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第十四話

 昼、食事を終えたアルフレッドはいつものように庭園のベンチでくつろいでいた。そこへアリーサがやってくる。


「皇太子殿下、お暇そうね」


「ああ、こうして平和を実感するのはいい気分だよ」


「平和だから銃はいらない」


「それに剣もね。アメテリシア大陸が統一されて、しばらくになるけど、最近は軍も持て余しているようだ」


「兵隊さんにもパイを配ってあげないとね」


「君の手作りパイならみんな喜ぶと思うよ」


「そうかしら」


「おや、その気なったかい」


「うーん……ちょっと考えてみる」


 その時だった。近くの木から声がした。


「そのパイ、おいらたちにも食わせてくれ!」


「そうだそうだ! パイ食わせろ!」


「おうよ! パイよこせ!」


 アルフレッドとアリーサは不思議そうに顔を見合わせる。


「聞こえた?」


「うん」


 すると、木から飛び立った小鳥の集団が、騒ぎ出した。


「パイくれ! パイ食わせろ! パイパイ欲しい!」


 二人とも呆気に取られていた。だがアリーサは何かを思い出しようである。


「分かった! あなたたち、ヒトコトバハナシ鳥でしょう?」


「ヒトコトバハナシ?」


 アルフレッドはアリーサを見やる。


「そうよ。人語を放す妖精の類ね」


「何だってこんなところにそんな妖精が?」


「さあね。あちこち旅する鳥なんだけど」


 アリーサは言った。


「あなたたち、どうしてここへ来たの?」


 すると鳥たちは答えた。


「ここ大陸で一番うまいもんがあるところやろ!? わしら御馳走食いに来てん!」


「食うことしか考えないのか」


 アルフレッドの言葉に、鳥たちは抗議する。


「お前! この宮殿に住んでる偉い人やろ! 毎日美味いもん食ってるやろ! 違うけ!? お前に非難されることはないわ!」


「こいつら喧嘩売りに来たのか?」


「駄目よアルフレッド。ヒトコトバハナシ鳥は怒らせたら仲間をたくさん呼んで帝都がパニックになるわ」


「そんな大げさな……」


「本当よ」


 そこでまたヒトコトバハナシ鳥たちが騒ぎ出した。


「お前! 俺らのこと舐めとんな! その女の言う通りや! 仲間呼び集めたる! 見とれよおどれら!」


 ヒトコトバハナシ鳥たちは木から飛び立った。


「何て口の悪い連中だ」


「知ーらない、知らないよアルフレッド」


「何で? あれくらいでパニックになるのか?」


「すぐに分かるわよ」



 そして、それから一時間ほどが経って……。


 空に巨大な黒い影が出現し、帝都へ接近し始めたのだ。宮廷で教授の講義を受けていたアルフレッドは近衛からの報告を受け、慌てて外に出た。


「な、何だあれは……」


 そこへアリーサが舞い降りてくる。


「だから言ったじゃない」


「あの影、鳥なのか?」


「そうよ」


 令嬢や公子たちも飛び出してきた。


「皇太子殿下あれは一体……」


「それは……話すと長くなる」


 クレアの言葉に皇子は言葉を濁した。


「あれは何ですの? 怪物?」


 セシリアが言うので、アリーサはヒトコトバハナシ鳥のことを話して聞かせた。


「まあ大変。それじゃあまず飲食店が狙われるというのですか?」


 キャサリンが言って、ライラが眉間を押さえる。


「何てこと……グルメが標的になるのね」


「そうなの。ヒトコトバハナシ鳥は美味しいものを食べるために世界中を旅してるのよ。ここは帝都だし、世界最高クラスのレストランが店を構えてるから」


 アリーサは答えた。


「しかし……木の実や虫ならともかく、調理された人間の食べ物を狙うなんて、とんでもない連中ですな」


 クリストファーが言った。アルフレッドが頷く。


「ああ。何しろ人語を理解するから知能は高いようだ」


「このままでは、帝都が壊滅しますよ、何とかしないと」


「ヒトコトバハナシ鳥はどうしたら離れていくんだ」


 アーロン、マイルズが言うのに、アリーサは思案顔。


「グルメを食べつくしたら満足して帰ると思うの」アリーサは名案が閃いた。「そうだ。あの子たち、私のパイが食べたいって言ってたじゃない? 庭園に巨大なパイを置いたらどうかしら。こっちにおびき寄せられるんじゃない?」


「しかし、おびき寄せるったって、あの数だ。ちょっとやそっとじゃ足りないぞ」


 アルフレッドが指摘する。アリーサは微笑んだ。


「特大のパイよ。待ってて。調理場借りるわね。パイ作ってくる!」


 アリーサは言って走り去った。



 そうこうする間にヒトコトバハナシ鳥たちは帝都市街になだれ込んだ。市民は大パニックである。市場の商品から食事処、レストランにまで侵入し、片っ端から食べ物を食いつくしていく。


「アリーサ……頼むぞ」


 やがて、アリーサがアップルパイを作って持ってきた。


「みんな! お待たせ!」


「お前、それって、普通のパイじゃないか」


「任せて。大きくするから」


 そう言うと、アリーサは庭園の広場にパイを置いて、手をかざした。手から光が伸びて、パイに降り注ぐ。すると、パイが見る間に巨大化していき、とんでもなく巨大なパイが出来上がった。 


 みんな仰天する。


「す、凄い……」


 クレアは、巨大アップルパイを見上げた。


「鳥たちに話してくるね!」


 アリーサは市街地へと飛んだ。


 やがて、ヒトコトバハナシ鳥らの大集団が宮廷に向かってきた。


「あれやあ! アップルパイやあ!」


 鳥の軍団がアップルパイに群れ成して飛びつく。


「美味い! これは美味いぞお!」


 見るまに無くなっていくアップルパイ。アリーサは先手を読んで、鳥たちがパイを食べつくす間にもう一つのパイを焼いて持ってきた。そのパイも巨大化させる。



「そっちにもアップルパイやあ!」


「食うたる! 何ぼでも食うたる!」


 そうして、ヒトコトバハナシ鳥は、満腹になって舞い上がった。


「おいそこの皇子!」


 アルフレッドは「は、はい何でしょう……」と進み出る。


「このアップルパイは絶品だった。お前の無礼、許したる。じゃあな! また会おう!」


 鳥たちは飛び立っていった。次なる獲物を求めて……。


 みんな吐息した。


「アリーサ殿がいなかったらどうなってたか。救世主だよ」


「ほんとだわ」


 みなアリーサに礼を言った。


「しかし……また会おうなんて言ってたけど……もうたくさんだな」


 アルフレッドの言葉に、全員賛同であった。


 了

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