解する。

「うぃっす」

「手伝うよ」

その会話を聞いて、別の席でFF14をプレイしていた2人が手をあげた。蟻宮も空いていたPCを立ち上げ、自分のアカウントでログインした。「羽ちゃん」と呼ばれるアウラのキャラクターがフィールドに出現した。どことなく蟻宮に雰囲気が似ている。

「いいよ。パーティーに誘って」

「データセンター違うけど、誘えるのかな?」

「大丈夫だよ。完全クロスワールドになってるから」

「蟻宮さん、どこにいるか、わからないです」

「あ、そっか。フレ申請送るね」

蟻宮がマウスとキーボードを素早く操作すると、惣木の画面に金色のレターが出現し、光の粒を撒きながら、くるくると踊った。惣木は、目を輝かせてレターを開いた。

「わたし、いつもソロプレイだから、フレンドって初めて」

「そうなんだ。よくここまで一人で頑張ったね」


蟻宮の言動は、いつも通りそっけないが、惣木の感情ボルテージは、ぎゅんぎゅん上がっていた。もちろん、蟻宮に自覚はない。やがて、手伝いの二人もパーティーに加わり、ダンジョンへと突入した。惣木はタンクと呼ばれる壁役、蟻宮はヒーラーと呼ばれる回復役、あとの二人はDPSと呼ばれる攻撃役だ。


惣木の先導で、湧いてくる雑魚を倒しながら、順調に攻略が進んで行った。


この間、蟻宮からのアドバイスは一切ない。別にいじわるをしているわけではなく、FF14では、初見攻略の場合、求められてもいないのに、攻略方法を教えるのはネタバレとされ、マナー違反となっている。


蟻宮は、1発も被弾しなかった。無駄のない動きで攻撃をかわしている。一方で惣木は満身創痍である。それでも、蟻宮は何も言わず、惣木を回復し続けた。ボス戦で1度戦闘不能になった戦闘不能になったものの、無事、クリアした。


「どうかな?」


蟻宮の言葉は少ないが、惣木には意図が通じたようだった。


「あの……」

惣木が、もじもじしながら言った。

「うん」

「わたし、戦闘が得意じゃないので、よかったら、コツとか教えてもらえないかな~って」

「いいよ」

蟻宮が即答する。

「俺たちも構わないぜ」

手伝いの二人も同意して、再びダンジョンに入った。


「まず、雑魚戦だけど」

「はい!」

「モンスターじゃなくて、地面を見て」

「地面……ですか?」

「うん。雑魚は、予備動作は、いちおうあるけど、AOE(攻撃範囲表示)見る方がわかりやすい」

「なるほど!」

「AOE出てから十分時間あるから、慌てず、色の付いてない安地(安全地帯)を見つけて」

「はい!」

「当たり判定は色が消えたときに付くから、AOE消えたら飛び込んで」

「はい!」


「いいよ、その調子」


ボス部屋前で、蟻宮が惣木の肩に優しく触れた。惣木の強ばった肩から、すっと余分な力が抜け、惣木はリラックスした表情になった。


「ボス戦は、ボスの動きを見て。大きいから予兆もわかりやすい」

「はい!」

「避けれたね」

「次、どうなるんですかあ?」

惣木からは不安が消えない。それでも蟻宮はギミック(仕掛け)は教えない。自分で見つける方が楽しいことを知っているからだ。

「大丈夫、落ち着いてボスを見て。見ればわかるから」

「あ、こっちですね!」

「正解」


「やったあ、クリア!」

「おめでとう」

「蟻宮さん、ありがとうございます。ちょっと自信が付きました」

「わたしは何もしてないよ。惣木さんが、自分で考えて攻略法見つけたんだよ」

蟻宮は淡々と言う。この時点で、惣木の目には濃いピンクのハートマークが点灯しているのだが、もちろん蟻宮は何も気付いていない。「じゃね」と言って、カウンターの中に戻って行った。


