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第十二話

 夜、帝都内サキエヌス墓地において、グレーゲルとテレーシアは、魔法の儀式を行使していた。


「これで帝都は賑やかになるぞ」


 グレーゲルが言うと、テレーシアはくすくすと笑った。


「さぞかしみんな驚くでしょうね」


「そうだろうな。だがこれは祭りだ。せいぜい騒いでみようじゃないか」


 そして二人は、魔法陣を発動させた。



 やがて宮廷内外に、まことしやかに噂が囁かれるようになった。建国の英雄たちが葬られているサキエヌス墓地に幽霊が徘徊しているというのだ。英雄の幽霊が夜な夜な現れては、市街地にまで出没しているという。


「馬鹿馬鹿しい」


 皇帝は侍従長クリフから受けた報告を一顧だにしなかった。


「何を馬鹿なことを。幽霊などが存在するはずがないではないか」


「は……とは申せ、日に日に目撃証言が増えておりまして。臣民の心は穏やかならぬものがあるようです」


「ふうむ……」


 マクシミリアンは沈思の末に、帝国元帥のクライヴを呼び出した。


「陛下、私に御用とは何事でしょうか。何か、国内で不穏な動きでもありましたか」


「不穏な動きか……まあ、不穏と言えば言えなくもないが」


 皇帝は苦笑した。


「昨今帝都の民の間で流れる噂を耳にしているか」


「ああ……」元帥は肩をすくめた。「サキエヌス墓地の幽霊のことですな。いや陛下……まさか」


「そのまさかだ。侍従長からも報告を受けてな。どうも幽霊騒動が放置しておけなくなっている」


「で、具体的には私にどうせよとお考えですか」


「まずはサキエヌス墓地の実態を確認してくれ。幽霊の正体が何者か、それを確認してからだな」


「はっ。では軍を動かしてよろしいのですね」


「無論だ」


「承知致しました。それでは」


 クライヴ元帥は敬礼して退室した。



 その頃アルフレッドは、庭園のベンチでアリーサから幽霊見学ツアーに行こうと誘われていた。


「ねえねえアルフレッド、幽霊見に行こうよ」


「何で幽霊なんか見に行くのさ。どうせデマだよ。大体幽霊なんているはずがないだろう」


「あら、目の前に神がいるのに幽霊がいないって言い切れるの?」


「それは考えたことなかったな」


「ねえ?」


 そこへまた、クレア、セシリア、キャサリン、ライラ、クリストファー、アーロン、マイルズらが大挙してやってきた。


「アリーサ殿、殿下は説得出来ましたか」


「あと一押しよ」


「何だ君たちは。グルなのか」


「あら殿下、幽霊が怖いんですか?」


「そんなことはない。幽霊なんていないんだから」


「それじゃあ決まりね」


「何で決まりなんだよ」


「今夜サキエヌス墓地へ行きましょう。決定!」


 アルフレッドは大きく吐息した。やれやれ……。



 そうして、日が沈む頃、サキエヌス墓地周辺が元帥麾下の連隊によって包囲されるのに合わせて、アルフレッドらはここへやってきた。


「軍隊だ」


 マイルズの声にクリストファーは声をひそめた。


「何だって軍隊がいるんだよ」


「さあてね。でもここまで来て引き返す道はないだろ」


 アーロンが言うのに、アルフレッドは口を開いた。


「今からでも遅くはない。やっぱり引き返そう。軍隊に見つかったら厄介だよ」


「何よアルフレッド、これくらいで怖気づくの」


 アリーサに続いてクレアが言った。


「そうよ。軍隊なんて気にしないの」


「そうそう。何とかなるわよ」


 セシリアが言って、


「幽霊まだかなあ……本当だとしたら衝撃よね」


 キャサリンが応じる。そしてライラが言った。


「私一応銀のペンダントしてきたの。魔除けになるかなって思ってね」


 そうやって何だかんだ言いながら、八人の若者と女神は、墓地へと入って行った。



 サキエヌス墓地のあちらこちらから、青白い光が立ち上ってくる。それは人型をなしていて、豪奢な装備を身に着けた骸骨たちであった。


「出た! 出たじゃない!」


 アリーサは嬉しそうだった。


「嘘だろ……」


 アルフレッドは呆然としている。他の若者たちは声を殺して、しかし嬉しくて震えていた。


「殿下、来たかいがありましたね」


 クリストファーの言葉はアルフレッドに感銘をもたらすことはなかった。


 と、いつの間にかアルフレッドらは幽霊に囲まれていた。


「これは凄いわね……」


 まじかで見る幽霊にクレアは恐怖を通り越して感嘆した。


 そして幽霊が言葉を発した。


「恐れ知らずな若者たちだ。それに、人間でない者も混じっているようだな」


「あなた方は、なぜに昨今出没するようになったのですか。今までこんなことはなかったのに」


 クリストファーの問いに、幽霊は肩を揺らして笑った。


「我々は召喚されたのだ。一度は天に帰ったが、大規模な召喚の儀式をした者がいる」


「それで……いつまでこうしておられるのですか? 民に危害を加えるとあらば看過できませんが」


 アルフレッドは問うてみた。


「勇敢な若者だ。名を何という」


「私は皇太子アルフレッドです」


「ほう、ではマクシミリアンの息子か」


「父をご存じなのですか?」


「私はお前の父の父の父の父だ。確かそれくらいだったはずだ」


「な……っ。では、私のご先祖様ですか」


「そう言うことになるな」


 クレアがアルフレッドの肩を叩く。


「凄いじゃないアルフレッド。ご先祖様だって!」


「もしかして、私のご先祖様もいるのかしら」


 よくよく聞いてみると、そこに集まっていたのは、アリーサを除く八人の若者達の先祖の幽霊であった。


「我々の血筋が残っているのを見て、嬉しく思うぞ」


 幽霊たちは笑声を上げた。


 と、夜の闇に銃声が轟いた。


「何だ!?」


「愚かな。我々に銃など効かぬ。全く、マクシミリアンも短慮なことだ」


 そうして、幽霊たちは咆哮した。大気がびりびりと震動する。


 何と、墓地から更に幽霊たちが溢れ出てくる。幽霊の大軍が市街地に向かって怒涛となって押し寄せる。


「ご先祖様! 何をなさるおつもりですか!」


 アルフレッドは幽霊の袖を掴んだ。しかしその手はすり抜けた。


「案ずるな我が子孫よ。少し、楽しませてもらうだけだ。我々は単なる幽体だ。悪霊ではない。現実に何ら干渉は出来んからな。それに……こうして現世に出ることが出来るのも今日までだ。今日が最終日なのだ。存分に楽しませてもらおうぞ! ではな! 我らが子孫たちよ、末永く生きよ!」


 そうして、その夜、帝都は幽霊軍隊のお祭り騒ぎで、人々はパニックに陥ることになったのは言うまでもない。


 皇帝マクシミリアンも、先祖から説教を受けることになったのだ。


 了

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