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第二十一話

 今日の夜は宮廷で舞踏会が催されていた。めくるめくシャンデリアの明かりのもと、男女は踊り、美酒のほろ酔いに身を委ねる。大貴族たちが出席し、無論皇帝マクシミリアンに皇妃アンジェリア、皇太子アルフレッドや大公子コーディ、他にも名家の公子や公女も参加している。そして神、アリーサの一家たち。


 アルフレッドはバルコニーに出て、夜風に当たっていた。


「アルフレッド」


 そう呼ぶのは女神アリーサである。


「やあ」


「何してるのこんなところで。令嬢たちが探しているわよ」


「令嬢たちか……。僕が彼女たちのところへ行って良いのかいアリーサ」


「皇太子ですもの。仕方ないわ。そこまであなたを束縛は出来ない」


「じゃ……少し顔を出してくるよ。女神の了解を得て」


「行ってらっしゃい」


「ああ」


 そうしてアルフレッドが会場内に戻ろうとした時、「おい、何か来るぞ!」とバルコニーに出ていた人々は騒ぎ始める。


 アルフレッドは立ち止まって夜空を見上げる。


「まさか……アリーサ?」


「ええ。神の誰かが来るわ」


 そして、光は高速で着地した。光の中から人の姿が現れる。人の姿をしている、女神だ。美しい。完璧な造形美とでも言える美貌である。


「マイヤ」


 アリーサが言った。すると女神マイヤは、微笑んで、口を開いた。


「こんばんはアリーサ。お久し振りね」


 それからマイヤはアルフレッドの方を向いて軽くお辞儀した。


「アルフレッド皇太子殿下ですね。マイヤと申します」


 アルフレッドは見とれていてしばらく口が利けなかった。アリーサが皇子に軽く肘鉄を食らわせて、アルフレッドは我に返った。


「よろしく、マイヤ様」


 マイヤはアルフレッドを引き寄せると、その頬にキスした。


「殿下、アリーサでご満足していらっしゃる?」


「ちょっと! マイヤどういうつもり!?」


 アリーサがアルフレッドを引き離す。


「どうもこうもないでしょう。あなたたち、中々進展しないようだから、私が新たな候補として来てあげたのよ。女神はあなた一人ではないしね」


「なっ……」


 そこでアルフレッドが言った。


「女神マイヤ様、お言葉ですが、アリーサとは今いい関係なんです」


「そうですか? 本当に? 殿下はアリーサを愛していらっしゃるんですか?」


「今は良い距離感なんですよ」


「殿下がこんな質問にも答えられないなんて、アリーサ、やっぱりあなたに任せてはおけないわね」


「何よ!」


「アルフレッド皇太子殿下、私が女神の本当の愛を教えて差し上げますわ」


 いつの間にか野次馬の貴族たちがアルフレッドと女神たちのやり取りを見ていた。マクシミリアンにアンジェリアもいた。ヴィサとクレアも興味深げに見ている。


 すると、マイヤはアルフレッドの手を取って、空に舞い上がった。


「どこに行く気マイヤ!」


 アリーサがそれを追撃する。


「決まっているでしょう。殿下に愛を教えて差し上げるのよ。アリーサ、あなたには悪いけど、殿下は頂くわ」


「そんなことさせない!」


 アリーサはビームを連射した。そのうちの一発がマイヤの腕をかすめ、アルフレッドを握っていた手が離れた。


 アリーサは急降下してアルフレッドをキャッチする。


 マイヤは自身の腕に付いた傷に目を落とす。傷はすぐに修復されたが、久しく感じたことのない痛みが女神を怒らせた。


 マイヤはゆっくり地面に降りてくる。


「アリーサ……アリーサ! よくも私を傷つけたわね!」


「自業自得でしょ」


「何ですって!? 許さない! アルフレッドは私が必ず頂くわ! 覚悟しておくことね!」


 マイヤはそう言うと、当然のように舞踏会場に入って行った。野次馬の輪が解けて、アルフレッドは「やれやれ……」と吐息した。


 ユリウス、シルヴァ、ヴィサらが歩み寄ってくる。


「大丈夫かアリーサ」


「いいえ父上、とても平静ではいられません。マイヤは……手強い」


「マイヤの件に関しては神界にクレームを入れておきましょう。神界から言ってもらった方がいいでしょう」


 シルヴァが言った。神界とは神々が住まう世界である。


「しかしマイヤが来るとはな。俺達は幼馴染だった。アルフレッドを巡って争うことになるとは」


「ええお兄様」


 そこでアルフレッドが口を開く。


「アリーサ、あのマイヤという女神は君とは随分と違うようだ。さっきのはヒステリーだよ」


「そうね。でも、私だって少し怒ってるわ。あなたがマイヤにあんな曖昧な答えしか出せないなんて、私、悔しい」


「とにかく、中に戻ろう」


