かくれんぼ 5
「まあね、そういうことなので、学校側としては今のところどうこうするつもりはありません。まずは身辺をよく調べて、心当たりを見てみて、それからもう一度いらっしゃい」
しらかわ女史は満足そうにそう言うと、態度で私たちに退室を促している。
「分かりました……」
仕方がない。
言われているように、同じ大学の学生だと限ったものではない、それは認めないわけにはいかない。
「失礼します。いこ……」
ありさはポンと私の肩に手を当てた。
「うん……失礼します」
仕方なく私も立ち上がった、その時、
「あ!」
ありさがいきなり大きな声を出した。
「なんですか、驚くでしょう」
しらかわ女史が咎めるようにありさを見る。
「あの、あれ、あれあれ……」
指差す方を見て私も、
「あ!」
そう言って凍りつく。
「なんです、2人揃って」
「あの!」
ありさが壁に貼ってある1枚の写真を指差した。
「これがどうかしましたか?」
女史の黒縁メガネがキラリと窓の外からの夏の光を受けた。
「あ、あの写真」
「これが何か?」
壁にあったのは今年の入学式の時の写真だ。
トップ合格した学生が壇上で誓いの言葉を述べている場面が切り取られていた。
「こ、この人……」
「今年のトップ合格者がどうかしましたか?」
「こ、こ、こ、この人です!」
「え?」
ありさに言われて初めて気がついた。
入学式の日にそんな挨拶をした人間のことなど、私は全く覚えていない。
ましてや、全く特徴もなく見るからに凡庸で、影の薄い人間ならば特に。
「ええ、え?」
しらかわ女史が写真と私たちを見比べる。
「確かですか?」
「間違いありません」
「はい」
「本当ですか?」
「本当です!」
ありさが焦れたように声を大きくする。
「ええと、今年のトップ合格者は……」
しらかわ女史が急いで書類棚に行き、ガラス戸の鍵を開けて中の資料を急いで繰る。
「この人ですか?」
1枚の証明写真が目に入る。
マスクのない顔は初めて見たが、上半分は確かにこれだ。
それになにより……
「間違いありません」
「はい、この人です」
2人で断言する。
「本当ですか?」
「はい」
「はい」
「あの、言ってはなんですが」
しらかわ女史が言葉に気をつけながら続ける。
「その、なんと言っていいのか、これと言って特徴のない方よね? 似たような方はたくさんいらっしゃるのではないかしら?」
なんとかして私たちの思い込み、学校は関係ないと言いたいのだろう。
「いえ、言い切れます」
「どうしてですか?」
「服です」
「服?」
「はい」
ありさがきっぱりと言う。
「この写真と全く同じ柄の服を着てました」