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18 モンスターの巣

イヌワシが仲間になって数日。

遂に完成した!

何が?巣がっ!

今までは馬車の床に草を敷き詰めていたが、あれから、巣からピョンピョンと馬車後方の淵まで移動し、飛び去って行くようになった。決まって枯れ枝や折ったであろう生木の枝も持ち帰るようになった。

それらを上手く水樽の上に、作られそうになったので、慌てて水樽とワイン樽の位置を変えた。

水樽が馬車の前方左横に1つ固定。反対の右横には手押し荷車を固定。手押し荷車には、その他食料を詰め込んだアイテムバックを置き、集めた動物の皮で隠している。

後方右横にワイン樽を1つ固定。後方左は寝床だ。真ん中はよく使う道具や武器などの雑多な物置スペースになっている。

休憩や野営の際には焚き木集めもしてくれるようになった。

生木は勘弁して欲しいのだが、まぁ、好意なのだろうから、仕方なく受け取る。

その集めた焚き木から巣に使えそうな物を拝借しているのは黙認している。

それらの甲斐もあっての巣が完成したのだ。

まぁ、何と言うか、ゴツゴツした硬そうな巣だ。壊れにくそうだし、ワイン樽に綺麗に固定されている感じがする。ここで器用に、しゃがみ、前のめりに体重預けて寝ている。

イヌワシは良きことに自分の食料は自分で獲ってくることが多い。

こちらとしても、観賞用に仲間に加えた訳では無いので、大いに助かっている。

戦闘でも役立ってくれることを祈るばかりだ。

「あれ?お前、濡れてない?」

僅かだが翼に水滴が付着している。

雨は、この旅以来一度も降っていない。

「どこかに水源があったのでしょうか」

「泥水じゃない感じだし、そうかもね。よし!水場に案内してくれ!」

イヌワシは両翼を広げる。

おいおい、完全に広げたら馬車の横幅並みだよ。

案内してくれるという意思表示だろうか。

イヌワシは飛び立って行った。

「じゃあバンくん、午後からは進路を変えて、イヌワシ追跡です!」

「進路も何も、もう南部地図の領域出てますよ」

そう、もう地図で描かれた最南端の場所はとうに通り過ぎている。

現在、本当の未開地域進行中である。

「夜になれば、方位が分かるから大丈夫大丈夫」

イヌワシは前方上空で旋回しており、接近すると旋回場所を変える。

明らかに誘導してくれている。

とりあえず、夜型人間は寝ることにする。


「痛っ?!何?!」

バンに叩き起こされる。

いつものことだ。

「敵?それとも到着?」

「両方です」

馬車を降りると、林に沿って停めてあった。

周囲を見ると、木が切り倒された痕がある。

イヌワシは上空を旋回している。

「あの下かぁ。でも何で、敵が居るって分かったの?」

バンが指さす。その先には、見るも無残なゴブリンがあった。

「戻ってくるのかと思ったら、いきなり前に落としたんですよ。だから、ちょっと移動しました」

ゴブリンの死因は落下衝撃によるものだろう。かなりエグイ絵面だ。

馬車で道具と武器を厳選してあまり使っていないアイテムバックに詰め、余計なものは置いていく。

バンは弓と短剣、矢筒を背負っている。

入口的方向からは入らず、そのまま小高い山を登る。

登り続け、木々を抜けると、小さな盆地のような地形になっている。

眼下にはゴブリンの集落が見えた。

木の柵で囲まれ、櫓まである。小屋も点在しており、広さ的には簡易砦だ。奥の山沿いに洞窟らしきものは見えず、それを隠すような小屋も見当たらない。

集落には池がある。

よって今目に見える範囲だけの集落だろう。

「どれ位いますかねぇ~」

「ゴブリンが1つの小屋で何匹暮らしているのか分かりませんが、人間でいうなれば、100人は住める広さですね」

「ゴブリンは人間より小さいから、それ以上を覚悟しなきゃね」

「矢筒、全部持ってくるべきでした!」

「あれ?逃げる選択肢は無し?」

てっきりバンはこの状況を見て、撤退を言うと思っていた。

「じゃあさ、バンくんは矢筒を回収してここに再度ここで陣取って。僕は集落の反対側のあそこらへんに潜むから合図したら、僕から遠ざける様にゴブリンを誘導してくれる?そしたら、火を掛けて回るから。後は適当に強そうだったり、指揮してるっぽいのを優先で。勿論、見付からないようにね?」