 会場に戻ると、マイヤは公子たちに囲まれていた。男を奪われた令嬢たちは殺気立ち、アルフレッドのもとへ突進してきた。


「殿下! 何ですのあの女!」


「殿下とも深い関係があるのですか!?」


 迫りくる令嬢たちに、アルフレッドは落ち着くように言った。しかし令嬢たちはとにかくも怒りのはけ口を求めて、マイヤを責め立てる。


 そこでマクシミリアンとアンジェリアがアルフレッドを救い出してくれた。


「アルフレッド、あなたもいい加減態度を明らかにした方がいいのでは?」


 アンジェリアの言葉にマクシミリアンは頷いた。


「幸い、これまで第一候補だったクレアはヴィサと良い関係にあるようだし。アリーサをこのまま認めて受け入れるか」


「ちょっと待って下さい。新たな女神が現れただけでどうしていきなり話が進むんですか。もう一度冷静になりましょうよ」


「ふうむ……ま、それはそうかも知れんが」


「また厄介な女神が現れたものね。最近落ち着いていたと思っていたら」


「あれはトラブルメーカーです。マイヤ女神、余り近づきたくはないですね」


「向こうはやる気満々だぞ。アリーサ殿に我慢しろとも言えんしな」


「やれやれ……」


 アルフレッドは吐息した。


 と、そこで会場に悲鳴が響き渡った。またしてもテレーシアとグレーゲルがドラゴンに変化したのである。


 会場はパニックに陥り、ドラゴンブレスが吹き荒れた。


 こうして散々な舞踏会は終幕を迎える。



 翌朝、アルフレッドはベッドの上に重みを感じて、目を覚ました。そこにいたのは、マイヤであった。アルフレッドはパニックになった。


「マイヤ女神!?」


「おはようございます殿下」


 その美しい微笑みには全てを忘れさせる魅力があった。しかし。


「何であなたがここにいるんですか!?」


「あら、お邪魔でした?」


「まだ他に誰も来てませんよね?」


「今から二人きりの時間を過ごしましょう、殿下」


 だがアルフレッドはマイヤ女神を押しのけて、ベッドを降りると、部屋の扉に手をかけた。扉が開かない。


「殿下」


「待って! 待ってくれ!」


「観念なさい殿下」


 そこへガラス窓を突き破ってアリーサが飛び込んできた。マイヤは苛立たし気にアリーサを睨み付ける。


「何なのアリーサ。また邪魔する気?」


「邪魔じゃないわ。アルフレッドは渡さない」


「あなたもしぶといわね」


「それはこっちの台詞でしょ」


「いいわ。それなら実力行使あるのみね」


 そう言うと、マイヤは手をかざし、ファイアボールを連射した。アリーサはシールドで防御すると、反撃のライトニングボルトを撃つ。マイヤはそれを同じライトニングボルトで受け止めた。互いの電撃が空中でぶつかり合い、閃光を放つ。そしてライトニングボルトは弾けて炸裂した。


 アルフレッドは唖然として女神同士の戦いを見ていたが、扉が砕けているのを見て、慌てて部屋から逃げ出した。


 直後、大爆発が起こって、アルフレッドの寝室は吹っ飛んだ。


 さすがに異変に気付いた近衛隊が駆けつける。


「殿下! ご無事でしたか」


 近衛隊長カーティスが埃まみれのアルフレッドの様子を確認する。


「気を付けろ。二人の女神が魔法で戦っている」


「何ですと?」


 カーティスは部下を率いて寝室だった場所へ向かった。


 アリーサとマイヤは宙に浮いてそこにいた。二人の体からはオーラが立ち上っている。


 マイヤは近衛隊の姿を確認して舌打ちした。


「邪魔が入ったようね。残念だわ。決着はまたの機会ね」


「今度アルフレッドに手を出したら、ただではおかないわ」


「まあ怖い」


 マイヤはくすくすと笑って、飛び去った。


 アリーサはオーラを収め、地に降り立った。女神は手をかざすと、粉々になった寝室を元通りに修復した。


「カーティス隊長。アルフレッドは?」


「外におられます。何があったのですか」


「マイヤ女神がアルフレッドの部屋に侵入したのよ。私は殿下を守った」


 アリーサは寝室から出た。アルフレッドは泣きそうな顔をしているアリーサを抱き寄せた。アリーサは小さな声で泣いた。


「あなたの前でこんな戦い見せたく無かった」


「いいんだよ。君が来なければマイヤ女神の襲撃になす術もなかったろう」


「ごめんなさい」


「謝ることないさ」


 アルフレッドは言ってアリーサの涙を拭ってやった。


「朝食はまだ?」


「ええ」


「じゃあ、着替えるから、どこかのカフェにでも朝食を食べに行こう」


「いいアイデアね」


 そうして、二人は宮廷を出ると、歩いて町に出た。手を繋ぎながら、女神と皇子は朝の町に消えていった。


 了

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