かくれんぼ 19
「あの」
さっき、あれほど爆発したありさがゆっくりと、気をつかうように聞く。
「もしかして、初めてじゃないんですか?」
「え?」
驚いてありさを振り向く。
「だってこの人、さっきはちょっとあんな風に言ったけど、全然疑ってないもん、私らのこと」
「え?」
「普通さ、自分の息子がストーカーだって言われたら、もっとそんなはずないとか言いそうなもんじゃない?」
「…………」
たしかにそうだ。
「そうなんですか?」
恐る恐る聞くと、
「いいえ、ですが、はい……」
そんな返事をする。
「あの、どういう……」
「女性は初めてなんです」
老婦人はゆっくりと顔を上げる。
「それまではお友達とか、先生とか、他にも色々気に入ったお店の店員さんとか。みんなすごく自分と仲良くしてくれる。そう言ってしばらくするとみなさん迷惑だとおっしゃって」
「やっぱり……」
ありさが、さもありなんという顔で頷く。
「しばらくすると落ち着くんです、それか新しい興味ができたら」
「それであんなにすんなり認めたんですね」
「はい」
正直に認める。
「ですが、女の子のことをそう言ったことは今までなかったもので、もしかしたら、こんないいお嬢さんなら、もしかして、と」
しおしおと頭を下げる。
「本当に申し訳ありませんでした、おっしゃっていたことはできるだけさせていただきます。そしてあの子もイギリスにいるあの子の叔父に、亡くなった主人の弟に預けようと思います」
「イギリスですか」
副理事長が驚いた顔で言う。
「はい」
「ちょうどいい、あの例のやつですが」
副理事長が喜んで話を続けるところによると、イギリスの名門校との交流で交換留学生をという話になり、それに「こうたり」の名前が上がっていたのだそうだ。
「え、そんなのにストーカーを!」
ありさが気持ち悪そうに言う。
「だが、君たちだって彼がイギリスに行ってくれた方が安心だろう?」
「いや、それはそうですが」
そりゃそうだが、国外追放ではなくそんな晴れがましい立場で行くなんて、なんとなく納得できない。
「彼のような、ちょっと他の人と違うような学生はいっそ海外に行った方がいいかも知れないな」
副理事長は一人でうんうんと納得する。
「君たちもその方が安心だ、うん」
そうして、大人の事情で「こうたり」はイギリスに行くことになった。
大学の代表として。
たった数日の恐怖、それぐらいでは大人の世界は変わらない。
それが本当によく分かった。
副理事長は対面を守れてうれしそうに「こうたり」のイギリス行きを華々しく発表した。
「こうたり」本人も新しい目標に、私のことなど忘れたように、うれしそうに挨拶などして壮行会が行われたらしい。
もちろん、私もありさも出席などしなかったが。