41 帳簿取引
朝食を食べ終えてからは、バンと一緒に露店市の必要物資探索だ。
この辺りは保存食の類だろうか。
瓶詰の果物のジャム、各種1瓶ずつ。
キラービーの蜜、大きいし1瓶かな。
干し果物、各種1籠ずつ。
バター、とりあえず小さな木箱5箱。
砂糖?何で塩と同じ場所に無かったんだろう、でもとりあえず、10kg1袋で良いかな。
モウの乳、瓶詰めをとりあえず10本。
モウって、乳牛の種類かな?
「ロイ様、パンがありますよ」
バンが手にしているのは、黒パンだ。
黒パンは保存が効くが硬く、顎が鍛えられると言う代物。
スープ必須の代物だ。
「今後は自分たちで作れるし、アイテムバックに入れれば焼き立てだし、こっちの白パンを貰おう」
「白パン、柔らかいですね」
「前に話した、鉄貨と銅貨の違いだよ」
「おぉー!これが銅貨2枚のパンですか!」
銅貨2枚のパンとして感動しているバンだが、正確には王都で多分銅貨2枚なだけで、ミラードでは多分銅貨1枚だと……言わないでおこう。
それにバターも乳もあるのだ、もっといいパンが作れそうな予感。
お?石鹸か、これも確保させてもらおう。
凄い良い匂い。
「他に気になる物ある?」
「あ、こっちは調理器具みたいですよ」
材料はあっても、器具が無ければ作れない物は多い、とりあえず用途不明な物も含めて一式揃えよう。
後は、各種保存箱の類。
統一された瓶を各種集めて、倉庫の整理用に木箱、水運搬用に樽、あ、陶器の壺もあるのか、これも頂こう。
「ロイ様、本がありますよ」
「お!それは見たい!ん?でもあんまり無いね」
「本はやはり高価な物だからでしょうか」
生活に関するアドバイス的な本ばかりだった。
でも、料理の本は嬉しい。
分厚いがこれは有用だろう。
後は、植物図鑑。
鑑定を持っている身としては不要だが、バンに読ませるには丁度良いだろう。
一緒に薬草採取をしても微妙に異なって毒草だったりすると言う知識を事前に得て欲しい。
「こんなもんかー!」
一ヵ所に集めたのだが、結構な量になった。
後は、ナイルが来れば、判断して貰おう。
「何だかんだで、午前中はこれで終わっちゃいましたね」
「そうだね、昼食にしよっか」
カラン!カラン!
え、ナイル?早くない?
昨日の夕方前に去って、昼食時に来る、何かあったのかな?
「どちら様でしょうかー!」
「ナイルだー!」
まぁ、とりあえず、かんぬきと片門を搬入すると、昨日と同じ姿のナイルが居た。
「何か問題がありました?」
「いや?換金が終わったから、来ただけだけど」
「え?早くないですか?」
「ん?こんなもんだよ?あ?昼食べてる?まだなら土産があるんだけど、一緒に食べない?」
詳しい話を城門前でしても仕方ないので、ナイルを招き入れ、門を搬出して閉じる。
調理場前のスペースに戻ると、バンがナイルの分の昼食も用意しようとしていた。
「バンくんだったよね?今日はお土産があるから、俺の分はいいよ」
ナイルが空間から、編み籠を取り出して開けて見せる。
「あ、パンサンドですか?」
「なんだ、知ってるのか」
「伝記本を読んだときに描写されてたんですよ。でも現物を見るのは初めてです」
「でも、これは知らないだろう?」
白いパンに白いクリーム状の物が挟まっている。
何よりも白いパンが白すぎる、白パンの中身だけみたい。
大きな白パンの中身だけを切り出したみたいだ。
「パンが凄いですね」
「あー、そっち行っちゃうか。まぁ、仕方ないか、これは四角く焼いた白パンを薄くスライスして、焼き目の部分を切り落としたパンサンドだ」
高級品だと言うことしか分からない。
「焼き目の部分を切り落とすにしても、勿体無い位の高級品ですね」
「まぁ、そうなるけど、切り落とした方はそれでも、こうな風に加工されるんだよ」
ナイルは紙袋に入った棒状の物を渡して来た。
「焦げてません?」
「まぁ、美味いから食ってみ」
ポリッ。
甘っ!
「バンくんも食べなよ!」
「おい、その程度を分けるなよ、まだまだあるんだから」
ナイルは紙袋を渡して来た。
それなりの量が入っている。
「おぉ!甘いです!お菓子ですか?」
「まぁ、簡単な菓子だな。そのパンサンドを注文すると、勝手に付いてくるんだよ。細切りにして油で揚げて砂糖をまぶす、それだけだけど、結構美味いよな。おいおい、それがメインじゃないんだから、そんなにがっつくなよ。こっちを食え、こっち!」
バンと2人で久々の菓子に興奮してしまった。
本来のパンサンドを配られ、かぶり付く。
んー、シャキシャキの葉物野菜に燻製肉、食べやすいように切り込みを入れてあるのかな?
