寝るのが好きなぼくは、異世界に行く。秘密を抱えたまま。
学校から帰ってくるとぼくは、すぐに布団に入った。
ぼくの名前は祢寝幸人。
寝るのが大好きなんだ。寝てる間は嫌な事を全て忘れられるから。
家に帰ってすぐ、布団に入って目を閉じる。あったかくて眠気が襲ってくる。
でも、親や先生はぼくがいつも寝てるからぼくが寝てるとすごく怒る。
家で寝てると
「貴方気持ち悪いのよ!いっつも寝てて!」
と怒鳴られるし、
学校で寝てると、
「起きろ。この馬鹿野郎が」
って、怒鳴られるんだ。
しかも、先生はぼくが気に入らないようで習ってない難しい問題を出してきて、そのくせすぐに答えて正解すると、不正だ!ってまた怒る。
先生が出したからぼくに不正なんて出来るはずないのに、「いつも寝てるやつが、俺の問題に答えられるわけないだろ!」と、ぼくを馬鹿にしながら謎理論を展開してくるんだ。
寝てても怒られて、何かを完璧にこなしても、いつも寝ていて気に触るからと怒鳴られる。
寝るのが好きなぼくにこの世界は生きづらい
「誰にも邪魔されずに寝れるところに行きたいな」
思わず口に出す。もう本当は、この世界に未練は殆どない。でも、彼女の好きな世界だし。
するとまた眠気が襲ってきてぼくは、布団の中に潜る。
とりあえず寝よう。睡眠は世界で1番大切だ。
でも、【母さん】が帰ってきたら怒るだろうなぁ、、、
まぁいっか。今のぼくには関係ない、し、、zzzzz
……ゆらゆらゆらゆら、体が揺れる。まるで、揺り籠みたいだ。
いや、これはハンモックかな。
静かに揺れるのが心地いい。
ずっとこのままがいいな。誰にも邪魔されずにゆっくりとハンモックや布団に入って寝ていたい。
でもおかしいぞ、ぼくは何で今揺れているんだ?
不思議だな。何でだろう。でも、きっと夢だな。覚めないでほしいな。
いきなりピタッと、揺れが止まる。
残念だな。止まっちゃった。
少しがっかりして。ぼくはまた眠りにつく。
けれど誰かに起こされた。
「起きて。私の愛らしい愛し子」
両親は、こんな事をぼくには言わない。もっと乱暴に起こす。じゃあ誰だろう?
ぼくはゆっくりと起き上がって目を開ける。目の前にはとても美しい女の人が立っていた。
…久しぶり。でもぼくは知らないふりをしなくてはいけない。
「誰ですか?」
「私はアリシア。貴方達の世界で言う、女神かしら?」
「女神様がぼくに何の御用ですか?」
「アリシアでいいわ」
アリシアさんは少し悲しげな表情をしてそう言ってから答えてくれた。
「貴方、強く願ったでしょう?『誰にも邪魔されずに静かに寝たい』って。私の可愛い愛し子が、珍しく強く願ったんだから叶えてあげたいのは当然じゃない?」
「ぼくの願いを叶えてくれるんですか?でもなんで?そんな事してもぼくはただ寝る事以外しないから、アリシアさんの徳になるような事は出来ないですよ?」
「それはね、貴方が私の愛し子だからよ。」
ぼくが首を傾げていると、アリシアさんが可愛らしく笑って答えてくれた。
「愛し子とはね?神が人間をとっっても好きになると、印がついてその人間を手助けできるようになるのよ」
でもね、とアリシアさんは続ける。
「神はたった1人しか愛し子が作れない上に、その人間に失望すると印が消えて、2度と人間に干渉出来なくなる。つまり、たった一度だけ使える契約なのよ。唯一世界に通じる手段としても有名ね。」
干渉できると言っても、万能ではないけどね。っと自嘲気味にボソッといって。
「愛し子の印とは魂につくの。たとえその人が死んでしまっても、神が幻滅しない限り印は消えないわ。」
「だから、私は貴方が大好きで貴方の願いを出来る限り叶えてあげたいの。…余計なお世話だったかしら?」
不安げにこちらを見つめる。
「いえ、ぼくとしては最高に助かります。だって、静かにずっと寝る事ができるんだから」
「そう言ってもらえてよかったわ!じゃあ貴方を『剣と魔法の世界』の破滅ノ森に送るわね」
「名前的にそれは大丈夫なんですか?」
「大丈夫よ!貴方には『破滅ノ森ノ王』と言う称号をあげるから。」
(そんなのなくても貴方は大丈夫でしょうけれど。)
「わかりました。ぼくとしても、永眠はいつか挑戦したいですがまだ他の眠りに挑戦していないのでありがたいです」
「それじゃ。いってらっしゃーい!」
満面の笑顔のアリシアさんに見送られ、ぼくは光の中に包まれる。前もこんな感じだったな。愛し子制度は未だに良く分からないや。
あ…この光、お日様みたい。
またぼくは寝た。
『幸人君は寝るのが大好きなんだね!』
『うん。睡眠とは至高だとぼくは思う』
『あはは!私も睡眠は最高だと思うよ!』
いつかのとても幸せだったときの夢ら、彼女がいた頃は。世界が明るく色付いて見ていた。全てを忘れて幸せに暮らせていた
ぼくの愛しい愛しいーーーー
「ーはっ!?」
目が覚める。目の前にはもうアリシアさんはいなくて、ぼくは静かな森にただ1人でいた。
静かで風が心地いい。周りを見ても誰も居ない。
…とても良いところだな。
布団が欲しい。そう考えると、何もないところから突然布団が出てきた。
「…すごい」
アリシアさんは分かってる!
