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第七話

 その日の夜は舞踏会の予定が組まれていた。アルフレッドとアリーサは庭園のベンチに腰かけて、雑談に興じていた。


「今日の舞踏会、私の家族も呼んでいいかしら」


「ああ、いいんじゃなかな。何といっても神様だからね」


 アルフレッドの日常にアリーサの存在は既に溶け込んでいるようであった。と、そこへクレアが姿を見せる。


「あらまあ、仲のいいお二人さん」


「こんにちはクレア」


「どうも、アリーサ」


「午後にはまたサロンに伺おうかしら」


「あら、そう」クレアは肩をすくめた。「ところで、今夜の舞踏会、あなたも来るの?」


「ええ、そのつもりよ。家族と一緒にね。殿下からお許しを頂いたから」


「そうなの。殿下?」


「ああ。だって、別に構わないだろう? 神様なんだし」


「神様ねえ……」クレアは吐息して、空を見上げた。「ん? あれ何かしら……」


「何が?」


「あの光……やだ、こっちに落ちてくるわよ!」


 クレアはアルフレッドに抱きついた。


 アリーサは立ち上がると、「あれは……」と光を見上げる。


 そうこうする間に光は高速で三人の前に着陸した。光はやがて人型を為し、ローブをまとった男性と女性が姿を見せた。


「まさか……」


 アルフレッドとクレアは顔を見合わせる。


「グレーゲル、テレーシア」


 アリーサがその名を呼んだ。男神がグレーゲル、女神がテレーシアであった。


「やあアリーサ。久しぶりだな」


 グレーゲルが言うと、テレーシアは微笑んで口を開いた。


「婿探しはうまくいっているの? アリーサ」


 アリーサは肩をすくめた。


「一体どうしたのよ二人して来るなんて」


「いや何、アスラミア人とはどんなものかと見に来たのさ」


「そう言うこと」


「丁度良かった。今夜舞踏会が開かれるのよ。皇帝陛下も皇妃陛下も、多くの貴族たちが参列するわ」そしてアリーサはアルフレッドに言った。「アルフレッド、この二人は私の親戚なの。舞踏会に参加してもいいかしら」


 アルフレッドは慣れたものである。クレアは絶句していて言葉を失っていたが。


「ああ、君の親戚か。また神様かい」


「まあね」


 すると、グレーゲルがアルフレッドの前にやってきて、軽くお辞儀した。


「失礼だが、君は?」


「アルフレッド。皇太子です」


「私の婿殿よ」


「ほう……君が。で、そちらのお嬢さんは?」


「く、クレアです……」


「初めまして。グレーゲルです」


 グレーゲルはクレアの手を取って口づけした。クレアは上気して、意識を失った。


「おや」


「クレア! クレア! ……グレーゲルとやら、また魔法のキスでもしたのか」


「とんでもない。今のはただの紳士的な挨拶のつもりだ」


「へえ……あなたが婿殿?」


 テレーシアは言って、微笑みかける。


「アリーサとはうまくいっているの?」


「何やかやとあるけど、一応は」アルフレッドはクレアを抱き上げると、グレーゲルとテレーシアに声をかける。「お二人を皇帝と皇妃に紹介しておきましょう。また騒ぎになる前にね。どうかいらして下さい」


 グレーゲルとテレーシアは頷き、アルフレッドの後から歩きだす。アリーサもそれに付いていく。



 そして夜。舞踏会では新たな神二人は社交界の花となっていた。グレーゲルは令嬢たちに囲まれていて、テレーシアは貴族の子弟らに囲まれている。


「すっかりみな虜になっているな。新たな神の婚約者になるつもりか」


 アルフレッドが言うと、アリーサは彼の肩に顔を傾けた。


「どうでもいいわそんなこと。それよりあの二人は酒癖が悪いから、気を付けておかないと」


「酒癖? 一体どうなるんだ?」


「ドラゴンに変身するのよ」


「何だって?」


「そんな大層なことじゃないわ。神だもの。でも、室内で酔っぱらうとまずいかも。天井突き破りそうだから」


「そういうことは早く言ってくれないと」


 アルフレッドは二人に酒を飲ませまいと会場を取り仕切る侍従長クリフのもとへ向かう。


「これは皇太子殿下。いかがですかな、今日の舞踏会は」


「クリフ、あのグレーゲルとテレーシアに酒を飲ませないようにしてくれ。アリーサから聞いたんだが、酔っぱらうとドラゴンに変身するらしい」


「な、何ですと!? ドラゴン?」


「ああ。頼むぞ」


 しかし時すでに遅し。悲鳴が交錯する。


「何だ!?」


 アルフレッドはそれを見た。二頭のドラゴンがどんどん大きくなっていく。会場の天井がみしみしと音を立てて崩れていく。


「遅かったか」


 グレーゲルとテレーシアの二人のドラゴンは、天井を突き破って、咆哮した。


「嘘だろ!?」


 ドラゴンは口から炎を吐き出した。ドラゴンブレスだ。会場はパニックに陥った。


「おいアリーサ! 二人はどうやったら元に戻るんだ!」


「こうなったら酔いが醒めて眠りにつくまで止められないの」


「冗談だろ! このままじゃ宮廷が滅茶苦茶になってしまうぞ!」


「分かったわ。何とかしてみる」


 そう言うと、アリーサは上空に舞い上がり、ドラゴンの頭上に陣取った。


「二人とも! よその星に来てまで酔っぱらうなんて、恥ずかしいでしょう! いい加減にしなさい!」


 しかしグレーゲルもテレーシアも全く取り合わず、アリーサに向かってドラゴンブレスを吐き出す。しかしアリーサはバリアを張ってブレスを防いだ。


「もう仕方ないなあ……」


 すると、アリーサは子守歌を歌い始めた。


 催眠術だ。すると、ドラゴンの瞼はやがて閉じていって、グレーゲルとテレーシアは眠りについて、元の人間の姿へと戻っていった。アリーサは会場に横たわる裸の二人のもとへ下り立ち、パチンと指を鳴らして魔術で服を着せた。吐息するアリーサ。


 アルフレッドは駆け寄ってくる。


「なあ……もしかして、君も酔っぱらうと変身するのか?」


「まさか。私は大丈夫よ」


「しかしまあ……派手に壊してくれたな……」


 貴族たちは恐れをなして逃げ出している。皇帝マクシミリアンと皇妃アンジェリアがやってくる。


「一体何事が起きたのだ」


 アルフレッドは事情を説明する。アンジェリアはそれを聞いてくらくら……と夫の腕の中へ倒れた。


ございません陛下。私が注意を喚起しておくべきでした」

 それからアリーサは、穴の開いた舞踏会場の天井の真下に立つと、ゆっくりと手をかざした。すると、バラバラになった天井の瓦礫が見る間に元に戻っていき、穴は完全に修復された。


 かくして、騒動の一夜は終わった。目覚めたグレーゲルとテレーシアは、アリーサの邸に住まうことになったのである。


 了

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