20 ボスの隠れ家発見!
バラバラにした柵の残骸を焚き木用に確保して、バンの所に持って行く。
早く火を起こさないと手元が見えなくなってくる。
「ほい、バンくん。悪いけど夕食の準備、お願いできる?食材は好きに使って良いから」
「あ、はい。分かりました」
歯切れが悪い。
バンは料理が苦手なのだ。
バンは焚き木を受け取り、竈に並べていく。
そこに僕が火起こしをする。
瞬時に火が付き、燃え上がる。
料理は変わってあげられるけど、まだゴブリンの死体の焼却が残っている。
柵の残骸ももっと投入しなければいけないだろう。
その火起こしもあるから、僕がやらなければいけない。
早く焼却しないと、臭いで他の野生動物、特に凶暴な獣とかモンスターが来られても困る。
第一次焼却をして、明日の朝に焼け残っていたら第二次焼却するのでも大丈夫かな?
「とりあえず、ゴブリンに火を掛けてくるから。その後、一緒に作業しよっか」
「よろしくお願いします!」
明らかに顔色が変わった。
仕方ない、走るか。
山盛りゴブリンの上にはある程度は残骸が乗っている。
「上半分は燃えるだろうし、真ん中は少し木材が挟まってるし、下は生焼けになるかな。まぁ、燃えた灰が被さるから臭いは軽減される、と信じよう」
山盛りゴブリンは隣接した2ヵ所ある。
「火起こし、んでもってこっちも火起こし」
火が付き、徐々に巨大な火になっていく。
周囲は広く照らされた。
バンの元へと戻り、夕食の準備をする。
「じゃあ野菜多めのスープでも作ろうか」
調理道具の中でも大き目の深鍋を用意する。
イノシシ肉の脂身だけを切り取る。
バンにはジャガイモの皮むきを任せる。
皮むきされたジャガイモをカット。
手鍋に水を汲んでおく。
バンはジャガイモの皮むきに手こずっているので、加勢。
カットしたジャガイモは水の入った手鍋に投入。
たまねぎは軽く剝いて、付け根を抉り取る。
たまねぎも大きめにカットする。
燻製肉は中量を小さく切る。
干し肉は少量を細かく切る。
貴重な生肉はカットしたじゃがいもと同じくらいに切り分ける。
深鍋に脂身を投入し、生肉を炒め、次に干し肉、燻製肉を投入していく。
ある程度火が通れば、野菜を全投入。
「バンくん、後はゆっくりと力の限りかき混ぜ続けておくれ。あ、たまに下の具材を掘り起こすようにしてね」
料理自体は難しくないと思っているが、この手の料理に関しては、ここが一番大変だ。
なので、そこをバンに丸投げする。
ジャガイモをさらした水は捨て、新しい水を用意する。
馬具を外されたブラックホースは池で水を飲んでいるが、暗くて透明度が分からないので、今日は様子見だ。腹を壊しては元も子もない。
バンが鍋を崩さない様にしつつ、懸命にかき混ぜているのを確認し、ダミーテントの設営を始める。
夜警鳥の巣は、前方に展開させる。いやはや、盆地で囲まれてるから、横からの奇襲はどうしても崖を降りることになるから、物音は立つだろう。
それに最近、夜警鳥の警戒範囲が広がっている気もする。
なので、間隔はいつもより広めだ。
ダミーテントにはバンが寝るだろうから、敷布団と掛け布団を移動させる。
季節は夏に近付いているので、もうすぐ掛け布団は荷物の緩衝材やクッションに変わるだろう。
逆に冬は掛け布団だけで耐えられるか?予備は後1枚しかない。
それに冬になれば、食料の調達に手間取るかもしれない。
南部は気候が温かいはずなので、大丈夫かもしれないが、スイール王国の南部には人は住んでいない為、生活本の様なものが無い。外国の南部地域の本を参考にしても大丈夫なのだろうか。植生や野生動物の分布、色々違うかもしれない。
幸い、アイテムバックのお陰で、馬車は大きさの割には今は軽量だ。
「ロイ様~!いい感じになってきました!」
「え?あぁ、じゃあ横の手鍋の水を全部入れて再度かき混ぜてー」
「はーい!」
何、かんがえてたんだっけか。
あ、そうそう、今は馬車が軽量なことだ。
ここである程度荷物を積んだら、普通、最悪重くなるし、占有場所も広がる。
馬車で寝ることは出来なくなるかもしれない。
別にまだテントはあるし、なんならバンと一緒でも構わない。
でも、夜警のことを考えると、追加でテントを立てるべき?
