かくれんぼ 18
「申し訳ありません……」
老婦人がまた頭を下げる。
この人、本当に悪いと思ってるの?
頭を下げたら全部許してもらえると思ってるんじゃないの?
段々とそんな気がしてきた。
「そうですね、まずそちらにあるこの子と、それから私も一緒に入ってたら写真やらデータ、全部消去して下さい。それから、もう二度と顔を見せないと念書を書いてもらって、それから、今の家も住んでられないからどこかに新しく家を借りたり引っ越す費用も」
ありさが一気にそう言って一息ついてから、
「あ、慰謝料もいるよね」
こちらに向いて確認を取る。
「いや、そこまでは」
「あんた、何言ってんの!」
今度は私に向いて噛み付いてくる。
「ちょっとでも情報残してたらそこからまた追っかけられるかも知れないんだよ? そうだ、大学もどっか行ってください。頭いいんでしょ? 外国でもなんでも行けばいいじゃないですか」
無茶苦茶言うと思ったが、確かにそのぐらいしてほしいかも知れない。
私が不快な思いをしたのはたった数日だ。だが本当は、その前から何ヶ月もじっと見張られていたらしい。全然気が付いていなかったが。
「今まで」のことは知らなかったで済むが「これから」のことが大事なのだ。
「うん、ほんと、ありさが言う通りだと思う」
私は素直に認めた。
「とにかく、一切関わりを持ちたくありません。たまたま今回のことで見張られてたのが分かったんですけど、知らなかったらこの先何年も何年も嫌な思いをしてたかも知れません。それを思うと本当に怖いです」
できるだけ感情を交えずに言う。
「だからさっきありさが言ったこと、やっぱりあれは必要だなと思いました。本当は、全部私の記憶を消してほしいです」
本心だ。
「世の中には何年も何年も追いかけられて、それで最後には殺されてしまったり、そんな人もいるとテレビのニュースなんかで見ることがあります。よかったです、早く気がついて。そこまでのことになる前で。私だけじゃなく、そちらの息子さんも。傷が深くなる前に気がついてよかった、本当に」
思うことは言ってしまった方がいい。
「どうして私なんかにそんな風にしつこく思ったのか知りませんが、もう絶対に近づかないと約束してください。そして姿を消してください、お願いします」
それだけ言って私も頭を下げた。
本心からのお願いだからだ。
「分かりました……」
老婦人は弱くそう答えると、
「それでも、もしかして本当なら、こんないいお嬢さんならと思ったもので……本当にごめんなさい」
そう言ってまた頭を下げた。