胡椒も適度に効いて、美味い。
こっちは色々な野菜が細かく刻まれて酢のような味付けのものか。
次は、厚めの肉だな、でも何か柔らかくて肉汁が溢れ、パンに吸い込まれていく。
「どれも凄い美味しいです」
「同じくです!」
「ザードで換金して、そのまま来るのも何かなぁ、と思って有名なパン屋で買ったんだよ」
「ザードの換金は終わったんですか?」
「終わったよ?今日の午前中にフィルとザードを回ってね、いやぁ、昨日はブアルの良い取引所が中々見つからなくてね」
ブアルもフィルもザードも隣接国では無いはず、昨日今日で行き来出来る距離ではない。
ナイルのピンを使って飛べると言っていたが、流石なスキルだ。
まぁ、本人も言っていたが、何らかの制限があるのだろうけど、空間魔術師とは凄いものだ。
ナイルは数枚の紙切れを渡して来た。
ブアル、ザード、フィルの金の取引価格表、多分これはその国での正規の取引価格を証明する物だろう。
様式は違うが、多分これは本物だな。
こんな時、鑑定って便利だな。
字や印章の違和感や不自然さまでも感じ取れる。
でもまぁ、本物だとしても、過去の物だったりしたら、そこまでは判断できない。
でも、紙の状態は新しいから、ナイルもそこまでして騙そうとはしないか。
ちょっと、商人に対して警戒心が高すぎるかな。
他は金のインゴット1本の買取価格と換金手数料が掛かれている。
どの国も貨幣制度は異なるが、換金手数料は皆10%。
ナイルは10%~20%と言っていたが、全部10%、複数の取引所を回ったってことかな?
「さてさて、これを基に帳簿を付けようか」
ナイルは3冊の本を取り出し、開く。
「白紙?変な線が入ってますね」
「これは帝国式の帳簿本だ。前に帝国は大したこと無いって言ったけど、領土は大陸一だからね。それを管理するための文官は非常に優秀でね。これはその文官達が作り出した独自の帳簿本なんだよ」
ブアル、ザード、フィルの帳簿本が出来た。
「さて、換金の約束、覚えてる?」
「ナイルさんの手数料10%のことですよね?いいですよ」
「値引かないの?」
「値引くなら昨日してますよ」
「いいね!ロイ君は良いお客さんだ!これからもこうやって、何かを売ったら、買取証明書を持ってきて、その都度書く。逆に欲しい物を買ったら品物と売却証明書の額を、その都度書く。書くのは俺がやるから、ロイ君はその確認をする。んで、帳簿の保管はロイ君。良いかい?」
「額が額ですから、ちょっとだけ買いたいってのは、難しいですよね。ちょっとだけで売却証明書を書いてくれるところはあんまり無いですよね」
「ロイ君分かってるねぇ。だからまぁ、欲しい物はそれなりの量を注文して欲しいね。まぁ、初期額で相当に儲けさせて貰ってるから、多少の品ならサービスでプレゼントするよ」
ナイルは3冊の帳簿を渡して来た。
すぐに欲しい物としては何だろうか。
やっぱり鉄?
新しい荷馬車の強度を考えると追加で鉄補強したいし、ブラックホース単騎で牽ける新型の馬車も作りたい。
鉄素材が多く必要だから断念していたから、作りたいところだ。
「鉄ってどんな形で買えますか?」
「鉄鉱石か鉄のインゴットを買うか、って感じだね。あ、でも施設を稼働させたいなら、鉄鉱石か」
そうだった!
炉に高炉もあるんだった。
「鉄鉱石を、何kg要るかな。とりあえず、100㎏って大丈夫ですか?」
「うんまぁ、鉄ならそれが最低量ってところかな。まぁ、100㎏なら明日には持ってこれるよ」
「え?そんなに早く出来るんですか?」
「ブアルの国営鉱山管理局にツテがあるから、卸会社に出す分をほぼ原価で買えるから。あ、ほら、最後のこれ、食べなよ」
白いクリームのパンサンドにかぶりつく。
甘っ!
新鮮な果物がゴロっと入ってる。
凄い美味い。
「新鮮な果物をホイップクリームに混ぜて挟んだ、高価な逸品だよ」
ホイップクリーム?
「ホイップって何ですか?」
「あぁ、ホイップクリームは、乳牛の乳の脂肪分の高い所を分離して、生クリームってのを抽出するんだよ。その生クリームに砂糖を加えてかき混ぜた物が、ホイップクリームって言うだよ。生ってことだから食べられる期限も早いけどね」
まさに高級品!
あ、甘いクリームに酸っぱい果物って合うんだな。
新感覚!!
「さて、店を出したけど、どの位確保した?」
「あ、一ヵ所に纏めてあるんで、見て貰えますか?」
指に付いたクリームを舐めつつ、集積場所まで移動する。
「おー、結構なカサになってるねぇ」
「貰い過ぎですか?」
「うーん、カサはあるけど、高級品はそんなに無いね。まぁ、一番高いのは、このネックレスかな。うん、利益に対してサービスが低いな。これも付けようか」
え?マジックバックを3つも追加された。
「うん、こんなもんかな。まぁ、さっさとマジックバックに仕舞った方がいいよ。ん?ロイ君の背負ってるのって魔導具?」
「いや、魔法具だと思います」
「うーん、他にも魔法具ある?」
自分の腰に下げたマジックバックとバンの持ったものを指す。
「ほー。2つ持ってたか。ちなみにだけど、そのマジックバックはその背中のには入らないでしょ」
「確かにマジックバックはこのバックパックには入れられません」
ナイル曰く。
魔法具のマジックバックは魔法具のマジックバックを収納できない。
魔導具のマジックバックは魔法具のマジックバックを収納できる。
魔法具のマジックバックは魔導具のマジックバックを収納できる。
なるほどー。