交代制にすれば、テントを追加しなくてもよくなる?
う~ん。
悩みつつ、バンの所へ戻る。
かき混ぜる鍋からスプーンで味見をする。
「熱っ!!!!でもちょっと塩気が強いね。さっきの量の半分の水を追加して」
「分かりました」
それにしても小麦粉をどうにか活用できないかな。
パン菌が無いから、パンは作れないし。
「小麦粉入れるなら、パン菌も入れといてよ~。はぁ、言っても仕方ないか」
スイール王国では、パン菌と呼ばれ、周辺国でもそう呼ばれている。遠い国ではイースト菌なる呼び方もするらしいし、食文化の盛んな国では、ベーキングパウダーなるものもあるらしいけど、パン作り専用の粉ってことだよなぁ。
まぁ、そればっかりに注目して、自然界からパン菌を採取する方法は調べてないんだよねぇ。
エールに出来る泡って、発酵母?いや、エール無いし。
ワイン樽なら……ダメか。あれは完成品を移し替えた密閉の新品樽だから入ってないよね。
せめて使用済みの樽があればなぁ。
「味見味見」
「どうですか?」
「うん、良い感じだよ。パンが欲しくなるくらい」
「じゃあ、火を動かしますね」
バンがスコップを使って竈から下の土ごと竈横に移動させる。
スープはまだまだ激熱なので、しばらく待つ必要がある。
「ロイ様。さっきパンキンとか言ってましたが、それは何ですか?」
「パン作りの材料だよ。それが無いと発酵しなくて、パンが膨らまないんだ」
「ハッコウ、とは何ですか?」
「う~ん、簡単に言うと、腐る一歩手前の状態で、パンなら練った小麦粉を膨らませてくれるんだ」
「え?!パンって腐ってたんですか?!」
「だから、腐る一歩手前だってば。それに膨らんだら焼くんだから、腐る一歩手前のものも一緒に焼き消えちゃうから」
「な、なるほど」
「あー、パンのことは忘れよう、現状はどうしようもないから。鍋が適温になるまで、ホブゴブリンが出現した場所を探そうか。イヌワシ~!」
鍋に蓋をするとイヌワシが馬車から飛来する。
生肉を一口切り取り、イヌワシの飛来ルートに生肉を軽く放る。
イヌワシはそれを咥え、足元に着地する。
イヌワシの状態を普通から警戒に変える。
「ここで待つ!いい?」
イヌワシは周囲を見渡している。これなら、鍋から離れても大丈夫だろう。
「場所的にはここから飛び出してきましたよね」
「うん。でもこの辺の小屋は中を確認した時いなかったんだよ」
「では、小屋裏に潜んでいた?」
「僕は裏道で火起こししたからそれはないね」
「でも、後ろには大岩が、あ、崩れてますね」
松明モドキをかざすと壁面に大岩が1つ、横には粉々になった岩が転がっている。
「あちゃー。見落としだ。この片方を大剣で砕いたか。多分この奥に洞窟か部屋があるね」
「それにしては粉々過ぎません?大剣なら両断程度では?」
「う~ん、確かに。怒りに任せて殴りまくったとか?」
とりあえず、残った大岩を軽く蹴ってみる。
「?」
「どうしました?」
転がった岩を持ち上げてみる。
軽っ!
手を放すと地面で砕けた。
「バンくん、大岩を思いっ切り蹴ってみて」
「えぇ?無理に痛いことをするのは嫌ですよ~」
「大丈夫。痛くないと思うよ。いくよ?」
転がっている岩を思いっ切り踏む。
バンッ!
