君
朝の陽光が差し込み、木製の窓枠が部屋の中に檻を投射する。
随分と久しぶりに扉にあしらわれたこの装飾を見た気がする。そうだ。あの人がいつ来てもいいようにといつからか扉は開いたままだった。もう部屋に入ることはないのだろう。「これでいいの、大丈夫。」
彼女を初めて見たときは、今にも燃え尽きるマッチの火をみているようだった。橙に照らされたその儚げな横顔に、私は憧憬と懐かしさを感じたような気がした。
その頃私は、夜の街を徘徊することがお気に入りだった。なんとも恥ずかしい話なのだが、家々の窓から零れる温かい光を眺めながら、将来を夢想するのだ。私は彼らのように笑い声が絶えない幸せな家庭を築けるのだろうかと。
その日はとびきり冷えた風が私を吹き付ける夜だった。はっと夢想から現実へと引き戻され、星がよく見える乾いた空を潤んだ瞳で見上げる。オリオン座が見えるな。まあほかに星座は知らないのだけれど。