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蟻宮、○○と口走ってしまう

夢の続きです。「とんでもないセリフ」が入っている回です。この最後のシーンについて、書いていいのかどうかは、かなり迷いました。でも、夢から生まれた話は、3日もすると、泡のように消えてしまうのが常なので、思い切って小説に書いてみました。

ぷしっ、と炭酸飲料のペットボトルを開けたときのような音がしてバスの扉が開いた。白にピンクのラインが入ったスウェットパンツに、白いパーカー、白いボアキャップを目深に被った小柄な女の子がバスのタラップをトントントンとリズミカルに駆け下りてきた。一言で言うなら白猫みたいな女の子だった。


「発車します」と高めトーンの合成音声が流れ、しゅーっと音を立ててバスの扉が閉まった。女の子は帽子のつばをつまんでくいっと上げ、正面の商業ビルを見た。「○○銀行」とある。女の子は支線を左へ移動させる。もう一つの入り口は「○○電機」とある。


白猫みたいな女の子は立ち止まり、う~ん?と考え込むように首を傾げた。直後、銀行の自動ドアが開いて、蟻宮が飛び出してきた。

「すももちゃん、こっち!」

「ありり、バス降りたらすぐ店だって言ったじゃん。カフェ、どこなんよ!?」

「え?目の前にあるじゃん?」

言われて、すももと呼ばれた女の子は、もう一度、じっくり看板を見る。「○○銀行」。そういう名前のカフェなのかと思うも、地元の人なら誰もが知っている地方銀行の看板にしか見えない。

「銀行じゃん」

「あれ?」

蟻宮も看板を見る。

「銀行だね」

「ありり……」

「ち、ちがうの!お店、この中なの。あ、ほら、すももちゃん、わたしより、しっかりしてるじゃない?年上だし。だったら、わかるかな~って」

「CofeのCの字もないのにわかるかっ!あたしは、あんたみたいな、野生の勘は持ち合わせてないのよ!あと、年上は余計じゃ!」

「ごめんなさいいっ!」

という1幕があった後、すももは銀行の入り口から入り、通路にテーブルを並べただけのフリースペースみたいな店内へと案内された。


「お待たせ~」

蟻宮は、すももの前にティーカップを置いた。

「すももちゃん、コーヒーより紅茶派だよね」

何の飾り気もないシンプルな紅茶だった。フルーツティーと言いながら、パッションフルーツに切れ目を入れてカップの縁に挟むような小賢しいことはしていない。レモンの一つも浮かんでいない。見た目は、ただの茶色いお湯である。