「分かりました」

行動開始である。

15分後には配置が完了した。

バンの挙手合図も見えた。

とりあえず、木の柵を焼いて斧でブチ壊そうかと思っていたが、予想を遥かに超える粗末な作りに、すり抜けて集落に潜入成功。

「ギャァァァ!」

ゴブリンの頭を射貫かず、胴体でも狙ったかな?反対側で騒ぎが起こり始める。

小屋の裏に隠れていたが、その騒ぎを確認しに、この小屋のゴブリンは出て行った様だ。

「ギャァァァ!」

追加の呼び寄せかな?

今の内に出て行った小屋の中を確認。

めぼしい物は無い!

次の隠れ場所を探して、柵と小屋の裏を走る。

「火起こし、火起こし、火起こし」

そのまま新たな隠れ場所に身を潜める。

バンに見えるように走ったつもりだが、念の為、隠れつつ手を上げる。

バンも手を上げ返す。よく見ると、バンはさっきの場所から移動している。場所を悟られないようにしているのだろう。

こちらもさっきの繰り返しだ。

小屋を物色して、めぼしい物をアイテムバックに放り込んでは次の小屋に。

ナイフも一応は貴重な物資として回収していく。

おっと、木箱発見。中身は、骨。いらん!気もするが、加工すれば何かに使えるかもしれないので、回収。

それからは手製の武器的なものを回収。残念ながら食料の類はまだ見付かっていない。

小屋のゴブリンはほぼすべて出ているだろう。

燃え盛る小屋を呆然と見上げるゴブリン達。

「ふふ、ただの付け火では無いのだよ」

火起こしのスキルはしょぼいが、集めた材料を的確に組み上げ、焚火にする。

あれだけの粗末な小屋なら、そりゃあ大焚火になるだろう。

多分、人間が造ったちゃんとした家なら、あんなに燃え上がらないだろう。

ゴブリンの中途半端な知能に感謝である。

次の隠れ場所を探して、周囲を警戒。気付かれない様に裏道を縫うように走りつつ、再びの、

「火起こし、火起こし、火起こし、火起こし、火起こし、火起こし」

隠れ場所に走りこむ。

まだ、今の火起こしには気付いていないのは好都合だ。

そのまま炎上崩落ショーを観てくれたまえ。

注意も逸れていることだし、物色再開だ。

無い。

無い。

鍋か、一応回収。

無い。

錆びてるけど長剣発見!回収。

無い。

「何だよ、ことごとく大した物が無いなぁ」

それにしてもバンが弓を射っていない。

ホブゴブリンとか複数、居てもおかしくない規模の集落なのだが。

火起こし前にゴブリン観察。

「あ、襲撃だと思って武器を持ち出してるのか!なんか変な鎧も着てるし!」

つまり、回収には討伐しなければいけない、と言うことか。

もうそろそろ、最初に火起こしした小屋が崩れ落ちる。火が収まれば、次の隠れ場所になる。

もうしばし待機する。

ゴブリンの注目は、只今絶賛炎上中のこの集落一番の小屋並び群だ。

「あ、崩落した。崩落で巻き上がった煙で火も弱まったな」

崩落の瞬間はゴブリン達も最初の元小屋を見たが、しばらくすると絶賛炎上中の方へと視線を戻す。

「今だな」

裏道を戻り、走り抜けるルートを再確認。

「最後だな。よしっ!火起こし、火起こし、火起こし」

そのままゴブリンの背後を走り抜け、崩落現場へと滑り込む。

「ふぅ。熱いけど、耐えられない程じゃないな」

ここでもしばらく待機。

バンは煙で視界が妨げられない様に移動している様だ。

最後の小屋区画が炎上し始める。

それに気付いたゴブリン達は騒ぎ始めた。

「え?今更?」

とりあえず、一番近いゴブリンの状態を鑑定してみる。

「動揺」だった。

「遅いよ!」

集落には池がある。ゴブリンには消火活動と言う概念が無いのか?