布団に潜り、少しあったまった後少し風を凌ぎたくなってきた。
家を建てたいけど、布団から出たくない。
すると、布団が浮かぶ。自分の思う方向に動くことができた。
土が盛り上がり周りの木が倒れ浮き出し、家の形を成す
しばらくすると、小さなロングハウスが出来上がった。
意を決して、布団を浮かせ家の中に入る。
そこにはとても素敵な空間が広がっていた。
月の明かりに照らされているベット。
ベットのすぐ近くにある食卓。
快適な食って寝る生活が出来るだろう。
あぁ最高だ。
布団をベットに変え,固定するとまたぼくはゆっくり寝始めた。
ーーぼくは快適な睡眠を心がけている。
ずっと寝ていると頭が痛くなるから、毎日30分散歩するし、毎日ちゃんと3食食べる。
散歩していて気づいた。ここは、人が住むにはとても過酷な環境なんだと。
ぼくの『破滅ノ森ノ王』と言う称号のおかげで、この森に住むものは全てぼくに従うが、歩いていると骨が落ちているなどはざらだ。
まぁぼくは気にしないけど。
森の生き物達が毎日供物…食べ物を持ってくるから食料には困らない。
普通、骨やここの動物を見た時怯えるべきなのだろう。でも、ぼくは『普通』になることをもう諦めている。
彼女がいなくなったあの日から。ぼくはもう、普通である必要性を感じない。
───そうして約3年。変わらない日々を送っていた。
相変わらず静かで誰も話しかけてこなくて。邪魔してこない。とても素敵な3年だった。
でも、ぼくの平穏は混乱へと変わる。
人が来ることができないはずのこの場所に、1人の少女が倒れ込んでいる。
ぼくは見ないふりをしようとした。血だらけだったし、置いておいたら死ぬだろう。
只々冷めた目で見ていた。でも、僅かに少女が顔を上げたときぼくの考えは覆される。
!彼女に似ている!!?
いや。似ているなんて領域じゃない。もうあの顔は彼女そのものだった。
ぼくは急いで外に駆け出し、少女に駆け寄って家の中に担ぎ込んだ。
必死に回復魔法をかけ、体を回復させる。
そんな事したって、彼女にまた会える訳ないのに。
「…ぼくはまだ、また彼女に会えるのかも知れないと言う希望を持っているのか」
1人呟き、少女をベットに乗せる。
ぼくはこの世界に来て初めて、ソファーで寝た。
後からベットを出せることに気がついたが、この時はそれが考えつかないほど混乱していたのだろう。
自信の浅ましい希望に驚き。彼女そっくりな少女に驚いていた。
そんな、僕にとっての一時の気の迷いがまさかまた世界に関わる事になるなんてぼくは知りもしなかっ
───気に留める価値もない、1人の男の話をしようか。
世界が魔王という脅威に襲われて、混沌に満ちている中、その男は孤児だった。しかし、その状況がでも自分が幸せになろうとしたらなれると信じ必死に走り続ける大馬鹿野郎だった。
その男が12歳になった頃だったか、住んでいた国で勇者が現れると予言が降りたとニュースになった。
暫くすると、男が住んでいるいえに兵士が来て告げる。
「貴方様は勇者に選ばれました!どうか世界を救ってください」
希望に満ち溢れていた男はその願いに是と答え、聖剣を手に女神に会った。
最初は、仲良くなるのに手間取った。女神様だというのに子供らしい。
初めて会った時は、「帰れ!」と叫ばれ追い出された。しかし、男が懸命に会いに行き続けると初めの態度は「勇者」という使命を人に背負わせたくなかったのだと言った。
曰く、「勇者」に選ばれた者は皆その使命の重さに圧倒され酷く辛い道を歩む事になる。それをもう誰にもされたくなかったのだとか。
彼女と仲良くなった男は魂の契約である、愛し子となった。
女神の加護を受けた男は、背中いっぱいの希望を背負って魔王討伐へと駆り出した。
だが、世界はそんなに綺麗では無い。
男は何度も騙されて、痛めつけられ人の醜さをさらに深く知った。
それでも、やはりめげずに男は進む。ずっと進む。
