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1 開拓都市の現状

大陸の外れにある連合にも属さないスイール王国。

いや、属さないのではない。

属せない、と言う方が正しいだろう。

何故か?

連合加盟金も払えなければ、これと言った資源や産業がある訳でも無いからだ。

そして何より、スイール王国は、この大陸の端にある魔境に隣接しているから、連合からはモンスターの襲来に備えて、緩衝地帯として留め置かれているのだ。

そんなスイール王国でも、魔境隣接領、ダング地方領には開拓都市が点在している。

開拓都市、と言えば聞こえは良いが、その実態は魔境からの防衛陣地構築を主体とした前線都市だ。

その前線都市も更に魔境に近い場所に砦を構築している。

森を切り開き、突撃防護柵を幾つも立て、空堀を何重も作り、トーチカや、矢掛け塔を建て、接近戦に対応できるように耕作地域を作り、最後に城壁を作る。

城壁上には投石器や数は少ないが、バリスタなどが設置されている。

弓兵を配置し、非常時には魔法使いが配備される。

魔法使いと言っても勿論、低位の魔法使いだ。

中位や高位の魔法使いは、才能を自覚した瞬間に家族総出で国を出ているのが、現状だ。

開拓都市の常備兵だけではない。

冒険者、もしくは探索者と呼ばれる者たちもここには集まっている。

それらの存在は、大陸共通のどの国家にも中立的に立ち振る舞う冒険者ギルドに所属し、モンスターを狩って、その素材を売り、生計を立てている。

冒険者ギルドは素材を買い取り、解体し、開拓都市で販売し、その都市の支部運営費に充てている。

冒険者支援互助が目的なので、各国が税を取ることは出来ないのが、ポイントだ。


では、モンスターの襲撃には冒険者に防衛を頼めばいいじゃないか。

確かにそうすることも出来るが、それには問題もある。

冒険者にモンスター襲来の防衛に依頼を出すには、当然報酬が必要となる。

しかも討伐したモンスターの素材は、討伐した冒険者に所有権がある。

常備兵は防御陣形を崩さない。

一気呵成に突撃していく冒険者は負傷もすれば、最悪死ぬ者もいる。

死んだ者には成功報酬は払わなくても済むが、前金として半額支払わなければならないのだ。

負傷すれば、開拓都市内の医者や薬師に掛かることになる。そうなれば医者や薬師は儲かる。

しかし、治療に必要なポーションは有限だ。

ポーションの原料となる薬草の類は普通の畑では育てられないのも大きい。

故に医者や薬師は冒険者に必要な各種薬草の採取を依頼する。

当然、それには報酬を払わなければならない。

儲けは直ぐに減ることになるのだ。

それに医者や薬師は冒険者や探索者相手に仕事をしている訳ではない。

開拓都市の住人の掛かりつけ医としての役割もあるのだ。

儲けは更に減ることになるのだ。


怪我や病気の対応は何も医者と薬師の専売特許ではない。

この大陸には女神を信仰する宗教教会がある。

心の拠り所としての信仰を広める、と言う名の元に、教会に属する聖職者は回復魔法が使えるのだ。

低級回復魔法ヒール。低級治癒魔法キュア。

聖職者の階位によって使える魔法は異なるが、スイール王国には、王都以外で中級魔法を使える聖職者は派遣されていない。

殆どが低位の聖職者なのだ。

寄付が無いと、回復魔法は施されない。

医者や薬師はポーションを消費する。

回復魔法には術者、聖職者の魔力を消費する。

低位とは言え、教会の尊厳の為、寄付は安くないのだ。

それでも教会に寄付し、回復魔法を受ける者は少なくない。

怪我は時間は掛かっても医者や薬師に頼れば治る。

命に関わる怪我は回復魔法でなければ間に合わないことも多くある。

病気も同様だ。

更に言えば、病気に関しては治癒魔法でなければ治せない、もしくは進行を遅らせることが出来るのが、聖職者の存在なのだ。

教会の存在は回復魔法だけではない。

『祝福』と呼ばれる聖職者固有スキルによる、未発達な心身の状態を分析し、対象の職業を発現させることだ。

これは、大陸共通で教会は無料で、成人となる15歳でに施している。

これにより、多くの若者が未来の道を決めるのだ。

その前段階として、『分析』と呼ばれる聖職者固有スキルによる、適性を発現させることだ。

これも、大陸共通で教会は無料で、10歳で施している。

適性によって、5年後の職業スキル発現に向けて、子供たちはそれぞれ努力するのだ。

この『祝福』と『分析』が施されることが、教会の地位を盤石化させる要因の一つとなっている。