砕け散った。
「粘土質の岩ってことですか?」
「それがかなり乾燥したか、それとも違う何か。まぁ、大丈夫だよ」
バンはつま先で蹴るのが怖いのか、距離を取って、踵が打点になる後ろ回し蹴りを放った。
格闘センスもあるのか。
「あれ?」
バンは足に大した衝撃が来ないことに戸惑っていた。
大岩は亀裂が入り、横に崩れた。
「ロイ様、ぼ、僕は伝説の格闘家になれるのでしょうか……」
「それはない。ほら、岩をよく見てごらん?」
松明モドキを近付け、バンは岩を凝視する。
「何か、小さな穴が沢山開いてますね」
「これは浮岩、浮石って言う水に浮く石だね。通称は軽石」
バンは両手で巨石を持ち上げる。
「あはっ!確かに軽石ですね」
「ゴブリンかホブゴブリンがどっかで見付けて運んで来たんだろうね。まぁ、サイズ的に運んだのはホブゴブリンだろうけど。と言うことで謎は解明された!」
残るは真っ暗な洞窟。とりあえず、松明モドキをそっと放り投げる。
よく見ると奥の壁に当たって、跳ね返っている。
「洞窟じゃなくて、穴?部屋?バンくんそれ貸して」
松明モドキを前に突き出し、中の様子を伺う。
「って!うぉっ!クッセ!無茶苦茶臭い!」
「そ、そんなにですか?」
「汚物臭とか腐敗臭とか、とにかく世の中の臭いの全てが詰まってる!バンくん、急いで生木を集めよう。なんなら葉付きの枝でもへし折ろう」
「それだと燃えなく無いですか?」
「大丈夫、僕の火起こしなら付く」
急いでアイテムバックから斧を手にして、盆地の入口付近の林に走る。
「登って枝打ちしますか?」
「いや、登るのは面倒だから、切り倒す!」
「え、流石に時間が掛かりますよ。そんなことしてたら料理が冷めますよ?」
「大丈夫、大丈夫。ラァッシュゥ!」
「!?」
一撃だった。でも運悪く、バンのいる方に倒れてしまった。
でもどうやら間一髪で飛び退いた様だ。
「ご、ごめん」
「い、いえ。木って一撃で倒せないですよね」
「まぁ、そこはスキルを使ったからね」
本当はそのスキルも強化してるんだけどね。
倒れた木の大きな枝に再びラッシュを見舞う。
「バンくんはとりあえず、あの穴までこれを先に引き摺って行ってくれる?」
「わ、分かりました」
片手で引きずるには重そうなので、ラッシュで半分くらいに割く。
バンは左右に枝を持って引き摺って走る。
「さっきと同じくらいの量が要るかな」
次に大きな枝にラッシュを放ち、更にそれを半分に割く。
斧を枝に打ち付け、バンと同じように引き摺って穴を目指す。
穴では既にバンが葉を先にして、突っ込んでおり、次の枝を持ち上げようとしている。
「いいねいいね。手伝うよ」
バンと2人で穴の入口を塞ぐようにし、残りは上に積み重ねる。
葉の部分は殆ど穴に入っている。
「ふぅ~。じゃあ、火を付けるね。火起こし」
反対側に回って、
「火起こし」
木が燃え始める。
「生木なのに……」
バチバチと生木に含まれる水分が弾ける。
火は本格的に燃え始めた。
「バンくん、燃えてない切り口を穴の中に押し込むよ!」
2人で地面に座り、両足で枝を穴に押し込んでいく。
穴から煙が漏れ出てくる。
「これだけ燃やせば、臭いも燃えて、煙でも臭いは消せるはずだよ」
「鎮火まで見守ります?」
「いや、鎮火しても煙が充満して臭いを消してくれるはずだから、とりあえず夕食にしようよ」
食器によそった具沢山スープは、丁度いい温度だった。
あ、イヌワシの警戒を下げなきゃ。