「アントちゃん、いるよね!」

明るい色のスーツ姿の女性が、勢いよく店に入ってきた。

「いるよね、って何よ。いるけど」

「いやあ、アントちゃんの休みとかシフトとか聞くの忘れちゃったからさあ」

「この店は休みとかシフトはないですよ」

社長の無駄にでかい声を聞きつけて、奥から店長が出てきた。

「休みもシフトもないって、もしかしてブラック?」

「ちがうわ!この店は、働きたいときに来て、帰りたいときに帰るシステムになってるの!」

「え、じゃあ、誰もいなくなるときとか、あるんじゃないの?」

「ありますよ。店閉まってますけどね。うちはポイント制なんで、客がいないときに来ても、お給料もらえないんで」

「どうやって客が来たかどうか、わかるのよ」

「アプリをスマホに入れておくと、入店している客の人数がリアルタイムでわかるし、客から店員にコールもできるんですよ」

「え、すごい便利じゃん。アプリってどうやって入れるの?」

「このQRコードで一発です」

「やった!じゃあ、さっそく……」

「社長、何しに来たんですか?」

経営者同士で勝手に意気投合した社長と店長を、蟻宮が氷のような目で見た。

「アントちゃん、相変わらずね。その液体窒素みたいな目、ぞくぞくするわあ」

「失礼する」

蟻宮が、つまみ出してやろうかと思ったそのとき、野太い声がして、大柄な男が入ってきた。

「パパ!?」

「わたしが呼んだのよ」

社長が平然と言った。

「アントちゃん、言ったわよね。パパを説得してほしいって」

「何で店なのよ!」

「いや、だって、娘が働いてるところ見れるわよっていったら、一発だったし」

「……パパ?」

「違う!違うぞ、吉野。パパは、チャンスだからってお前の仕事をこっそり見に来たんじゃない。この女が重要な話があるというから仕方なくだな……」

「とにかく座ってもらえますか?他のお客さん、びびってるんで」

店長が、いつになく、きりっとして言った。


ルルは、自慢のスパイスコーヒーを、社長と蟻宮、蟻宮の父の前にそれぞれ置いた。今日はシンプルにシナモンだけが入っている。


2、3人は人をぶっ殺していそうだ。


というのはルルの勝手な想像である。蟻宮の父は、それぐらい異様な雰囲気を漂わせていた。身長は2mをちょっと超えたぐらい。見事なまでの禿頭で、体格は肩の幅と同じぐらいの胸の厚みがある。スーツは似合い過ぎて、逆にどう見ても裏組織の幹部にしか見えない。そして、サングラスはやり過ぎだと思った。


「それで、話とは?」

蟻宮の父が、錆び付いた金属を擦り合わせたような声で聞いた。

「吉野さんにフリージアに戻ってもらいたいと考えています」

社長は動じない。その場の重力が増したような気がした。

「それは、前にはっきりお断りしたはずですが?」

「窺っております。しかし、私どもがそれをよしとしたわけではありません」

さらに重力が増したような気がした。

「先日、吉野さんからもお話を窺いまして、どうやら、お父様が誤解されているのではと思いまして」

「誤解などありませんよ」

「いえいえ、お父様は、娘さんをAV女優にするのか、とおっしゃいましたよね。私どもは、大切な娘さんをお預かりしている身ですので、そのようなことは絶対にない、私どもが責任をもって娘さんをお守りすると申し上げました」

「いかがわしい格好をさせてビデオを撮る。そういうことをする芸能界は信用できないと申し上げたつもりです。繰り返しになりますが、誤解などありませんよ」

ルルが危機を察知した小動物のような動きでカウンターの下に潜り込み、顔だけを覗かせた。

「失礼ながら、それは偏見ではありませんか?」

「ほう」

空気が帯電し始めた……気がした。

「お父様が申し上げたようなことをする事務所があることは事実です。ですが、私どもは違います。一部の不届き者がいるからといって、業界人全員を貶めるような発言は、不適切ではありませんか?」

「痛い、空気が痛いよ……」

ルルが涙を浮かべた。

「警察組織でも不祥事はありますよね。それをもって、私が警察官は信用ならないと申し上げたら、どうお感じになりますか?」

「馬鹿げた話だな」

その瞬間、氷が割れた。

「小娘、いい度胸だな。儂のことも調べてあるということか」

「お褒めに預かり光栄です。インターポールの敏腕捜査員、蟻宮警視正」

「あの人、警察官なの?どう見ても取り締まる方じゃなくて、取り締まられる方じゃ……」

つぶやきが漏れるのを聞いて、近くにいた店員が惣木の口を必死で押さえた。もう、ゲームどころではなくなっていた。

「すげえ、銭形警部って実在したんだ」

「……違うと思うけど」

一緒にゲームをしていた男二人も、ようやく言葉が口から出るようになったようだ。


「吉野、お前はどうなんだ?」

蟻宮の父が、初めて蟻宮に向かって尋ねた。蟻宮は父の目をしっかり見て言った。

「わたしは、フリージアに戻りたい。また、みんなと歌ったりおしゃべりしたりしたいよ」

「そうか、なら、いい」

蟻宮の父は、すくっと立った。そして、社長に向かって深々と頭を下げた。

「娘をよろしくお願い申し上げる」

社長も席を立ち、お辞儀をした。

「承りました。今後も、私どもに至らぬことがあれば、どうぞおっしゃってください」

「うむ」

蟻宮の父はきびすを返すと、そのまま立ち去ろうとして振り返った。

「そこの娘!」

「ぴいっ!」

ルルが変な悲鳴を上げる。

「コーヒー、美味かったぞ」

蟻宮の父は、そう言うと、今度こそ店を出て行った。


「あ、気絶してる」

店長がルルを突っついた。

「ルルさん、しっかりしてくださいぃぃ!」

もう一人の店員の女の子が、ルルを必死で揺さぶっている。それを横目に見ながら、蟻宮は社長に話しかけた。

「社長、パパと会うのに、何でこの店を選んだんですか?」

「アントちゃんは、気付いてないかもしれないけど、あなたのパパは、あなたには甘々なのよ。アントちゃんがいる場所で、アントちゃんが満足して働いている場所で、アントちゃんが、やりたいことをはっきり言えば、そりゃあ、勝てるわよねえ」


「策士だ……」

柱の陰から様子を見ていた、すももがつぶやいた。

え?誰が、誰だかわからないって?登場人物が多すぎる?

大丈夫、わたしもおんなじです。自慢じゃないけど人名覚えるの苦手です。イメージした人達が勝手にしゃべって、勝手に演技して、物語が進んでいきます。「こんな人だったのか!」って後から思います。イラストでもあると、読者様にもイメージ伝わるんだろうけどね!

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