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童話

くりちゃんのおしり

作者: 碧衣 奈美

 お空には、まん丸なお月様が浮かんでいます。

 くりちゃんは、となりにいるちいちゃんがぐっすり眠っているのを見て、

 ベッドからそっと抜け出しました。


 くりちゃんは、くまさんのぬいぐるみです。

 大きさは、三才になったちいちゃんの顔を二つ、たてに並べたくらい。

 ちいちゃんのおばあちゃんが、おもちゃ屋さんで買ってくれました。

 くりちゃんの毛がちいちゃんの好きなクリに似ていたので、

 ちいちゃんはそのくまさんを「くりちゃん」という名前にしたのです。

 くりちゃんのことが大好きなちいちゃんは、いつもくりちゃんと一緒にいます。


 くりちゃんはぬいぐるみなので、いつもは動けません。

 でも、お空にまん丸なお月様が浮かぶ時だけ、動けるのです。

 くりちゃんだけではありません。

 ちいちゃんの持っているおもちゃはみんな、

 この夜だけはくりちゃんのように動けるのです。


 動けるようになったおもちゃ達は、

 いつもはできないおしゃべりをしたり、おにごっこやかくれんぼをしたり。

 とても楽しい時間をすごすのです。


 今夜もみんな、楽しくあそんでいます。

 どれくらい時間がたった頃でしょう。

 うまのぬいぐるみのパッパカが、おもちゃ箱の中から

 なわとびを見つけました。

 ちいちゃんには小学六年生のお姉ちゃんがいて、

 学校でなわとびをがんばっています。

 お姉ちゃんが新しいなわとびを買ってもらった時、

 ちいちゃんも買ってもらいました。

 パッパカが見付けたのは、そのなわとびです。


「みんなでつな引きをしようよ」


 パッパカがみんなをさそい、おもちゃ達はやる! と言いました。

 なわとびをまっすぐに伸ばし、

 みんなは好きな方へ行ってなわとびを持ちました。

 すいかのぬいぐるみのスーは、手も口もないのでなわとびを持てません。

 だから、まんなかへ来てひっぱる合図をすることにします。


「せーの」

 スーの声に合わせ、おもちゃ達がなわとびをひっぱります。

「うーん」

 くりちゃんも、がんばってひっぱりました。


  ぶちっ


 おかしな音がして、みんなが止まります。

 くりちゃんも止まりました。

 今の音は、ものすごーく近くで聞こえた気がします。


「あっ、くりちゃん。おしりが」


 くりちゃんの後ろにいた、ねこのぬいぐるみのニコが大きな声を出しました。

 みんながくりちゃんの周りに集まり、くりちゃんのおしりを見ると

 くりちゃんのまぁるいしっぽの少し下のぬい目が破れています。

 力をこめすぎて、糸が切れてしまったのです。


「たいへんだ。どうしよう」

 くりちゃんはもちろん、おもちゃ達もあわてます。

 だれもくりちゃんのおしりを元にもどせません。

「このままだと、ちいちゃんにきらわれて、すてられちゃう」

 くりちゃんはおろおろしますが、糸は切れたまま。

 しかも、お月様はお空のむこうへ帰ってしまい、

 もうすぐお日様が顔を出す時間です。


 おもちゃ達はどうすることもできず、なわとびや出したものをかたづけ、

 おもちゃ箱へ帰るしかありませんでした。

 くりちゃんはとぼとぼと、ちいちゃんが眠るベッドへむかいました。


「おしりがやぶれたぬいぐるみなんて、ちいちゃんはいやだよね」

 くりちゃんは悲しくなりましたが、破れたおしりは直せません。

 ベッドに入り、ちいちゃんのにおいを少しでもおぼえていられるよう、

 くりちゃんは自分のはなをちいちゃんのほっぺにくっつけました。


「あっ、くりちゃんのおしりが」

 朝になって、ちいちゃんはくりちゃんのおしりが破れているのを見つけました。

「おかーしゃーん」

 すてられちゃう、と思ったくりちゃんでしたが、

 ちいちゃんはくりちゃんを抱きしめ、お母さんの所へ行きました。

「ちいちゃんがぎゅーってしたから、くりちゃんのおしりがやぶれたの」


 え? そうじゃないのに……。


 ちいちゃんは、自分が眠っている時にくりちゃんをぎゅーっとしすぎたから、

 おしりが破れたと思ったのです。

「あらあら、糸が切れたのね」

「じゃあ、あたしがぬってあげる」

 ちいちゃんのお姉ちゃんが言いました。

「くりちゃん、なおる?」

「うん、なおるよ」

 学校がお休みだったお姉ちゃんは、すぐにさいほう道具を出してきました。


「あ、茶色の糸がないなぁ。今は白い糸でぬって、あとでぬい直せばいいかな」

 お姉ちゃんはそう言いましたが、

 ちいちゃんは「しろいのでいい」と言いました。

「だけど、ぬった所がわかっちゃうよ」

「いいの。はやくなおしてあげないと、くりちゃんがいたいの。

 またチクチクしたら、くりちゃんがいたいの」

 ちいちゃんは、何回もおしりをぬって

 くりちゃんが痛い思いをするのがいやだったのです。

 お姉ちゃんは白い糸を使って、くりちゃんのおしりをぬってくれました。

 ちょっぴりぬい目がそろっていませんが、

 くりちゃんには見えないからいいのです。

 くりちゃんは、またちいちゃんと一緒にいられることの方がずっといいのです。


 お月様、はやくまんまるにならないかな。


 次にお月様がまん丸になったら、くりちゃんはおもちゃ達に

 このおしりを見せるつもりです。

 おしりが直ったから、またちいちゃんと一緒にいられるんだよって

 みんなに教えてあげるために。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「冬童話2023」から拝読させていただきました。 良かったです。 ぬいぐるみを大事にするちいちゃんはいい子に育ちそうですね。
[良い点] 石河 翠様の「勝手に冬童話大賞」から参りました。 満月の夜に、ぬいぐるみのくりちゃんをはじめ、おもちゃたちがみんな動けるようになって、遊ぶ様子が楽しそうでした。 おしりが破けてしまってちい…
[良い点] ぶじに縫ってもらえてよかったですね。 ぶちっの音は縄跳びが切れたのかと思いました。(汗)
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