まぁ、ゴブリンの知能考察は止めて、問題は鎮火後のゴブリンの処理だ。

数にして150位はいるだろう。

戦力としてはバンの弓と、僕の長剣と短剣。あと、戦利品のアイテムバック。とりあえず、槍を出しておく。

バンの弓は頼りになるけど、矢の数がなぁ。

無駄射ちはしないだろうけど、数も数だし。

あれ?結構な負担?

「ん?あっ?!」

群衆ゴブリンの後方で立ち尽くすゴブリンが消えた。

いや、イヌワシが掻っ攫った。

攻撃頻度は少ないが、飛行戦力もあるみたいだ。

他のゴブリン達は気付いていない。

掻っ攫われたゴブリンは、盆地の入口周辺で投下された。

まずは1匹。

こんな感じで気付かれずに掻っ攫って欲しいものだ。


狩りを理解している。

もう10匹のゴブリンを掻っ攫っている。

あ、11匹目行った。

盆地の入口周辺には原型を留めない、元ゴブリンの死体多数。

しかも死体の上には落とさず、ちゃんと地面に投下している。

確実な死を狙っている。

バンも同様にイヌワシの行動を目で追っている。

でも、最後の炎上小屋も崩落寸前である。

掻っ攫い攻撃はそろそろ限界かも知れない。

「グギャァァァ!」

突如としてホブゴブリン3匹が長剣を振り回しながら、下火になりつつある集落一番の元小屋並び群から飛び出して来た。

「あれ?隠れる場所無かったはずなんだけどなぁ。でも何で今出て来たのかな?」

ホブゴブリンの様に見えるが、左端のホブゴブリンは少し大きい気がする。遠いからよく分からないが、手にしている武器で、ホブゴブリンよりも上位種であることが分かった。

大剣バスターソードを引きずっている。

「あんなもん、どこで手に入れたんだ?」

最後の炎上小屋が崩落した。ゴブリン達の視線はホブゴブリン達に向いた。

これでは掻っ攫いは無理だな。

ホブゴブリン2匹とそれの更に上位種の追加。

益々状況は悪くなった。

「あ、おいおい、やめとけよ」

イヌワシが高度を下げている。

孤立したゴブリンはいない。

気付かれずに掻っ攫うのは無理だ。

「あ、やりやがった」

イヌワシはゴブリンを掻っ攫い、上空へ舞い上がっていく。

ゴブリン達の目線が上に向いてる隙にホブゴブリンを狙えるか?いや、距離もあるし、ホブゴブリンは他にもいる。カバーに入られたら無理だ。

悩みつつ、空を見ると、イヌワシがゴブリンを掴んだまま旋回している。

まさか、ゴブリンの上に投下する気か?避けられるだろ。

イヌワシの動きを予想していると、予想外の行動に出た。

イヌワシは斜めに急降下し始めたのだ。

「え?!仲間として玉砕覚悟は止めて欲しいんだけど!!」

イヌワシは急降下を続け、速度を上げる。

そして地面近くでゴブリンを投下した。

斜めに急降下していたからか、投下されたゴブリンは、ゴブリンの群衆に突っ込んだ。

3,4匹に直撃し、吹き飛ばされ、その吹き飛ばしの余波で他のゴブリンも転倒して軽負傷している様に見える。

上空に戻ったイヌワシを見ると、また旋回していた。

しかも、イヌワシは別のゴブリンを掴んでいる。

「投下して、他のゴブリンを掻っ攫ったのか……」

もしかしてこれを繰り返すのではないか。

繰り返していた。

散り散りになるゴブリンも、もう隠れる小屋は消失している。

イヌワシはその中でも多めに群れている場所に的確に投下し、次の投下物ゴブリンを回収している。

ホブゴブリン達も散開して迎撃しようと長剣を振るが、イヌワシはその周辺を狙わない。

「頭良すぎない?」

バンを見ると、弓を構えてすらいない。

ゴブリンの死傷は少ないが、大負傷多数、中負傷多数、軽負傷多数。

イヌワシの持久の限り、戦力を削いで貰いたいところだ。


20分隠れました。

イヌワシ戦果:死傷少数、大負傷大多数、中負傷多数、軽負傷少数。

ゴブリンはほぼ立っていない。

立っていない、ではなく、立てないでいる。

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