いつしか、男は嫌な事を忘れられる睡眠が大好きになった。
旅の中盤。男は見すぼらしい孤児と思われる少女に出会った。
少女をみているとかつての自分を見ているようで、彼は死んだ目をしている少女を自分の旅の仲間に無理矢理加えた。
彼女は、時には彼を支え時には喧嘩しとても良きパートナーとなった。
しかし、終わりは突然訪れる。
それは、男と彼女が恋仲になって魔王討伐を果たした時。
2人は嬉々として、国に報告しに行った。
だが、国は帰還を喜ばなかった。
まず、魔王をたった2人で討伐した圧倒的な力を恐れた。
次に、2人が恋仲であったが故に結婚で国に縛る事が出来なかった事に苛立った。
最後に、2人が何の身分もない卑しい孤児にも関わらず、王族以上の支持を得ていて今の政権がその2人に大きく傾いてしまっている事に不都合を感じた。
その為、彼らは殺されかけた。何度も。何度も。
いつしか、男が好きだった睡眠も安心して取れなくなった。
そんなある日。彼女が言った。『自分は異世界から来た』と。
彼女は異世界転移者だったのだ。
しかし、時空を超える上で体は時を戻し幼女に。
精神は突然連れてこられた異世界に馴染めるはずもなく、すり減っていった。
それを救ったのが男だった。
でも、もうかつての希望に満ち溢れた男は居ない。それを悲しく思った彼女が自分の秘密を打ち明けたのだった。
それを聞いて男は久し振りに目を輝かせて彼女の話に聞き入った。
彼は彼女の話を嘘だと思わず、本当に信じ彼にも笑顔が戻ってきた。
そんなささやかな幸せも。ぶち壊されたけれど。
男が、彼女に美味しいものを食べさせてあげようと森で狩りをしていると何故か『力封じの呪縛』と言う、生贄も沢山必要な上に人生でたった一度しかそのものにかけられない呪術が仕込まれていた。
国はまだ彼らのことを諦めていなかったのだ。
そうして、男は簡単に殺される虫ケラになった。
剣を振りかざして男を斬ろうとしてきた暗殺者を見た時。
男は『彼女はせめて無事だと良いな。それなら俺はもう死んでいい』と思った。
けれど、目の前に影が飛び出してきて男を庇った。
それは、男が心の底から愛している少女だった。
それを見た瞬間。男の全ての活力が消え希望が消えた。彼女は、男の最後の、最後の『きぼう』だったのに。
無理矢理呪縛を解除して、その場の全ての人を殺した。
『──、──────!!」
殺した奴のうち、死の寸前男に何か言ったが覚えていない。
無理矢理呪縛を解除した反動で血を吐く。
(これは死ぬな)
そうして、静かに少女の亡骸を抱えて死んだ。
白い空間でアリシアさんが泣いている。
『ごめんなさい。ごめんなさい』
それは誰に向けられたものなのか。全てに絶望している男はもう理解もしようとはしていなかった。
『貴方の望みを叶えます。これは、きっと私のせいだから』
彼女は悪くない。だって、魔王を封じ込める為に俺に力を注ぎ過ぎて眠っていたのだから。
『本当にごめんなさい。』
ポロポロと泣いて彼女はうずくまる。
その姿に少し申し訳なくなりながら言った。
『俺を彼女と同じ世界に転生させて、会えるようにしてほしい』
『分かりました。貴方達の辛い記憶は消しておきます』
そうして、アリシアさんは男と彼女を転生させた。男だけは記憶を消されないよう、障壁を張っていたが。
そうして、2人は転生した。男は記憶を残したまま。恩知らずの人間達を記憶に残したまま。それでも、彼女が優しい人が好きと言ったら一人称を俺からぼくに変えて、人間にも優しくした。
けれど彼女はまた消えた。
だから男は神すらもできない禁忌────をした。
くだらない。鼻で笑える程度のくだらない人生だ。
彼女に似ている少女を見たら何故か思い出してしまった。
ベットから音がした。少女が起きたようだ。さて、様子を見に行くとしよう。
ぼくは『優しい人』だから。でも、ベットは返して欲しいな。ぼくは寝るのが好きだから。
異世界で寝まくりたい