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2 ロイの散歩

開拓都市長の三男、ロイは今日も街を散歩している。

考えることが好きなので、考えなければならないことを探して、散歩している。

「おや、ロイ様。この前はありがとうございます。いつものこれ、どうぞ」

飲食店の店主は、野菜サンドイッチと果実ジュースを渡してくる。

「ぷふぁ。考え事をして頭が疲れた時に飲む果実ジュースの甘さは、良い物ですね。その後、どうですか?」

「そりゃあ、もう順調ですよ!酒の消費も抑えられて、客の評判も上々、注文は増えましたし、儲けは上がってますよ!他の店も救われた!ってな評判ですよ!」

ロイは以前から飲食店の売上の伸び悩みについて思案していた。

飲食店は料理の提供のみならず、秘策として酒を造ることによって、売上を上げていた。

この開拓都市のみならず、この国で主流なのはエールとウイスキーだ。

小さな飲食店では、沢山の樽を仕込むことは難しい。エールはともかく、長期熟成させたウイスキーなどは価値も上がるが、保管場所が無いので、短期熟成のものしか出さざるを得ないのだ。

エールやウイスキーには酒税が掛かる為、秘策の酒造りも大きな売上にはならない。

そこでロイは各飲食店に提案したのだ。

エールやウイスキーは造った樽毎に酒税が掛かる。

では薄めてはどうか。

勿論、エールを薄めることなど、論外なのは分かっていた。

ウイスキーの水割りも、女性客にしか注文されないのも分かっていた。

ならば、果実ジュースで薄めれば良いではないか、と。

エールには少しの果実ジュースを加える。

ウイスキーには客の要望に合わせて薄め加減を調整する。

客としては様々な果実フレーバーの酒が楽しめる。

ストレートと違い、一気に酔いが回る訳では無いので、色々沢山飲める。

飲食店は酒が飲めない客の為に用意していた果実ジュースを多く作らなければならなくなったが、造った酒の消費を抑えられる、酒が飲めない客も、飲んでみたい欲求はあるみたいなので、かなり薄めたものを注文してくれるだろう。

売上の予想から、その手間も十分納得できた。

この提案を受けた飲食店は準備の上、提供を始めた。

その翌日には、他の飲食店も同様の提供をするために、ロイの提案を聞きに、各飲食店主が最初の飲食店に殺到した。

勿論、ロイは最初からこうなることは分かっていたし、個別に回るのは大変だと言うことも分かっていたので、最初の提案時点で、他の飲食店に聞かれたら、その方法を教えることを条件としていた。

「でも、儲けは上がっても、商税も上がっちゃいますよね」

「そんなの気にならない位になってますから!それに結局はロイ様の家に税を納めるんです。こんな方法を教えて貰ったんですから、何の文句もありゃしませんよ!」

「なら良いのですが。あ、ごちそうさまでした」

店主は大笑いしている。


開拓都市は通常の都市とは違い、税の設計・徴収は市長の承認によって決めらている。

市民税などは共通だが、開拓都市によって種類や税率が異なるのだ。

酷い所では、婚姻税、重婚税、出生税や死亡税、埋葬税、とにかくたくさん税を徴収するために、税を設計している開拓都市もある位だ。

ロイの父親でありこの開拓都市長の、ジブ・ミラードは、若かりし頃、数々の戦場で功績を上げ、ただの突撃兵士から男爵まで一気に駆け上がった戦場貴族として名を馳せる人物だ。

その後、国王より開拓都市を任され、築城の時代は税を多く徴収していたが、開発が落ち着くと、税の段階的撤廃と税の引き下げを行った。

安定期からは、経済を優先させることと、市民感情を考慮し、新たな税は設計していない。

と言う記録を書庫で分析済みだ。


しかしこうなってくると、酒税や商税の改定を考える徴税部が上申してくるのは時間の問題だろう。

その回避策をロイは思案していた。

いっそのこと、酒造店を作ることを、市民に提案しても良いかもしれない。

そうすれば、大量に酒の生産が出来、長期熟成の品も作れるようになる。

販売の際には酒造店に酒税が掛かるが、販売しない長期熟成中の品には税が掛からないし、価値も時間と共に上がるため、1つの資産とも言える。

飲食店は酒造りの手間が省け、酒税の管理が無くなるので、良い方向に向かうだろう。

徴税部も酒税の低下は無くなり、管理が少なくなり、管理書類の精査作業も楽になるはずだ。

それに新たな酒造店と言うところから商税を徴収できるのだから、これもメリットとしては大きいはずだ。

それでも、徴税部が上申するなら、新たな税制改革として、酒税を分割する方法もあるだろう。

エール酒税、ウイスキー酒税。

大量消費されるエールは、今の酒税より安くする。

酒好きの人間が飲むウイスキーは、今の酒税より高くする。

これならば、文句も少なくなるし、何より徴税部の管理することが増えるのだから、敬遠してくれるかもしれない。


考えの纏まったロイは、いつもの様に市長宛てとしてではなく、子供から父親への意見具申として話すことを決め、屋敷への帰路に着く。


ロイは気付いていないが、既に開拓都市の商店街を20周歩いての帰路だった。

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