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【25:15】僕と少女と白い機械

わぁ……



「あー……トゥインクル・トゥインクル……恥っずいな!」


()()に向かってステッキを振った少女は、耳の下をカリカリと搔いて顔を背けた。キラキラとした粒子が降り注いで、化け物が消えていく。


どうせ()()()()()()が起きるのなら、映画のように熱い戦闘シーンでも見たかったなんて、現実逃避の感想。リュックのベルトをぎゅっと握って、少女を見つめる。


「もう、最悪!感傷にくらい浸らせてよ。ちょっと、スクラップ!記憶消去!」


『ぷっぷ。ボクはスクラップじゃないぷ。()()()だぷ』


「ぷっぷぷっぷ煩いのよ!クラクションかなんか?!早くそのおじさん、どっかやって!アンタの仕事でしょ」


正八面体の真っ白な物体が現れた。青のランプを点滅させながらノイズ交じりの機械音声で喋る何か。こういうのって、可愛いマスコットとかじゃないのか。


非現実。雑な化け物退治から始まり、記憶消去の判断までが早い。


ふよふよと寄ってくるププゥという何か。まぁ、別にいいかと思う。何もない一般人は、こういうことに関わるべきではない。忘れさせてくれるというなら、忘れさせてくれ。


どうせファンタジーなら、チート能力を持って異世界無双がしたいんだ。冴えないおじさんがやる気のない魔法少女を見守るなんてファンタジー、僕どころか誰も望まない。



『ぷっぷ……ねぇトゥインクル・スマイル、この人に聞いてみないっぷか?』


「その!名前で!呼ばないで!」


『アザミちゃん、もう時間がないっぷ』


あるかもしれない衝撃に身を固めていれば、少女のほうに(おそらく)振り返った正八面体。心なしか悲しそうな音声。


「もう遅い。どうでもいい。あと4時間くらいでしょ。無理よ、そんなおじさんじゃ」


『違うっぷ。契約の時に誕生日とは伝えたけど、厳密には生まれた瞬間っぷ。アザミちゃんは25日の21時32分に生まれたっぷ』


「……そういうことは!もっと!早く言うの!このポンコツスクラップ!」


置いていかれる会話。僕の存在は忘れられ、正八面体を両手でぎゅうぎゅうと握る女の子。話が見えないが、帰っていいのだろうか。


少女と目が合う。綺麗なスカイブルー。カラーコンタクトというやつだろうか。現実的ではない存在みたいだし、そういう色の生き物なんだろうか。


気まずそうに顔を顰めた少女は「あー……今日も街の平和を守ったよ」と恥ずかしそうに言った。何かのキーワードだったのだろう。眩い閃光に思わず目を瞑る。


光が収まり目を開ければ()()()()()()がいた。


柔らかそうな黒髪のショートカット。二重幅の広い真っ黒な瞳。バシバシとした睫毛。艶々の唇。白く輝く肌。先ほどとは種類の違う、キラキラの生き物。


近くの賢い学校の制服だと気づいた。真っ白な半袖のセーラー服。高校生が外出していいのって何時までだったか。


「……何か言えよ」


「えっ、あっ……ありがとう、ございます……?」


ふんと顔を背けた少女は、正八面体を握ったまま近づいてくる。


「ほら、ププゥ。やって」


『アザミちゃん、諦めないでほしいっぷ。ボクも手伝うから』


「ムリ。あんたが連れてきた、アイドルでも俳優でもスポーツ選手でも無理だったの!」


『それは向こうに心が伴ってなかったからっぷ!こういうおじさんは、アザミちゃんみたいな可愛いJKが好きだっぷ!顔で無理なら運命を信じるっぷ!このおじさんがボクのジャミングを越えてきたのは運命っぷ!』


「わたしの!運命の相手を!勝手に!おっさんにするな!」


目の前で揉める、1人と1体。おじさんおじさん言われると、少し傷つくんだなぁと自覚した。そりゃあ女子高生からしたらおじさんで当たり前なんだけど。


「あの……帰っていいですか?明日も仕事なので」


「はぁ?!助けてもらっといてソレ?!何も気にならないの?!」


「いや……お忙しそうなので」


助けてもらったとは言うが、実際に命の危険がなかったので実感はない。襲われていたわけでもないし、気付いた時には彼女はもう居たわけだし。化け物は少しも動くことなく消えたので、恐怖も殆どなかった。


「困ってる女の子を見て、助けてあげようとか思わないの?ちょっとおかしいんじゃないの?」


「その……事情は知らないけど、君は諦めているんでしょう?諦めている人間が、会ったばかりの他人の助言とか聞くとは思えないので。君、賢そうだし」


何か驚いたのか、黙ってしまった彼女に「助けて頂いてありがとうございました」と会釈をして立ち去る。記憶は消してもらいたかったが、この際仕方ない。一体なんだったんだろうか。


「ちょっと」


「……はい」


「付き合ってよ」


「……はい?」


呼び止められて振り向けば、気まずそうな顔。機械に『アザミちゃん』と後押しされて、真っすぐ目を見つめられる。


「私が死ぬまでの、暇つぶし」


「……自殺とかは、よくないと思いますよ」


まだ若いんだし、と続ければ違うと怒鳴られた。若い子と話す機会なんてないから知らないが、最近の子はこんなに怒りっぽいのか。


何か言いたそうにする少女に、付き合わなければ終わらないと判断した。


「アイスくらいなら奢りますけど、それでいいですか?」


「……うん」


「そこの裏の公園で待っていてください」


素直に分かったと言って歩き出す少女。横にはふよふよと浮く、白い機械。なんだかなぁ、と思う。


先ほどのコンビニに逆戻りしてアイスを買う。文句を言われるのも嫌だし、一応助けられたので一番高いもの。チョコといちごを買って選んでもらうことにした。いちごとか好きだろ女の子は。


死ぬって、なんなんだろう。ただのおじさんに、人生のアドバイスなんて求めないでほしい。


公園までの道のりが、遠く感じた。


わぁ!

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