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第三十二話

 ここ最近回数が増えている、アルフレッドとアリーサの宮中庭園でのプチピクニックは、今日も開かれていた。アリーサの手作りサンドイッチと、上質の紅茶を味わうアルフレッドは、その美味を堪能している。


「アリーサのサンドイッチは宮廷料理に勝るね」


「最近は自信が付いたかも」


 そんな二人が楽しそうに歓談しているのを、茂みに潜んで見ているのは、マイヤ神であった。


「おのれアリーサ……見てらっしゃい。何れ殿下の心は私のものになるのだから。……ん? あれは誰?」


 そこに現れたのは、ブランドン大公の長男コーディ大公子であった。


「あれは……」


 コーディを見た瞬間、マイヤは金縛りにあったように体に稲妻が走ったように思われた。


 コーディはアルフレッドとアリーサに気さくに話しかけている。


「何……? 何者なのあの方は……」


 これを一目惚れというのか。マイヤはコーディから視線を離すことが出来なかった。


 やがてコーディはその場から立ち去った。


 マイヤは茂みから姿を現すと、アルフレッドのもとへ神速で駆けつけた。


「アルフレッド殿下」


 二人はマイヤを見て、迷惑そうであった。またぞろ難癖をつけに来たのかと。しかし、マイヤの言葉を聞いた二人はその考えを改めることになる。


「今さっきこちらにいらした御仁はどなたですの?」


「ああ……ブランドン大公の長男コーディだ。それが何か」


「そう……あの方はコーディと仰るのね。コーディ様……」


「マイヤあなた……」アリーサが声をかける。「コーディ様のことが気になるの?」


「まあ、無粋な質問ね。私の心を覗き見るつもり?」


「いいえ。でもあなたの目は、恋をしているわ。あなたコーディ様のことが好きなの?」


「何だって?」


 アルフレッドが仰天したように言う。


「ああ……アルフレッド皇太子殿下、お許し下さい。このマイヤ、不覚にもコーディ様に目を奪われたこと、謝罪しなくてはいけませんね」


「いや、良いんじゃないかい。コーディ相手なら君とはお似合いだと思うけど」


「まあいやですわ殿下!」


 マイヤはアルフレッドを突き飛ばした。アルフレッドは五メートル近く吹っ飛んで茂みに頭から突っ込んだ。


「アルフレッド! ちょっとマイヤ!」


 マイヤはアルフレッドを気にする風もなく、一人悦に浸って頬を赤らめていた。


「ああ……コーディ様と仰るのねあの方……どうしましょう、この私ともあろうものが」


 マイヤは地面を殴って次々と穴を開けていた。


「アルフレッド、大丈夫?」


「ああ……何とかね」


 アルフレッドを茂みから引き抜いたアリーサは、彼の体に付いた葉っぱを払った。


「しかしたまげたな。コーディとはね、あの女神が」


「何か手伝うことは出来るかしら、私たちに」


「さあどうだろう。自然に任せた方が良い気もするけどね」


「そうねえ……」

 それから数日後、また宮廷にマイヤがやって来た。コーディを探して、宮廷人たちに声をかける。


「コーディ様をお探ししておりますの」


 そう甘い声でマイヤはコーディの行く先を尋ね歩いた。


「大公子様でしたら、先ほど東の迎賓室へ向かわれるのを見ましたぞ」


「まあありがとうございます」


 マイヤは宙に浮かぶと、東へ飛んだ。


「コーディ様、逃がしはしませんよ」


 確かにコーディは東の迎賓室にいた。他の貴族の子弟たちと歓談しているようだった。マイヤはそこへ入って行った。視線がマイヤに向けられる。


「皆さま、初めての方もおられるようですね。女神のマイヤと申します」


「ああ……マイヤ神」コーディが進み出てくる。「皇太子殿下に熱を上げている女神様は宮中で知らぬ者のいないことですよ」


「コーディ様……その、実は私、新しく好きなった人が出来てしまって……。その方に会いに来たのですわ。女神は積極的に押して攻めるべき」


「何の話かよく存じませんが。どなたに御用です?」


「あなたですわコーディ様」


「は?」


 コーディは間抜けな声を出してしまった。そして室内の空気が凍り付いた。


 令嬢たちから殺気立った声が上がる。


「マイヤ女神! あなた! 殿下のみならず、大公子様までその手に掛けようというのですの! いい加減になさって!」


「そうですわ! 皇太子殿下はすでにアリーサ神の虜。その上コーディ様まで女神に奪われたとあっては帝室の伝統を重んじるわたくしたち名家の娘にとって看過できない事態!」


「ごめんなさい皆さん……でも、神とは言え……私も女性。己の心に嘘はつけませんの」


 肝心のコーディはたじたじであった。この状況、男子たちにとってはマイヤ女神に味方することになる。コーディが女神に付けば、強力なライバルが減ることになる。


「大公子様、女神様はどうやら本気のご様子。ここは一度、真剣に話し合ってはいかがかと愚考する次第です」


 その男子の声に令嬢たちから反発の声が上がる。


 だが、マイヤは混乱に乗じてコーディの手を取ると、部屋から飛び去った。


「あっ! 待て! 待ちなさいよ!」


 そんな声は無視して、マイヤはコーディと一緒に宮廷の屋上に上がった。


「ここなら誰も邪魔する者はいませんわ」


「あ、あのマイヤ神、はっきり言っておくと、俺は神様と付き合う気にはなれんのだ。俺はアルフレッドほど心の広い男でもないしな」


「時間が解決しますわ。アリーサもそうでした」


「いや、そう言われてもだな」


「コーディ様、ご安心下さい。必ず、時間が解決します。それとも、すでにフィアンセがおありなのですか?」


「いや、残念ながらそれはないが……しかしだなあ……」


「では誰にはばかる必要がありましょう」


 マイヤはコーディの腕を取って彼の肩に顔を預けた。

 後日。マイヤとコーディが宮中を歩いている背後から令嬢たちが小銃を持って付け回しているのを見たアリーサとアルフレッドは、肩をすくめた。


「何だか、懐かしいよな。俺達もあんな風だったかな?」


「そうよね。何れにしても、マイヤがコーディに行ってくれて、これで一難去ったわね」


「それは確かにそうだな。俺も恐怖のマイヤ神から追いかけられなくて済む。コーディの奴、マイヤを怒らせると怖いのに……大丈夫かな」


「向こうは向こうでやるわよ。行きましょうアルフレッド」


「そうだな」


 そうして、アリーサはアルフレッドの手を取って空へ舞い上がった。好天に恵まれた今日はセントラルパークで二人の時間を過ごすアルフレッドとアリーサであった。


 了

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