また、成人後の自分の状態を知るために、教会を訪れる大人も少なくない。

それは、聖職者固有スキル『確認』だ。

これにより設定されている職業や、他に発現した職業や上位職業も、通常スキル、身体ステータスの確認が出来るのだ。

望むなら、『転職』も出来る。

これらも無料なことから、教会を軽んじる者は殆どいない。

そんな理由もあり、教会は国家から寄付収入の税が免除されている。


では開拓都市の衣食住はどうか。

都市の衣類は、殆どが中古品で出回っている。

継ぎ接ぎだらけの商品が当たり前の様に並んでいる。

衣服屋は反物を仕入れることはない。

中古として買い取った服を、状態の悪い物を素材として使える部分を、状態がマシな物に補修として縫い付ける。

買取価格に加工賃を上乗せする程度。

設備や備品などを考えると、儲けはそんなに無いのだ。


冒険者向けの防具屋は、冒険者自身が狩ってくる素材を持込み、防具へと加工される。

防具屋に入るのは加工賃と少しの材料費だけだ。

武器屋も同じく、素材の持込みで加工賃を得ている。

スイール王国には鉱山が無い。

故に鉱物は輸入している。

かなり無理をして輸入している。

防具屋や武器屋、総じて鍛冶屋と呼ばれる所は、その輸入物を加工し、販売している。

当然、素材が高いのだから、販売価格も高い。

普通の冒険者はそれを買うことは殆どない。

自身の防具武器の欠損を修繕するために、材料費を払う程度だ。

設備や備品、在庫などを考えると、やはり儲けはそんなに無いのだ。


食事処とされる飲食店は、基本的に城壁外にある耕作地域の管理を開拓都市から委任された農家から仕入れている。

野菜の類はそれで良いかもしれないが、肉や魚の類となってくると話は違ってくる。

スイール王国には川が殆ど存在しない。

殆どと言うのは、魔境に川が一応流れているからだ。

だがそこで漁を行うことなど冒険者や探索者以外に出来るものはいない。

南部の国境沿いの一部は海に面しているが、断崖絶壁であるため、漁どころか、海路を繋ぐことも出来ないのだ。

故にスイール王国に魚を食べる文化は基本的に無いのだ。

少数だが、狩人飲食店と呼ばれる店は、主人が魔境でモンスターを狩って提供している。

その少数の大多数は、引退した元常備兵の弓兵だ。

勿論、冒険者たちによる持込み肉素材による提供もしているが、それもやはり、食材費を抜いた価格で提供することになる。

開拓都市では、一般市民が肉を口にすることは殆どない。

常備兵が狩った素材が、親戚に回るのは稀にあるらしいが。

少ない儲けに、数少ない儲け口は、酒を造ることだ。

穀物を作る農家から仕入れ、酒を仕込み、寝かせる。

しかしそれも開拓都市の貴重な収入、酒税として徴収されるのだ。

ここも儲けはそんなに無いのだ。


宿屋。

冒険者は何泊か掛けて出掛けることもある。

いや、そうしないと宿屋が埋まるから、仕方なく遠征と言う名の野営をしている部分もある。

宿屋は殆どが満室だ。

個室、大部屋、様々な種類があるが、基本的にトイレは各階共有だ。

風呂?そんなものは存在しない。

井戸で水を汲み上げ、浴びる者が殆どだ。

当然それは一般市民も同様だ。

夏は良いが、冬になれば当然、それも出来ない。

他の季節も井戸水は冷たいから出来ない。

宿屋は連泊を歓迎しているが、冒険者達の暗黙のルールと言うものが存在する。

『7連泊してはならない』

宿屋は連泊の間は部屋の掃除をしない。

しかし、連泊明けの部屋は掃除しなければ評判が落ちる。

それでも満室にはなるが、価格を下げなければ、部屋を荒らされるのだ。

部屋は基本的に窓1つ、廊下の扉を開けても、向かい側の部屋の窓が開いていなければ換気はそんなに出来ない。

夏は汗で汚れ、冬は風呂に入らないと言う環境から、臭くなった、ベッドパッドとシーツの洗濯は重労働だ。

それでも宿によっては、湯桶を売っているところもある。

湯桶で身体を拭いてもらい、快適に過ごして貰いつつ、ベッドの汚れを減らす狙いがある。

が、湯桶は安いのだが、冒険者はあまり利用しない。

利用するのはもっぱら女性冒険者だ。


衣食住、揃ってはいるが、それを提供する側は、そんなに儲かっていない。

提供する側の一般市民の生活が潤うことは無いのだ。


これはいけない。

由々しき事態だ。

早急に改善せねばならない。

問題は山積している。


こんなことを思案しているのは、

ロイ・ミラード、5歳。

開拓都市長のミラード男爵の三男である。

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