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最終話

 その日、アルフレッドは些か落ち着きなく庭園を歩き回っていた。皇子にとっては決断の日であったのだ。何故そう言う思いが込み上げてきたかは定かではない。あえて言うならば運命が導いた、とでも言うべきか。そしてそれは必然であったのか。


「アルフレッド、おはよう」


 アリーサはいつものように空を飛んで現れた。着地すると、アルフレッドの顔を覗き込んだ。


「おはようアリーサ」


「どうしたの? 何だか変よ」


「そうかな」


「何か隠し事でもあるの? それとも、浮気したとか。やましいことでもあるの?」


「い、いや、そう言うわけじゃないんだ」


 そこでアルフレッドはアリーサの前を行ったり来たりし始めた。


「何と言うか……君が来てもう随分になるな。その間、色々なことがあったよな。最初は到底結末なんてないだろうと思っていたけど、俺は、いつの間にか君に惹かれて……共に過ごした時間は貴重なものだった。だから、何と言うか……こう言うことを言うと、言ってしまうと、何もかもが終わってしまいそうで怖いんだけど……」


 アルフレッドは言葉に詰まった。アリーサはきょとんとしていた。


「つまりだ。俺と結婚して欲しいんだ、アリーサ」


 女神は電撃に打たれた様に固まった。アルフレッドはなけなしの勇気を総動員して、ため息をついた。


「アルフレッド……ああアルフレッド……」


 アリーサはアルフレッドの首に腕を回した。涙が女神の頬を伝う。


「あの……アリーサ、アリーサ、それで、答えはどうなんだろうか」


「何言ってるのよアルフレッド。イエスよ。イエスに決まってるじゃない」


「そうか……そうだな、良かった。良かったよ。本当に、何というべきか」


 アルフレッドの唇をアリーサのそれが塞いだ。アルフレッドはアリーサを抱きしめた。


 それから、二人は見つめ合い、アルフレッドがアリーサを抱き上げてくるくると回った。アリーサは嬉しくて笑声をこぼした。


「それじゃあ、父上と母上のところへ行こうか」


「ええ。行きましょう」


 二人は皇帝マクシミリアンと皇妃アンジェリアのもとを訪れ、ことの次第を告げた。


「そうか。とうとう決心したか。まあ、前例無きことではあるが、これも神の思し召しだろう」


「アリーサ、アルフレッドのことをよろしくお願いしますよ」


 二人は皇帝と皇妃に頭を下げた。


 それから二人はアリーサの父と母にもこのことを正式に伝えに行った。


 ユリウスとシルヴァは優しく婿と娘を迎えた。


「ようやく婿殿が我が娘を受け入れてくれたか。どうかよろしくお願いしますぞ婿殿」


 ユリウスが言うと、シルヴァは、


「アリーサ、どうか幸せに」


 そう言って涙を拭った。



 そうしてことが決まると、アルフレッドとアリーサの婚姻が正式に全帝国に伝えられ、新聞各社は一面でこのニュースを取り上げた。


 二人のもとには祝福を告げる人々が絶えなかった。


 コーディとマイヤ、エヴァンとクリスティーナ、ヨエル神、カイレリアンにカイレリエス、ヴィサにクレア、セシリアにクリストファー、キャサリンにアーロン、ライラにマイルズら、友人たちがすぐに駆けつけた。


 それから全国から手紙が寄せられ、新たな帝室の幸福に祝福の声が届いた。また名家の貴族を始め、国中の貴族たちからも祝福の声が届けられた。



 そうして、結婚式の準備が慌ただしく始まった。これを取り仕切るのは侍従長のクリフである。新郎新婦はリハーサルに臨み、その時間の中で幸福感に浸っていた。式の準備はひと月ほどで完了し、遂に当日を迎える。



 帝都の大聖堂に詰めかけた数千人の貴族や王族で、会場は熱気に包まれた。


 扉が開き、白いタキシードを着たアルフレッドと純白のドレスを身にまとったアリーサが姿を見せると、一同からさざ波のような吐息が漏れた。アリーサの魔法で二人の背後から光が差しているのだ。それは神々しい演出であった。


 吹奏楽団の演奏とともに二人は歩き出した。ヴィサが魔法を使って、二人の頭上から光の粒子を降らせると、一同はまたその美しさにため息を漏らした。


 二人は祭壇の前までやってくると、大司教の言葉通りにことを進めた。誓いの言葉を交わし、指輪を交換し、そしてアルフレッドはアリーサのベールを上げてキスを交わした。


 その時だった。頭上から光が降り注ぎ、アルフレッドとアリーサを包み込んだ。二人の頭上には、神界から遣わされた天使が舞っていた。そして、光はアルフレッドを包み込み、天使たちの荘厳なコーラスが聖堂に鳴り響いた。さらに声が響き渡った。


「汝アルフレッドを、正式に神界の一族と認め、ここに汝を神として迎え入れるものである」


 光が爆発し、やがて静寂が訪れた。


 アルフレッドとアリーサは光っていた。アルフレッドは神の一族となったのである。


「これは……」


 アルフレッドは溢れるパワー感に驚嘆していた。


「あなた、アルフレッド、聞いたでしょう? あなたも神になったのよ」


「どうやらそうらしいね」


 アルフレッドとアリーサは手を取ると、宙に舞い上がった。どよめき声が起こった。


「行きましょうアルフレッド」


「ああ。アリーサ」


 二人は飛行して大聖堂を後にする。外に出たところで、待ち受けていた数十万の群衆から快哉の声が上がる。アルフレッドとアリーサは用意されていた大四輪馬車には乗車せず、二人で空から群衆に光の雨を降らせた。群衆のどよめきと、物凄い祝福の声は鳴り止まず、その場を圧倒した。新たな神の夫婦は、ゆっくりと飛びながら、群衆に手を振る。この時まだアルフレッドが神となったことは群衆の知るところではなかったが、後日、新聞のニュースでそれについては知ることになる。


 やがて、アルフレッドとアリーサは手を取り合い、


「さあ、行こうアリーサ!」


「どこへ向かっていくの?」


 アリーサの問いにアルフレッドは答えたのだ。


「未来さ!」


 了

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