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かくれんぼ  9

「ありさが言う通り、私はその日ずっとありさと、それから途中から他の子たちと一緒だったもの、あなたとなんて過ごしてないわ! というか、会ったこともない! そんな記憶ない!」

「いやだなあ!」


 「こうたり」は本心から驚いたという顔になる。


「僕もずっと一緒にいたじゃないか」

「嘘よ!」

「嘘じゃないって」

「あなたなんかいなかったわ!」

「そうよ、私も知らないわ。あんたなんかいなかった!」


 ありさも一緒に言ってくれるが、「こうたり」は不愉快そうに眉を寄せる。 

 こんな何の特徴もないような顔でも、少し眉を寄せるだけで不愉快に見えるのが不思議だ、私は頭の奥でそう思っていた。


「あの日、入学式の後、第3校舎の2階の3号教室、あるよね、あの階段教室。あそこでオリエンテーションがあったよね?」


 「こうたり」の言う通りだった。

 あの教室は学校内でもかなり大きな教室で、同学部の学生を全部集める時などによく使われる。


「まず僕たちの出会いだけど、僕は君の後の席に座ってたよ。思い出した?」

「え?」


 言われて考えるが思い出せない。


「君と、君の右手にありさが座ってたよね、覚えてる?」


 ありさはどっちに座っていただろう?

 思い出してみる。


「うん、右だった私」

 

 ありさの方が先に思い出したようだ。


「あんたがさ、なんか消すのに消しゴム取ろうとして右手伸ばして、そんで消しゴムこっちに飛ばしたじゃない」


 そうだった。

 慌てて消しゴムを取ろうとしたら、それをナイスキャッチしてくれたありさが渡してくれて、それで話をするようになったのが仲良くなったきっかけだった。


「そうだった」

「だろ?」


 「こうたり」が満足そうに言う。


「それで、僕がどこに座ってたかも思い出せた?」


 そう言われても、存在さえ知らなかった人間がどこにいたかなど、思い出せるはずもない。


「覚えてない、いえ、知らないわ」


 きっぱりとそう言う。

 下手に「覚えてない」などと言おうものならあとが怖い、なんとなくそんな気がした。


「しょうがないなあ」


 「こうたり」はいたずらをした子猫を許してあげる、そんな目つきでこっちを見る。


 やめて!

 あんたなんかにそんな目で見られる覚えはない!


「君は僕の前に座ってた。ありさと楽しそうに話をしてた。何を話してたかは聞き耳を立ててたわけじゃないから全部は覚えてないけど、それでも少し聞こえてくる話は耳に入った。君は、地方から出てきてまだ友達がいないこと、ありさが着ているグレーのスーツがよく似合っていること、なんかを言ってた」


 「こうたり」は子供に言って聞かせるように、ゆっくりと話し始めた。

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