すももは、カップの把手を指でつまむと無造作に口元に運んだ。果物の香りがカップの縁からあふれ出し、すももは目を見張った。

蟻宮がちょこんと、すももの向かいに座った。

「これ、ありりが?」

すももの驚いたような声に、蟻宮は、にへらっと笑みを浮かべる。

「美味しいでしょ」

「うん、すごい」

「わたしが、煎れたんじゃないけどね」

「ちがうんかい!」

「この吉野様が手ずから運んでやったのよ。感謝しなさい」

蟻宮の言葉に、すももがきょとんとした顔になる。

「吉野って誰?」

「ひどっ!わたしの名前だよ!」

「いやあ、あたしの中では、ありりって、ありりって認識しかいないんだよね」

「だってさぁ、わたしの家族、みんな蟻宮なんだよ。名前で呼んでほしいじゃない?それに、蟻だ蟻だっていじめられるしさ」

「それ、いつの話よ」

「小学生」

「引きずってんなぁ」


「お話し、盛り上がってるわね。ありちゃんのお友達?」

「あ、ルルさん」

店の奥から、紅茶色のミディアムボブヘアーの女の子が、小さなコーヒーカップを持ってきて蟻宮の前に置いた。

「ありがと。お友達っていうか、元同僚?」

「……なんで疑問形なのよ」

すももが、何やら複雑な表情でつぶやく。蟻宮は、それには気付かず、ルルが持ってきたコーヒーに口を付けた。

「あ、スパイス入ってる」

「んふふー。ありちゃんで実験ね。ヒハツってスパイスが売ってたからさ」

「ん~?すっぱいような、胡椒っぽいような?」

「じゃね、ごゆっくり~」

ルルは、満足そうな笑みを浮かべて店の奥に戻って行った。

「ふ~ん、ここでうまくやってんのね。人見知りのありりにしては珍しいじゃない」

「ま、ね」

二人ともカップを手に取り、それぞれの香りを楽しんだ。

「ねえ、ありり」

「ん?」

「えっと……」

「?」

「いや……やっぱいいわ」

「すももちゃんらしくない、はっきり言えばいいのに」

すももは、かちゃりとカップをソーサーに置いた。

「じゃあ、聞くけど」

すももは、慎重に言葉を選ぶように、考えてきた質問をした。

「何で、この店で働いてるの?」

「何でって、FF14でフレンドから、こういう店があるよって教えてもらって」

「FF14って、ありりが配信やってたMMORPG?」

「うん」


「あの……」

いつの間にか大学生ぐらいの若い男が、二人が座っている席の横に立っていて、遠慮がちに話しかけてきた。

「ありりんですよね、フリージアの」

「そうですけど」

蟻宮が、さらっと答える。その、そっけない返事を聞いて、大学生(と呼んでおく)の顔が、それこそフリージアの花のように、ぱあっと明るくなった。

「俺、ありりんのファンだったんです。こんなところで会えるなんて」

「そう。ありがとう」

これまた、そっけない返事。さっきまでの、ほわっとした会話が嘘のようだ。

「うわ~、氷花、塩対応の妖精って呼ばれた、そのままなんですね。感激です」

「何に感激してるのよ、この男は」

すももが、呆れたようにぼそっとつぶやく。

「でも、ありりん、なぜ、辞めちゃったんですか。あんなに人気あったのに」

男の子は、素朴な疑問という感じで、ふわっと質問した。

「AV女優だって、親にばれちゃったから」

「ありり!え?ちょ、まっ……え!?」

慌てて止めに入ったすももが凍り付いた。


よく見ると、店内の全員が時を停止していた。

ルルなど、注いだカップから紅茶が洪水のようにあふれ出しているのに、ポットを引き起こそうともしない。


「え?え!?ありり、どういうこと!?」

「フリージアに入る前なんだけど、最初の芸能事務所が、すぐに撮影したいって。連れて行かれたスタジオで、セーラー服とか水着とか着せられて撮影させられたのよ。すごい恥ずかしかったから、そのまま、事務所を辞めちゃった」

「そ、そうなんだ」

「そのときの映像が残ってたらしくて、親が見ちゃったのね」

「う、う~ん。そうなんだ」

「パパが怒り狂って、うちの娘をAV女優にする気かって、なぜか、全然無関係のフリージアの事務所に怒鳴り込んで、そのまま辞めさせられちゃったのよ」

「な、なるほど」

「……って、何でみんな固まってるの?」

蟻宮の不思議そうな声で、呪縛が解けたように、すももが真剣な顔を蟻宮にぐっと近付けた。

「ありり!」

「はい」

蟻宮は気圧されたようにうなずく。

「言いにくいことを聞くんだけど」

蟻宮は無言で頭を上下にかくかくさせた。

「脱いだの?」


蟻宮は、ぽかーんとして、上気したすももの顔を見た。

「脱ぐわけないじゃん」

は~~~~~~~~~~~~という息が、その場にいた全員から漏れる。

「ありりん、言いにくいんだけど……」

大学生風の男の子が、顔を微妙に背けながら言う。

「それ、AVじゃないです」

「え?」

「それ、IV……イメージビデオって言って、ギリ、セーフ……」

すももが大学生の口を塞ぎ、大学生は苦しそうにふごふご言っている。

「余計な説明はしなくていい」

「IV?」

「ありりも、余計なことは覚えなくていい!」

「はい」

蟻宮は、すももの迫力に押されて、素直にうなずいた。

「ありちゃんって処女なの?」

いつの間にか店の奥から戻ってきたルルが、とんでもないことを聞く。全員がすごい目でルルを見た。ルルは「ん?」という顔をしている。


その、ルルの口と目がまん丸になった。店にいた全員が、ルルの視線を追った。そこには、耳まで真っ赤にした蟻宮がいた。唇は震え、目尻からは涙がにじんでいる。すももは、ぱっと立ち上がり、みんなの視線からガードするように、蟻宮の両肩に手を置いて引き寄せた。


店にいた客全員が集まり、なぜか円陣を組んでいる。大学生が、さっきの頼りない様子はどこへやら「ありりんの秘密は俺たちが守る!」と力強く叫び、みんなが「おおっ!」と応える。「秘密を漏らした者には死をもってつぐなってもらう!」物騒な物言いに「おおっ!」と、より大きな怒声があがる。なぜか、ルルも円陣に加わっている。


この日、カフェ・ミストラルでは、居合わせた客により、蟻宮の秘密を守るための秘密結社が結成されたのだった。かつてない、強固な絆をもって。


その円陣を生温かい目で見ながら、すももは理解した。

「この子、やっぱりアイドルの素質あるわ。ちょっとぶっ飛んでるけど」

と。

夢の続きはここまでです。3話以降は自力で書きます。頑張って書きます。よかったら読んでね。

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