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第十五話

「諸君!」


 アルフレッドは、クレアにセシリア、キャサリン、ライラ、クリストファーにアーロン、マイルズを前に演説を打とうとしていた。


「諸君! 昨今宮中に流れる不穏の気配を聞き及んでいるだろう! そう! 夜な夜な出没する小人のことだ! 目撃証言によると、何とその小人たちは、宮廷の名画や壁に落書きはするわ、食物保存庫に忍び込んでつまみ食いはするわ、貴重な美術品を損なうわ、庭園を滅茶苦茶にするわ、暴虐の限りを尽くしている! 諸君! 帝国の伝統的血筋を受け継ぐ我らにとって、これは看過できるものではない! 何としてもこれ以上の被害を食い止める必要がある!」


「はい! 皇太子殿下! 質問があります!」


 クレアが手を上げた。


「何だねクレア君」


「はい。その小人ですが、そもそもなぜ私たちがことに当たらねばならないのでしょうか? 近衛隊が動いているはずですが」


「クレア君……! 君には分かっているはずだ! これが宮中の伝統ある貴族たちにとって見過ごすことは出来ない問題だと! それが理由では不服かね」


「いえ。了解しました」


「皇太子殿下!」


 アーロンが挙手する。


「はい、アーロン君」


「聞き及ぶところによると、この小人は今のところ神出鬼没。もちろん庭園内にも宮中にも彼らの住処など存在しません。殿下には見当がついているのでしょうか」


「ううむ……実を言えば、その点については、私も今のところ不確かな情報しか掴んでいない。だが、目撃証言によれば、宮廷内のどこかにいることは必然。そこで、我々としてはまず夜警を行い、奴らのアジトを突き止める!」


 そこへアリーサが現れた。


「みんな何してるの?」


 それにはセシリアが答えた。


「……と言うわけで、小人を探しているのよ」


「ふうん……小人か……面白そう! 私も探すわ!」


「アリーサ殿が加わってくれれば勇気も百倍だ」


 マイルズが言う。アルフレッドは話を締めくくった。


「では、本日十九時より夜警を開始する。集合場所は噴水広場にて。では、解散!」


 ああ……やれやれ……。子弟たちは散開していった。


 アリーサは歩き出すアルフレッドの後からついてくる。


「小人さんって、可愛いみたいね」


「冗談じゃない。ここ最近宮廷を荒らし回っている。これ以上放置は出来ないよ」


「でもどこにいるか分からないのに、どうやって探すの?」


「だからまずは夜警から始めるんだよ。そして、連中のねぐらを突き止める」


「でも小人をいじめるのも可愛そうな気がするわ」


「アリーサ、小人たちの蛮行はすでに無視できないレベルに達している。何としても阻止しないと」


「まあ、アルフレッドがそう言うなら」


 かくして、小人たちを発見するための活動が始まる。



 アルフレッドらは十九時に噴水広場に集合した。小人は攻撃はしてこないということで、それぞれ松明を持って手分けして宮廷内の探索に向かう。


 そして、何ともあっさりと小人を発見してしまう。アルフレッドは何か声がする方へ向かった。


 ワキャワキャワキャワキャ!


「あれは……」


 アルフレッドは、ワキャワキャ言いながら壁に落書きしている小人たちを見付ける。


「見つけたぞ! 小人たち! そこまでだ!」


 ワキャー! 小人たちは慌てて駆け出した。


「逃がすか!」


 アルフレッドは追跡した。


 と、別の通路から小人たちを追ってきたキャサリンとクリストファーと合流する。


「アルフレッド様、こいつら外に出る気だ」


「この方角は……宮廷内の森ですわ」


 三人はとにかくもワキャワキャ言いながら逃げていく小人たちを追う。


 やがて、小人たちを追ってきた仲間たちと合流する。小人たちは森へと向かう。


「まずいわ。森に入られたら追跡は不可能よ!」


 ライラの言葉にみな同意見だったが、とは言えここでこのまま逃すわけにはいかない。彼らは追った。


 森の中は真っ暗で、ほとんど何も見えない。


「これじゃ追跡は出来ないわ」


 アリーサが言って、一同を見渡す。


「いや……だがこれで手掛かりは掴んだ。明日の朝、森を探索してみよう」


 アルフレッドの言葉に一同賛同し、ひとまず追跡は断念。翌日森へ入ることにする。



 翌朝。アルフレッドは朝食を済ませると、森へと向かった。アリーサも空から降り立ってくる。


「アリーサか」


「アルフレッド、何か見つかるといいね」


「ああ。みんなはまだかな……」


 それから程なくして、子弟たちは全員集まった。


「おはよう殿下、アリーサ」


 クレアを始め、みな挨拶を交わす。それもそこそに、一行は森へと踏み込む。


「よし、行くぞ。油断するな」


 そうして小一時間ほど森の奥へ進んだところで、彼らは小人の石像が無数に転がっているのを発見する。


「これは……」アーロンは石像を確認する。「まさに昨晩の小人だ」


「こっちにもあるわ」


 セシリアが言う。


 みんなで手分けして探してみると、一帯に小人の石像が無数に散乱していた。


「これは一体……」


 すると、アリーサが石像にタッチした。


「魔法反応あり。みんな、これ多分昨夜の小人たちよ」


「こいつらが……夜になると動き出すのか。どうすればいい……」


 アルフレッドはアリーサに視線を向けた。


「神様的には、きちんとお祀りしてあげれば多分石像が暴れだすことはないんじゃないかと思うんだけど」


「じゃあ君は、教会でも建てろって言うのか」


「別にそんな大掛かりな工事でなくても、注連縄で神域を囲んで、その中に石像をお祀りするとか、方法はあるんじゃない」


「なるほどねえ……」



 それからアルフレッドは父である皇帝にことの次第を報告し、アリーサの提案を話した。マクシミリアンはそれを了解し、すぐに市街地の職人たちに命じて注連縄の作成に取り掛からせた。


 アルフレッドらは近衛隊とともに森に向かい、小人の石像群を一カ所にまとめ、注連縄の到着を待った。


 それまでに聖職者たちが一帯を聖水で清め、邪悪なるものを退ける儀式と、小人の石像たちに敬意を払って、「かしこみかしこみ何卒鎮まり給え」と祈りを捧げた。


 そして待ちかねた注連縄が到着する。全員で石像の周りを注連縄で取り囲み、神域とした。


 全ては終わった。誰もがそう信じ、森を後にする。



 その夜……。


 宮廷の森の奥、小人たちの石像は確かに鎮まった。だが神域として定めた別の場所、土から小人が顔を出した。ワキャ! そして、次々と地中から小人たちが湧いて出てくる。


 ワキャワキャワキャワキャ!


 小人たちは合唱すると、また怒涛となって宮廷に向かって突進していったのである……。


 了

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