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僕を死刑に処す  作者: 夕藤さわな
第四章
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第三十話「それじゃあ、父さん。さようなら」

 来たとき同様、高速バスで東京駅まで帰るつもりだった。だから、藤枝家お抱えの運転手さんに車で最寄り駅まで送ってもらった。

 ミコトもいっしょに来るだろうと当然のように思っていた。だから、車の中でも、車を降りてからも、俺はミコトの方を見ようともせずに黙り込んでいた。

 まだ混乱と怒りで考えがまとまっていない。高速バスの中で頭を整理して、落ち着いてから文句を言ってやろうと思っていた。黙り込んで、怒っているのだとアピールして、ミコトを不安がらせてやろうという子供染みた考えもあったと思う。

 なのに――。


「僕の目的は果たせました。あとは元の時代に戻って死ぬか、そのうちに消えるかを待つだけです。それまでは、あちこち美味しい物を食べてまわろうと思っています。父さんとはここでお別れです」


 高速バス代を払おうと出した財布を取り上げて、ミコトはいつも通りの無表情で俺を見上げた。お札を抜き取って、ぽかんとしている俺の手に空の財布を返して――。


「秋穂からもらったお給料には僕が働いた分も含まれているはずです。だから、これはもらっていきます」


 ミコトがひらひらと振ってみせたのは高速バス代にと入れておいた三万数千円。ミコトが働いた分と言うのなら、秋穂さんから受け取った茶封筒の中身を二等分しないといけない。全然、足りない金額だ。


「おい、待っ……!」


「それじゃあ、父さん。さようなら」


 でも、俺が止めるのも聞かず。白いショートボブの髪を揺らして俺に背中を向けると、ミコトは小走りに人混みに消えてしまった。


「僕が生まれなければ、父さんの未来も変わるはずです。元気で長生きしてください」


 そんな言葉を残して、細くて小さな白猫はあっという間に俺の前からいなくなってしまった。

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