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第五話

 アルフレッドとアリーサの噂が蔓延してこの方、宮廷人や貴族の令嬢たちの関心はゴシップまみれになっていた。そんな事件が爆発物となってあちこちらで駆け巡っている頃、新たなゴシップが沸き起こりつつあった。神として降臨した四人の長男ヴィサが、宮廷において令嬢たちに急接近していたのだ。


 宮廷の男子は気が気でなかった。ヴィサは神である。先だってのアリーサと皇太子の件もある。令嬢たちの関心を一身に集めてしまうのではないか、またおかしな妖術で女性たちを誑かすのではないかと。


 アルフレッドはと言えば、令嬢たちの動きには無関心だった。ヴィサ個人のことをとやかく言うつもりもないし、他人の色恋沙汰に首を突っ込むつもりもなかった。


「アルフレッドは他の令嬢をとられても平気なの?」


 そう皇太子の私室で言うのはアリーサであった。


「おや、君としては願ったりかなったりじゃないのかい? 邪魔者が少しはいなくなって。て言うか、君どうやってここへ入ったの?」


「衛兵の人たちには眠ってもらったの」


「全く……君たちは」


 そこへ、近衛が駆け込んできた。


「皇太子殿下!」


「どうした」


「はっ、それが……」


 曰く、ヴィサが無数に分身して、宮廷内はおろか、市街地においても女性たちを誑かしているというのである。アルフレッドは言葉を失った。


「アリーサ」


「はい」


「これをどうしたら解決できる?」


「元々の本体は一つ。本体を押さえれば分身は消えるわ。逆に、分身は所詮分身。木刀で一撃でも殴ってやれば消える。でも、困った人ね兄さんも」


「とにかく行かないと」


 アルフレッドは壁に掛けてある木刀を手に取ると、近衛たちにヴィサの分身を片付けるように伝達する。アルフレッドは駆け出した。アリーサはその後を追う。



 宮廷内はパニックになっていた。貴族の令嬢から侍女、使用人まで、ヴィサの分身が至る所で女性を口説いている。


「このヴィサ! 何をしておるか!」


 アルフレッドは木刀で分身を殴った。分身は雲のように爆発して消えた。


「くそっ……あっちにもこっちにも……」


 帝都ヒルヴィンストンの王宮である。ここで働く女性たちの人数はとても数え切れない。


「兄上! そのような傍若無人! おやめなさい! 恥ずかしいと思わないのですか!」


 アリーサは手からビームを出して分身をまとめて葬り去る。


 女性たちは崩れ落ちる。アルフレッドはたまたま目に付いたクレアのもとへ駆け寄った。


「クレア! クレア! 大丈夫か!」


「ああ……何ですって……? ヴィサ様……」


 そこで、クレアの目が覚めた。


「あれ? 殿下? どうなさったの? ここは……それに私……」


 アルフレッドは事情を説明した。


「そうだわ、ヴィサ様から声をかけられて、そしたら私……どうしちゃったのかしら」


「これは大変だ」


 アルフレッドは駆け出した。


「アルフレッド! どこへ行くの!?」


「ヴィサの家だよ!」


「家!? そうか! 兄上ったら家にいるんだわ!」


 そこでアリーサは飛行状態になると、アルフレッドに手を差し伸べた。


「アルフレッド、捕まって! 家まで飛ぶわ!」


「ああ、そいつは有難い!」


 アリーサは列柱回廊から外に出ると、アルフレッドを掴んだまま舞い上がった。



 二人は家の庭に着陸すると、ヴィサを訪ねた。ヴィサはアルフレッドの読み通り、家にいて、私室でお茶を飲んでいた。


「失礼ヴィサ様」


 アルフレッドは木刀を構える。ヴァサは悠然とティーカップを置いた。


「これは婿殿。何だい二人して、何か大事でも起きたかい?」


「兄様! 帝都の分身を解いて下さい! 何てことをなさるのですか!」


「いや何、お前がここで婿殿を見付けたのなら、私も妻を一人くらい見つけてもいいのではないかと思ってね」


「それにしても、これではただの見境なしの口説き魔です! 今すぐにおやめになって」


「さあて、どうしたものかね」


 そこでアルフレッドはヴィサに打ちかかった。


「ヴィサ殿、失礼します!」


「おっと」


 ヴィサはふわりと舞い上がって、アルフレッドの一撃を回避した。


「これは婿殿、暴力はいかんよ」


 直後、アリーサの痺れ光線がヴィサを捉えた。さすがのヴィサが叫んだ。


「い、妹よ! な、何をするか! や、やめないか!」


「では! 今すぐ分身をお解きになって!」


 アリーサの痺れ光線はさらに強力になっていく。ヴィサはもんどりうって床に叩きつけられた。


「ま、参りました。これはたまらん……。我が妹よ……。分身を解こう」


 そうして、へろへろのヴィサは指をパチンと鳴らした。


 宮廷と都中に散っていたヴィサの分身と魔法の力は消えたのであった。


 了



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